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第44話 「偶然、ふたりきり」
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その日、
教室に忘れ物を取りに戻ったのは、私だけじゃなかった。
ドアを開けた瞬間、
中に彼がいた。
誰もいない教室。
夕方の光。
乾いた黒板消しのにおい。
「……あ。」
彼も、
私に気づいて、
小さく声を漏らした。
私は、
何も言えずに立ち尽くした。
彼は、
机に置きっぱなしだったジャージをつかみながら、
にかっと笑った。
「忘れもん?」
私は、
うなずいた。
声が出なかった。
心臓が、
耳の奥でバクバクとうるさかった。
たった二人きり。
教室に、
私と彼だけ。
その事実だけで、
頭の中が真っ白になった。
「オレも。」
彼が、
ジャージを振りながら言った。
そんな、何でもない言葉。
何でもない仕草。
なのに、
私は、
制服の袖のなかで手をぎゅっと握りしめた。
「じゃあな。」
彼は、
あっさりとそう言って、
廊下に出ていった。
私は、
その背中を見送りながら、
しばらく教室に立ち尽くしていた。
何も起こらなかった。
名前を呼ばれることも。
何か特別なことが起きるわけでもない。
ただ、
教室で、
たった数秒間、
彼とふたりきりになっただけ。
でも。
私にとっては、
それだけで十分だった。
胸の奥に、
あたたかい光が灯った。
今日、私は、
彼と、
同じ空気を吸った。
それだけで、
今日一日が、
少しだけ誇らしくなった。
帰り道。
鞄をぎゅっと握りしめながら、
私は静かに微笑んだ。
たぶん、
彼はもう忘れてしまうだろう。
でも、
私はきっと、
この瞬間を、
ずっと覚えている。
初恋って、
そういうものなのかもしれない。
──つづく。
教室に忘れ物を取りに戻ったのは、私だけじゃなかった。
ドアを開けた瞬間、
中に彼がいた。
誰もいない教室。
夕方の光。
乾いた黒板消しのにおい。
「……あ。」
彼も、
私に気づいて、
小さく声を漏らした。
私は、
何も言えずに立ち尽くした。
彼は、
机に置きっぱなしだったジャージをつかみながら、
にかっと笑った。
「忘れもん?」
私は、
うなずいた。
声が出なかった。
心臓が、
耳の奥でバクバクとうるさかった。
たった二人きり。
教室に、
私と彼だけ。
その事実だけで、
頭の中が真っ白になった。
「オレも。」
彼が、
ジャージを振りながら言った。
そんな、何でもない言葉。
何でもない仕草。
なのに、
私は、
制服の袖のなかで手をぎゅっと握りしめた。
「じゃあな。」
彼は、
あっさりとそう言って、
廊下に出ていった。
私は、
その背中を見送りながら、
しばらく教室に立ち尽くしていた。
何も起こらなかった。
名前を呼ばれることも。
何か特別なことが起きるわけでもない。
ただ、
教室で、
たった数秒間、
彼とふたりきりになっただけ。
でも。
私にとっては、
それだけで十分だった。
胸の奥に、
あたたかい光が灯った。
今日、私は、
彼と、
同じ空気を吸った。
それだけで、
今日一日が、
少しだけ誇らしくなった。
帰り道。
鞄をぎゅっと握りしめながら、
私は静かに微笑んだ。
たぶん、
彼はもう忘れてしまうだろう。
でも、
私はきっと、
この瞬間を、
ずっと覚えている。
初恋って、
そういうものなのかもしれない。
──つづく。
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