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努力をバカにされたので
しおりを挟むこの日、100年の歴史を持つチャオコーリー王国が滅亡した。
物語は一年前に遡る。
「アリス、君との婚約は破棄させてもらう!」
本日の薄暗い曇り空は、そこに住まう者達の気分をもなんだかどんより悪くさせる。
そんな中、学園の中庭で、この国チャオコーリー王国の第一王子が自身の婚約者に破棄を伝えた。
宣言されたアリスは、驚いた表情はしてみせたものの、実は不思議な気持ちはなかった。
幼い頃に決まった婚約だったが、ここ数年は同じ学園に通っていてもほぼ交流を持っていなかったし、第一王子が何人かの女生徒を侍らせている噂も聞こえていたからだ。
それでも一応は抵抗する様な形には見せてあげないとならないだろう、どんなに愚かな相手だと思っていても王族への不敬罪などバカげた罪に問われたくなかったから。
しかしアリスが口を開く前に第一王子が荒げた声で言葉を続ける。
「お前の様な可愛げもなければ教養のカケラもない女がこの俺と国を背負っていこうなど烏滸がましすぎるだろう!
何かと言えば努力努力と、己の才能の無さを補う為に時間を食い潰す言い訳を、正当化して許されようなどと愚かな女だ!」
その言葉を聞いたアリスは雷に撃たれた様な衝撃を受けた。
努力
それはアリスにとって自らの人生を表すに相応しい言葉だった。
アリスは幼い頃に第一王子の婚約者として選ばれた、それは普通の政略結婚とは少し違った選ばれ方だった。
王族は近年、子供がなかなか出来なかったり死産が続いたりしてしまう事が多く問題視されていた。
どうやら近しい親族との婚姻が続いた事が原因とわかるやいなや、王家は近親交配を避ける為に二代ほど前からは他国の王女を娶ったりしてなんとか血を濃くなりすぎない様に、しかし途切れさせないように、気をつけるようになっていた。
そんな中、今代の王はどうしても幼い頃から共に育った従姉妹との婚姻を望み、まわりの反対を押し切り実行してしまったのだ。
そして産まれた子供は、体も頭も弱い第一王子ただ1人。
近親交配がすべての原因とは言えなかったが、この唯一の正統な血筋を途絶えさせない為にもなるべく血の遠い、かといって身分にも相応しい、そして愚物を制御できる愛国心がある婚約者が、第一王子には必要だった。
古くからの王家の派閥、何代か女性しか産まれず王女の降嫁も無かった上に、今代は隣国の王族を娶っていたアリスの家は渡りに船、最適な唯一のお相手として選ばれてしまう。
ほぼ血以外を期待されていない王子の為に、アリスはありとあらゆる教養を身につけることを求められた。
王や王妃も、可愛い息子ではあるが将来は種馬としての価値しか見出せないだろうということは理解していたので、ほとんどの権限はアリスに与えており、王太子の公務なども10歳の頃からアリスがこなしていた、表向きは第一王子がやっていることにしていたが。
普通の子供が過ごせる様な幼少期をアリスは過ごせなかった、でもアリスは聡明な子供だったし、両親も結婚後もアリスにそれなりに権限を認めさせることを婚約の契約書に盛り込んで交渉してくれたので未来も暗い事ばかりではないと思えた。
国を良くし、次代に繋ぐ事を自分の生きる目標とし、アリスは努力し続ける。
辛くなかったと言えば嘘になる、しかし努力はアリスに自信をつけ、美しさをつけ、賢さをつけてくれた。
そんな努力を、この怠惰の代表の様な男がたった今バカにしてきたのだ。
多少愚かなことは想定済みだったし、王族とはいえ何の権限も持たされていないことは知っていたので、この婚約破棄が罷り通ることなどはありえない。
しかしこのモノに、この国に、アリスの努力を捧げる価値はあるのだろうか、
そう気付いてしまった。
そうなればこのまま愚物の言葉を大人しく聞いておく必要などない、まわりに見物客もいることだしこのまま婚約破棄を進めてしまうこととしよう。
「殿下のお申し出、しかと受けたまわりました。」
