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短編1
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頬を撫でる風はもう冷たさをなくし、暖かな陽射しが眠気を誘う春の庭で
クラリスは侍女の入れたアップルティーを飲みながら物思いに耽っていた。
先日学園を卒業し、明日はついに結婚式、
思い出のあるこの屋敷での生活も今日が最後となり当分の間は里帰りも出来ないだろう。
警護の関係もあり、屋敷のもので会うのが最後のものもいる。
クラリスは国唯一の公爵令嬢として産まれ、花よ蝶よと育てられ、幼い頃に王太子の婚約者に選ばれた。
長い婚約者生活でも王太子との仲は別段深まることも無かったが、貴族の政略結婚などこんなものかと割り切って王太子妃教育へと全力を注いだ。
そんな人生が変わったのは学園へ入学したその日からだった。
校門の前で突然見知らぬ女生徒に土下座されたのだ。
周りの群衆からはワガママ姫が今度は何をさせているんだなどと声が聞こえてきたが、クラリスは別段気にすることはなかった、高位貴族として序列を守ることは大切だと教わっていたし、自身も尊敬する両親からの血筋の産まれに誇りを持つべきと考えていたから。
しかし突飛な行動が気にならない訳ではなく、従僕に起き上がらせたその女生徒に行動の理由を尋ねたが、
「本物のクラリスたんだ~!!!!え~ん!!!
どうか私をクラリス様の侍女にしてくださいませ!!!必ずあなたを幸せにしてみせます!」
などと宣い、側にいた従僕だけでなく周りの生徒達をも震撼させた。
今考えてもほんの気まぐれだったとしか言えないが、きっとクラリスは毎日の同じ繰り返しにどこか飽き飽きしていたのだろう、その女生徒を連れて帰り侍女にすることにした。
それからはとんでもない毎日の連続だった。
尊敬はしていたが、忙しい両親とはコミニケーションを取ることは叶わず寂しさを感じていたが、
侍女の謎の情報網により、お父様は朝食前に庭に出て鍛錬を必ずしているらしく、そちらへタオルを持って顔を出してみる事を勧められた。
お母様へは直接話すより手紙を書いてみてはどうかと言われ、刺繍したハンカチと共に部屋へ届けた。
すると両親共にクラリスが王太子妃教育に忙しいと思っていて邪魔しないようにしていただけで本当は交流を求めていたことを知り、それから毎日、朝、夕と食事を一緒に取れるようになり会話が増え、2人の考えや様々なことを知ることが出来たのだ。
両親は政略結婚でなく、お父様がお母様を愛して結婚を申し込んだことを知れた日は感動して泣いてしまい、両親と使用人全員がなぜか私より泣いていた。
人を愛することの大切さを教わり、自分も本当は愛のある結婚に憧れているということにも気付けた。
しかしクラリスの立場ではその様なことだけを追いかけて結婚を決めることなど出来ないだろう、でもせめてもう少し王太子との関係性を見直すべきかも知れないと思えたのもこの頃からだったと思う。
学園に入って半年後、1人の生徒がいじめに合っている、その犯人がクラリスだという噂がたった。
根拠の何もない話で気にすることではないかと、クラリスは過ごしていたが、ある日生徒用の食堂で自身の婚約者である王太子にそのことを咎められた。
生徒の証言のみを鵜呑みにし、こちらの話は聞く気すらない王太子に、ついこれからの自身の結婚生活を憂いてしまう。
反論する気も無くなってきたところで、叫びながら王太子とクラリスの間に飛び込んできたものがいた。
「そうはじっちゃんのナニカケテ、頭脳は大人の私に任せてくださいませ!!!」
大量のメモと大勢の証人を連れてきた侍女が、一つ一つ丁寧にいじめられているという生徒の矛盾をついてゆく。
「クラリスたんに勝てないからって嘘やごまかしで追い詰めようなどそうは問屋がおろさせねー!」
時々侍女の口から出ているクラリスたんとはやはり自身のことなのだろうかなどと考えているうちに周囲の誤解は解け、件の生徒は退学が決まり、王太子からは謝罪を受けた。
王太子は政略結婚ではなくクラリスのワガママから決まった結婚だと勘違いしていたらしく、反対派閥の令息からは、クラリスの成績は取り巻きにやらせた課題の評価だと吹き込まれ、
王太子妃を狙う令嬢からは、身分を笠に来て傍若無人を繰り返しているなどと伝え聞かされており、
トドメとばかりにいじめの噂を聞き、やりかねないと思ってしまったそうだ。
正直愛のある結婚に興味が出てきたクラリスはこれ幸いと婚約破棄などを提案してみたが、なぜか耳まで真っ赤な王太子にもう一度チャンスが欲しいと懇願されてしまい、貸ひとつとして許すことにした。
それからの学園生活も波瀾万丈といっていいほどの出来事が繰り返されたと思う。
野外演習でドラゴンが攻めてきたり、他国の王子から求婚されたり、神殿が王太子の暗殺を企てたり、、、
とても充実した3年間だった。
そんなことを思い出しているうちに空も段々と赤らみ、春とはいえいつまでもこうしてはいられないと、そろそろ室内に戻ろうとした時、
そばにいた侍女がアップルティーの入ったティーポットを抱き抱えながら近づいてきた。
「クラリス様、ついに明日ご結婚ですね、おめでとうございます。
嬉しくもあり、そしてもうどのスチルも見れないことが残念すぎますが、この流れに持っていけた自分を褒めたいです。
殿下はもう今でこそクラリス様にベタ惚れ、完全攻略されましたが、昔は勘違い野郎甚だしく、
神殿ルートのために暗殺されかけた時はちょっとザマァと思っておりました。
しかし、そのせいで警備体制を見直すこととなり、クラリス様はお育ちになられたご実家からの使用人はお一人も連れてゆけないと伺いました。
私が幸せにしてあげると決意しておりました、大好きなクラリスたんは私が幸せにしてあげたかった!!!
