壊れて、笑って、生きていく③──それでも、笑われたかった。

nana

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いくらでもない私

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翌週も、
私は同じホテルに呼ばれた。

顔ぶれは変わらなかった。
ユウヤ、
そしていつもの主友たち。

部屋に入った瞬間、
テーブルの上に見えたホワイトボードには、
新しい文字が書かれていた。

『ナナ オークション開催中♡』

横には、
ふざけた感じで小さな鐘が置かれていた。

私は、
一瞬、身体がこわばった。

でもすぐに、
笑った。

「今日も、ナナの芸、よろしくお願いします♡」

裸になり、
首にリボンを巻いて、
四つん這いでお辞儀をした。

ユウヤが音頭を取った。

「じゃあスタートなー!
 今日のナナちゃん、最初いくらから?」

「0円からでw」

誰かがふざけて言った。

爆笑。

私は、
笑い声に包まれながら、
手と膝を床につけ、
笑顔を貼り付けた。

「じゃあ、10円から!」

「20円!」

「35円いった!」

「40!ナナ40円!」

男たちの声が飛び交った。
ビール片手に、
冗談交じりに。
でもどこか本気みたいに。

私は、
四つん這いのまま、
顔を上げた。

「どなたに落札されるか、
 ドキドキしてまーす♡」

自分で言いながら、
吐きそうだった。

でも、
やめられなかった。

最終的に、
ユウヤが、
指を鳴らして宣言した。

「はい!落札~!」

『落札者:カズヤくん 金額:50円』

ホワイトボードに、
マジックでそう書かれた。

カズヤが、
ビールを片手に近づいてきた。

「ナナちゃん、よろしくね♡」

私は、
首につけたリボンを持ち上げて見せた。

「はい♡
 ご指名ありがとうございまーす♡」

カズヤは、
私のリボンを軽く引っ張った。

「ほら、今日から50円の女やでw」

みんなが笑った。

私も、
笑った。

顔が引きつりながら、
涙がこぼれないように、
必死に笑った。

その夜、
カズヤに命じられるまま、
私はありとあらゆる芸をした。

🔹足を舐める。
🔹床に這って名前を呼ぶ。
🔹飲み残しのビールをすすって乾杯する。

それはもう、
“芸”ではなかった。

ただの、
見世物だった。

夜明け前、
私はまた、ソファに転がった。

首のリボンはよれよれで、
身体中、どこもかしこもヒリヒリしていた。

それでも、
私は笑った。

「ナナ、今日も頑張ったね♡」

誰にも言われなかったから、
自分で自分に言った。

スマホには、
主からのメッセージは、
もう二度と来なかった。

代わりに、
ユウヤからまた誘いが入っていた。

『次、オークション形式じゃなくて“レンタル”な♡』

私は、
ためらわずに返信した。

「行く♡」

いくらだってよかった。
いくらにもならなくたって、よかった。

誰かに笑われて、
誰かに求められて、
誰かの持ち物になれるなら。

私は今日も、
リボンを首に巻いて、
笑いに行く。

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