アリスはそう伝えると、満面の笑顔でカーテシーと共に去っていった。
残された第一王子と生徒達は、その美しい姿勢のカーテシーと笑顔に驚き、誰も一言も発することが出来ないままその場に立ち尽くす。
しばらくすると曇り空からは大きな雨粒が溢れ始め、つられるようにやっと動き出した第一王子は、動物的感からなのか地を濡らす雨がなにか不幸なことの前触れの様な気がして身震いした。
しかし雨の冷えからだろうと思い直し、新しい婚約者は誰にしようかなどと考えながら校舎に入っていった。
アリスは自宅へ戻るとすぐ両親へ婚約破棄の件を伝えた。
「わたしは今まで努力してこの国のために頑張ってまいりました。
しかしあの愚か者の隣に立つためにこの努力を続ける事にはもう意義を見出せません。
申し訳ありませんが、私は隣国へでもまいりたいと思いますわ。」
母は隣国の王族の出だったので、その伝手でアリスは数日で隣国への引っ越しが決まった。
そして両親も静かに移住の計画を実行にうつし始めた。
アリスは隣国の言葉はもう完璧だったので
社交界事情、庶民の流行、貿易の流れなど持ち前の努力で学び尽くしていく。
隣国の王である叔父から城に呼び出されたのは、アリスが作った商会で孤児院やスラムの人々を雇用することにより治安が安定し、海の向こうの国から新たな鉱物の仕入れが決まりランク上の武器が作れる様になり、ドレスに使うレースを未亡人に編ませることで雇用を産み遺族年金が足りないとなることもなくなり、、、
とにかくありとあらゆる事が好転していた為、遅いくらいの呼び出しだった。
「我が国のため力を尽くしてくれること誠に感謝しておる。
なにか褒美を取らせようと思うが。」
隣の王族もどきとは違ったしっかりとした威厳に、叔父とはいえ恐ろしささえ感じる。
アリスは婚約破棄されたあの曇りの日から、ずっと計画していたことをついに実行へと移す為に答えた。
「ではひとつだけ、やりたいことがございます。」
晴れ渡る青空がどこまでも続くその日は、多くの民衆が広場には集まっていた。
広場の真ん中にはギロチンが用意され、その出番を今か今かと待ち侘びている。
処刑されるのはこの国の第一王子、敵国と通じ隣国への無茶な戦争を引き起こす所だったのを、クララの商会が情報を得て戦争を止めた。
王、王妃は第一王子の責任を取って離宮に生涯の幽閉が決まっている。
愚者は押さえつけられながらも口汚い言葉を止めようとしない。
そこへアリスがこの処刑の責任者として民主への挨拶に立った。
第一王子は最後の力を振り絞ったのか叫ぶ。
「この女は私に婚約破棄されて恨みに思ってこんなことをしかけたんだ!
わたしは無実だ!」
今更そんな嘘を誰が信じるのか、産まれた時からずっと愚かだとまわりから思われ、アリスが消えてからはアリスの功績を奪うことすら出来なくなりハリボテもとうに消えてなくなっている。
それに気付けないのも愚かなことだ。
もう見向きもしなくなったアリスへまだ第一王子は何う。
「待て、アリス!俺を恨んでこんなことをおこしたのか?!」
「いえ、あなたに任せていては母国に先はございませんでした。
民衆を守る為には一度解体してしまうのがはやかったので。
はっきりお伝えしますが、今も昔もあなたになにかの感情を持った事はございません。
その必要がない程に愚かだと思っておりました。
あなたにわたしの努力をバカにされた時に気付いたのです。
国に本当に血は必要か、必要なのは暮らす民とそれを支える為に働く貴族、私の努力はその為にこそ使うべきだと。
理解して頂こうとは思いません、ただ、退場していただきますわ、この国から。」
アリスの右手が真下へと振り下ろされ、それが合図となって鳥達が飛び立った。
アリスは隣国から第二王子を王配として迎え新たな王政を築いた。
その後も努力と改革を続け、この国は未来、100年どころか何百年も続く大国となった。
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