でももう明日からは殿下に幸せにしてもらって下さい、きっともう大丈夫だから。
お側に入れた3年は人生で最良の3年でございました。ありがとうございました!」
一気に捲し立てた侍女は、今度は立ちながら最初に会った時の様に頭を下げてきた。
この頭のてっぺんを見てからクラリスの運命は変わった。
きっとつまらない人生だと思っていた、でもそれで不満を持っていなかった、いやないと思っていた。
全てを気付かせ全てを導いてくれたこの侍女はもうクラリスとってかけがえのない存在となっている。
カップを置きゆっくりと侍女に向き合ったクラリスは言った。
「わたくしはおまえをここに置いてゆくつもりはなくてよ。
わたくし、王太子殿下にはいじめの冤罪の件で貸しがございますの、ですので生家からひとり侍女を連れてくることを認めて頂きましたわ。
城へ行こうが他国へ行こうが、側を離れるなどわたくしは許した覚えはありません。」
それを聞いた侍女は喜んでるのかなんなのか、手で顔を覆いながらしゃがみ込んで泣き叫んでいる。
「うぅ~クラリスたんのツンデレ頂きましたデュフデュフデュフ!!!」
なんにせよクラリスは侍女が入れたこのアップルティーがこれからも飲めるという事が、幸せなのかもしれないと思うのだった。
クラリスは侍女の入れたアップルティーを飲みながら物思いに耽っていた。
先日学園を卒業し、明日はついに結婚式、
思い出のあるこの屋敷での生活も今日が最後となり当分の間は里帰りも出来ないだろう。
警護の関係もあり、屋敷のもので会うのが最後のものもいる。
クラリスは国唯一の公爵令嬢として産まれ、花よ蝶よと育てられ、幼い頃に王太子の婚約者に選ばれた。
長い婚約者生活でも王太子との仲は別段深まることも無かったが、貴族の政略結婚などこんなものかと割り切って王太子妃教育へと全力を注いだ。
そんな人生が変わったのは学園へ入学したその日からだった。
校門の前で突然見知らぬ女生徒に土下座されたのだ。
周りの群衆からはワガママ姫が今度は何をさせているんだなどと声が聞こえてきたが、クラリスは別段気にすることはなかった、高位貴族として序列を守ることは大切だと教わっていたし、自身も尊敬する両親からの血筋の産まれに誇りを持つべきと考えていたから。
しかし突飛な行動が気にならない訳ではなく、従僕に起き上がらせたその女生徒に行動の理由を尋ねたが、
「本物のクラリスたんだ~!!!!え~ん!!!
