ナナはなぜ壊れたのか⑤——誰も知らない場所で、また堕ちていく

nana

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第165話「命令が来る、その瞬間を待っていた」

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午後の講義室。

私は、
教科書を開いたまま、
ぼんやりと窓の外を眺めていた。

教授の声は、
もう耳に入っていなかった。



(……何してんやろ)

(ナナ、……ここにいて、意味あるんかな)

ただ時間を埋めてるだけだった。

誰にもバレないように。
普通の大学生を演じながら。

でも、
心の中では。

(早く、……命令、来てほしい)

(ナナに、次の「壊れる場所」教えてほしい)

そればかりを、考えていた。



講義が終わると、
私は真っ先にスマホを開いた。

通知は、なかった。



(……まだ、来てへん)

小さく息をつく。

鞄を肩にかけて、
キャンパスの中を歩く。

周りには、
笑い声があふれていた。

でも、
私の耳には何も届かなかった。



(ナナ、ほんまは……)

(もう、普通に戻りたいなんて思ってへん)

(もっと、もっと……堕ちたい)



マンションに帰り、
カーテンを閉めた薄暗い部屋。

ソファに倒れ込む。

スマホを胸に抱えたまま、
目を閉じる。

(来い……来て……)

(次の命令を……)



そのときだった。

ブルッ──

スマホが震えた。



飛び起きて、画面を開く。

そこには、
あの男からの短いメッセージがあった。

「次、準備しろ。」

「ナナを、“本物”にしてやる。」



(……“本物”?)

意味は、
わからなかった。

でも、
胸の奥が、
ぞわぞわと熱くなった。



「明日、指示を送る。」

「絶対に逃げるな。」



私は、
小さく震えながら、
スマホを握りしめた。

(ナナ、……壊れるんや)

(ほんまに、壊されるんや)



でも──

怖さよりも。

嬉しかった。

待ち望んでいた。

この瞬間を。



私は、
ベッドに潜り込みながら、
静かに目を閉じた。

明日、
ナナの世界は、
またひとつ壊される。

そのことが、
たまらなく、楽しみだった。



──つづく。
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