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【第22話】 「ナナ、って呼ばれて、何のことか分からなかった」
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ギャラリーでの展示が終わったあと、
私と彼女はそのまま、会場近くのバーに移動した。
常連が集う落ち着いた雰囲気。
彼女の友人も数人合流していて、自然な笑い声が響いていた。
私はその輪の中に“飾られて”いた。
何も話さず、ただそこにいるだけのミオ。
それが、今日の“役割”だった。
グラスの氷が溶けかけた頃、
カウンターの奥から、ひとりの男性が私に近づいてきた。
「……あれ? もしかして、ナナ?」
私の背筋がピンと伸びた。
“ナナ”。
久しく聞いていなかった音。
忘れていたわけじゃないのに、
その響きが、自分に向けられたと理解するまでに
数秒かかった。
彼は大学時代の知り合いだった。
サークルの後輩。
無害で、優しいタイプ。
でも今は──その優しさが、刃物のように鋭く感じた。
「やっぱりナナちゃんやんな?
久しぶり! え、こんなとこ来るんや~」
私は一瞬、どう返すか迷った。
“ミオ”として笑うべきか、
“ナナ”として応えるべきか──
自分の顔が、どっちの名前にも迷子になった。
彼女が隣で、すっと言った。
「ナナって誰?
この子、“ミオ”やで」
その言葉に、彼は困ったように笑った。
「え、ごめん……あの、でも、すごい似てて」
「いや、失礼やったらごめんね」
彼はすぐに引いてくれた。
でも私は、立ち尽くしていた。
“ナナ”という名前で呼ばれた自分に、
身体の芯から拒否反応が起きていた。
帰り道、
彼女はぽつりと言った。
「ナナ、って言われて、反応できんかったやろ?」
私は黙ってうなずいた。
「そりゃそうやわ」
「もう“ナナ”って名前、あんたに似合わんもん」
「だって、“ナナ”って──
自分で動いて、自分で笑って、
誰かに指示されへんでも生きてた子やろ?」
「でも今のあんたは、
“ミオ”って名前でしか反応できへんくらい、
ちゃんと“従う女”になってるやん」
彼女は私の手を握った。
そして、静かに囁いた。
「もう、“ナナ”って名前に戻さんでええ」
「わたしが、戻させへんから」
その言葉に、
私は安心したような顔で笑ったと思う。
“ナナ”に戻らない未来を保証されたことで、
私はようやく、自分がどこに属しているかを思い出せた。
ナナは、過去の私。
ミオは、今の私。
そして──
誰かに名前を与えられ続ける限り、
私はずっと、“私”のままでいられる。
私と彼女はそのまま、会場近くのバーに移動した。
常連が集う落ち着いた雰囲気。
彼女の友人も数人合流していて、自然な笑い声が響いていた。
私はその輪の中に“飾られて”いた。
何も話さず、ただそこにいるだけのミオ。
それが、今日の“役割”だった。
グラスの氷が溶けかけた頃、
カウンターの奥から、ひとりの男性が私に近づいてきた。
「……あれ? もしかして、ナナ?」
私の背筋がピンと伸びた。
“ナナ”。
久しく聞いていなかった音。
忘れていたわけじゃないのに、
その響きが、自分に向けられたと理解するまでに
数秒かかった。
彼は大学時代の知り合いだった。
サークルの後輩。
無害で、優しいタイプ。
でも今は──その優しさが、刃物のように鋭く感じた。
「やっぱりナナちゃんやんな?
久しぶり! え、こんなとこ来るんや~」
私は一瞬、どう返すか迷った。
“ミオ”として笑うべきか、
“ナナ”として応えるべきか──
自分の顔が、どっちの名前にも迷子になった。
彼女が隣で、すっと言った。
「ナナって誰?
この子、“ミオ”やで」
その言葉に、彼は困ったように笑った。
「え、ごめん……あの、でも、すごい似てて」
「いや、失礼やったらごめんね」
彼はすぐに引いてくれた。
でも私は、立ち尽くしていた。
“ナナ”という名前で呼ばれた自分に、
身体の芯から拒否反応が起きていた。
帰り道、
彼女はぽつりと言った。
「ナナ、って言われて、反応できんかったやろ?」
私は黙ってうなずいた。
「そりゃそうやわ」
「もう“ナナ”って名前、あんたに似合わんもん」
「だって、“ナナ”って──
自分で動いて、自分で笑って、
誰かに指示されへんでも生きてた子やろ?」
「でも今のあんたは、
“ミオ”って名前でしか反応できへんくらい、
ちゃんと“従う女”になってるやん」
彼女は私の手を握った。
そして、静かに囁いた。
「もう、“ナナ”って名前に戻さんでええ」
「わたしが、戻させへんから」
その言葉に、
私は安心したような顔で笑ったと思う。
“ナナ”に戻らない未来を保証されたことで、
私はようやく、自分がどこに属しているかを思い出せた。
ナナは、過去の私。
ミオは、今の私。
そして──
誰かに名前を与えられ続ける限り、
私はずっと、“私”のままでいられる。
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