どうか私をクラリス様の侍女にしてくださいませ!!!必ずあなたを幸せにしてみせます!」
などと宣い、側にいた従僕だけでなく周りの生徒達をも震撼させた。
今考えてもほんの気まぐれだったとしか言えないが、きっとクラリスは毎日の同じ繰り返しにどこか飽き飽きしていたのだろう、その女生徒を連れて帰り侍女にすることにした。
それからはとんでもない毎日の連続だった。
尊敬はしていたが、忙しい両親とはコミニケーションを取ることは叶わず寂しさを感じていたが、
侍女の謎の情報網により、お父様は朝食前に庭に出て鍛錬を必ずしているらしく、そちらへタオルを持って顔を出してみる事を勧められた。
お母様へは直接話すより手紙を書いてみてはどうかと言われ、刺繍したハンカチと共に部屋へ届けた。
すると両親共にクラリスが王太子妃教育に忙しいと思っていて邪魔しないようにしていただけで本当は交流を求めていたことを知り、それから毎日、朝、夕と食事を一緒に取れるようになり会話が増え、2人の考えや様々なことを知ることが出来たのだ。
両親は政略結婚でなく、お父様がお母様を愛して結婚を申し込んだことを知れた日は感動して泣いてしまい、両親と使用人全員がなぜか私より泣いていた。
人を愛することの大切さを教わり、自分も本当は愛のある結婚に憧れているということにも気付けた。
しかしクラリスの立場ではその様なことだけを追いかけて結婚を決めることなど出来ないだろう、でもせめてもう少し王太子との関係性を見直すべきかも知れないと思えたのもこの頃からだったと思う。
学園に入って半年後、1人の生徒がいじめに合っている、その犯人がクラリスだという噂がたった。
根拠の何もない話で気にすることではないかと、クラリスは過ごしていたが、ある日生徒用の食堂で自身の婚約者である王太子にそのことを咎められた。
生徒の証言のみを鵜呑みにし、こちらの話は聞く気すらない王太子に、ついこれからの自身の結婚生活を憂いてしまう。
反論する気も無くなってきたところで、叫びながら王太子とクラリスの間に飛び込んできたものがいた。
「そうはじっちゃんのナニカケテ、頭脳は大人の私に任せてくださいませ!!!」
大量のメモと大勢の証人を連れてきた侍女が、一つ一つ丁寧にいじめられているという生徒の矛盾をついてゆく。
「クラリスたんに勝てないからって嘘やごまかしで追い詰めようなどそうは問屋がおろさせねー!」
時々侍女の口から出ているクラリスたんとはやはり自身のことなのだろうかなどと考えているうちに周囲の誤解は解け、件の生徒は退学が決まり、王太子からは謝罪を受けた。
王太子は政略結婚ではなくクラリスのワガママから決まった結婚だと勘違いしていたらしく、反対派閥の令息からは、クラリスの成績は取り巻きにやらせた課題の評価だと吹き込まれ、
王太子妃を狙う令嬢からは、身分を笠に来て傍若無人を繰り返しているなどと伝え聞かされており、
トドメとばかりにいじめの噂を聞き、やりかねないと思ってしまったそうだ。
正直愛のある結婚に興味が出てきたクラリスはこれ幸いと婚約破棄などを提案してみたが、なぜか耳まで真っ赤な王太子にもう一度チャンスが欲しいと懇願されてしまい、貸ひとつとして許すことにした。
それからの学園生活も波瀾万丈といっていいほどの出来事が繰り返されたと思う。
野外演習でドラゴンが攻めてきたり、他国の王子から求婚されたり、神殿が王太子の暗殺を企てたり、、、
とても充実した3年間だった。
そんなことを思い出しているうちに空も段々と赤らみ、春とはいえいつまでもこうしてはいられないと、そろそろ室内に戻ろうとした時、
そばにいた侍女がアップルティーの入ったティーポットを抱き抱えながら近づいてきた。
「クラリス様、ついに明日ご結婚ですね、おめでとうございます。
嬉しくもあり、そしてもうどのスチルも見れないことが残念すぎますが、この流れに持っていけた自分を褒めたいです。
殿下はもう今でこそクラリス様にベタ惚れ、完全攻略されましたが、昔は勘違い野郎甚だしく、
神殿ルートのために暗殺されかけた時はちょっとザマァと思っておりました。
しかし、そのせいで警備体制を見直すこととなり、クラリス様はお育ちになられたご実家からの使用人はお一人も連れてゆけないと伺いました。
私が幸せにしてあげると決意しておりました、大好きなクラリスたんは私が幸せにしてあげたかった!!!
でももう明日からは殿下に幸せにしてもらって下さい、きっともう大丈夫だから。
お側に入れた3年は人生で最良の3年でございました。ありがとうございました!」
一気に捲し立てた侍女は、今度は立ちながら最初に会った時の様に頭を下げてきた。
この頭のてっぺんを見てからクラリスの運命は変わった。
きっとつまらない人生だと思っていた、でもそれで不満を持っていなかった、いやないと思っていた。
全てを気付かせ全てを導いてくれたこの侍女はもうクラリスとってかけがえのない存在となっている。
カップを置きゆっくりと侍女に向き合ったクラリスは言った。
「わたくしはおまえをここに置いてゆくつもりはなくてよ。
わたくし、王太子殿下にはいじめの冤罪の件で貸しがございますの、ですので生家からひとり侍女を連れてくることを認めて頂きましたわ。
城へ行こうが他国へ行こうが、側を離れるなどわたくしは許した覚えはありません。」
それを聞いた侍女は喜んでるのかなんなのか、手で顔を覆いながらしゃがみ込んで泣き叫んでいる。
「うぅ~クラリスたんのツンデレ頂きましたデュフデュフデュフ!!!」
なんにせよクラリスは侍女が入れたこのアップルティーがこれからも飲めるという事が、幸せなのかもしれないと思うのだった。
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いいお話なのに、最後の侍女がキモすぎて素で「キッショ」と声が出た笑
デュフが出た〜(@_@;)