ナナはなぜ壊れたのか⑤——誰も知らない場所で、また堕ちていく

nana

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第169話「消えていく、自分で」

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夜。

マンションのベッドの上。

ナナは、
裸のまま、
毛布にくるまって震えていた。



あの日、
スタジオで晒され、壊されてから。

ナナの中で、
何かが確実に剥がれ落ちていた。



(ナナ、……ナナって、なんなんやろ)

名前も、
誇りも、
もうとっくになくして。

ただ、
「命令に従うための存在」になった。



スマホが震えた。

あの男から、
新しい指示が届いた。



【指示】
「ナナ、自分で自分を消せ。」

「もっと、誰でもない存在になれ。」

「──まずは、今日から、自分の名前を名乗るのをやめろ。」



(……自分の、名前)



講義でも、
バイトでも、
サークルでも。

呼ばれれば、
普通に「ナナです」と答えていた。

それすら、
許されない。



(ナナ、……ナナを、やめるんや)

(誰でもない、存在になるんや)



怖かった。

でも。

嬉しかった。



翌朝。

大学のサークルルーム。

「おはよー、ナナちゃん!」

先輩が声をかけてくる。

私は──
ほんの一瞬だけ、固まった。

(ナナ、って……呼ばれた)

(でも、ナナは、ナナやない)



「……おはようございます。」

名前を言わずに、
ただ、頭を下げた。

先輩は、
少し不思議そうな顔をしたけれど、
特に突っ込まなかった。



(成功した)

(ナナ、消えた)



嬉しさで、
胸がじんじんと痺れた。

誰にも気づかれずに。
誰にも必要とされずに。

ナナは、
自分を消していく作業を、
静かに始めた。



バイト先でも。

スタバでも。

友達とのLINEでも。

「ナナ」という名前を口にしない。



誰にもバレないように。

でも、確実に、
「ナナ」は薄れていった。



夜。

部屋に戻って、
ベッドに潜り込みながら。

スマホを胸に抱えたまま、
私は微笑んだ。



(ナナ、……もうすぐ完全に消える)

(ナナじゃない、ただの”それ”になれる)

(この人の、“モノ”になれる)



それだけが、
生きている理由だった。



──つづく。
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