1 / 7
1:いきなり出産
しおりを挟む
さびい。猛吹雪の中、俺は仕事に出た。さびい。
俺もう四十路おっさんだから厳寒期は耐えれんのよ。
と、ぶちぶち文句言いながらも手早くソリの用意。
相棒の魔法動物にハーネスを装着する。
こいつの名前はオロン。オロンは変態。
手綱を引くだけで、「緊縛プレイおつ!」とかのたまう変態トナカイだ。
「はぁはぁ手綱がおマタに食い込んじゃううぅぅ」
「黙れ鹿野郎」なんて、いつもの応酬をしてから出発だ。
ソリには一応の暖房がついている。
起動までに時間がかかるオンボロだけどな。起動に時間かかるくせに、更にソリ内が適温になるまでにも、時間が掛かる。
それまでに凍えてるのも嫌だから、酒飲んで温まる。
懐からスキットル(携行飲料缶)を出して、ぐいっと煽った。
度数のキツイ蒸留酒が喉を心地良く焼いてくれる。
ぷはー生き返るぜ。体も温まってきた。
サンタ職に就いて20年くらいか。
ガチ寒い吹雪の中、俺は猛然と仕事をこなす。
仕事ってのはあれだ。
サンタだから、ほら、あれだ。
良い子にプレゼントフォーユーするやつだ。
一般的なサンタイメージだと、赤い服・白いもじゃヒゲ・丸眼鏡・赤鼻の腹出たふぉっふぉっふぉって笑う陽気なおじさんだろ。俺もそれだ。
腹出てないけどな。
ヒゲもじゃでもない。鼻の下と顎に無精ひげがあるくらいだ。
丸眼鏡もしてねえ。俺、目がいいんだ。
赤い服は着ている。
サンタ保存協力協同組合から支給されてるサンタ服は最高級のブランド服。
装備しているだけで、そこはかとなく体力を底上げし、極地寒冷仕様の生命維持装置も付いている。簡単にいうと、これを着ているだけで、あったかい。
ちゃんと空気も吸える。寒さで口や鼻の水分が凍ることがないのだ。
高性能なサンタ服。デザインも多数あって選べる。俺は裾が長いサーコート風のやつを選んで着用中だ。
んで、腹出てない。
これ重要なことだから二回言う。
サンタってのは苛酷な職業なんだ。
クリスマスシーズンともなると世界中を飛び回らなきゃならねえ。体力のいる職だ。
だから春夏なんかは山登ったり、遠泳したり、トライアスロンして体力をつけている。
おかげでアスリートなボディを手に入れた。腹なんか出ていない(三回目)
酒は好きだがビールは飲まないのでプリン体に好かれてもいないのだ。
俺の肉体は常に体脂肪率が一桁台。体力は備わったが寒さには弱いという、ちょっと矛盾した肉体なのである。
まあ、それでも支給品のソリには暖房あるし……欠点だらけだけど。
相棒の鹿オロンはそれなりに仕事するやつだし……性癖おかしいけど。
なんとかやっている。
今日でクリスマスも最終日。仕事納めだ。
ちゃっちゃっと世界中回って子供たちを笑顔にしてくるかね!
夜空をソリで飛翔する。
最新型サンタ専用トライディングソリはマッハ0.8で魔力を原動力にひた走る。
トナカイが引っ張っているのは、なんか見栄えがいいからってだけだ。
一件一件、丁寧に配る。
配達リストはソリ付属モニター画面に映し出されているから、それ通りに行く。
道順も最短ルートを提示してくれて、自動的に次の目的地へと連れて行ってくれる。
こういうところ、サンタ保存協力協同組合は頑張っていると思うね。
最後の一件を配り終えて、「早よしろ」と変態鹿オロンの手綱を力入れて引っ張る。
「ああん」とか気持ち悪い声を出すオロン。
声は気持ち悪いがスピードは上がった。やつも分かっているのだ。もう仕事は完了した。後は家に帰って仕事納めの祝杯して新年を迎えるだけということを。
意気揚々と家へと凱旋する。
誰かが待っている我が家ではないが、温かいペチカ(暖炉)の前で滋味深い琥珀色の酒を堪能したい。ささやかながら祝い用の熟成肉を引っ張り出してきて火で炙ろう。
その上にトロリ蕩けたチーズをかけて粗挽き胡椒をまぶすんだ。絶対うまいだろうが。
思い出すだけで涎が垂れてくる口元を舌で拭って、ポケットからまたスキットルを取り出し、中身を飲み干した。
蒸留酒が切れた。
意地汚く突き出した舌の上に、一滴だけポトリ。
それから何度振っても最後の一滴より多くの酒は落ちてこなかった。ちくしょお。もっと持ってくればよかった。酒がないと思うだけで、また寒さがぶり返した気がするぜ。
ぶるり。震えて手綱を握り締める。
ソリは我が家のある極北の大地へと近づいて行く。けれど、その途中で思わぬアクシデントが起こった。
「うああああ陣痛キタアアア」
突如、オロンが産気づいたんだ。
産気……――――て、はああ?!!!
お前、雄だろうが妊娠なんてありえんだろうがああああああ!
という意味のないつっこみはしない。
それよりも、「うーんうーんアハ~ンんぅ、あん、ああん……」と、陣痛なのに色っぽい声出すドM鹿オロンに、「キモイ声出すな魔法動物だから喋れるとかそんなメルヘンな設定いらねえんだよ」と遅ればせながらのつっこみをする方が大事だったからだ。
あと、この世界の魔法動物は、雌は勿論のこと雄でも妊娠可である。ファンタジーだな。
「うっ、うっ、でそう、でちゃううう」
「なんだよマジで産まれるのか?!」
雪の上で、じったんばったん暴れる妊婦もとい妊夫もとい妊鹿。
股の間から何か赤いものが覗いている。
────赤仔鹿じゃね?!
急いでオロンを担ぎ上げてソリへと乗せる。
見栄え重視ソリだから、オロンなんぞなくとも空を飛べる。
『妊娠中は高度飛行をお控え下さい』と大昔に読んだ飛行マニュアルを思い出すが、そういうのは丸無視。高速最短距離でソリ専用国道をかっ飛ばし、無事に我が家へと帰宅した。
*
「ホラナちゃんに種付けされちゃったんだな」
「ホラナちゃんって誰だ?」
「んーとぉ、マクタヌンさんとこの若いこ。持久力あって素晴らしい」
何が素晴らしいかは問い質さないでおこう。
はふ~ん なんて、満足気に溜息吐いてベッドに横たわる産後のオロンは人型だ。
魔法動物であるこいつは動物形態で仕事をし、普段は人の姿をとることが多い。
動物の時も綺麗なシルバーグレイな毛並みをしているのだが、人型でも煌めかしいストレート銀糸を胸の前に垂らして、なんだか婀娜っぽい色目遣いで俺の方見てる。
産後に色気放つこいつなんだろうな。鹿のくせに。
一方の俺は、産まれたてのバンビもとい仔鹿を産湯に浸している。
たらいに湯を張って、その中で血だけを流し落としてあげているのだ。
ふむ。こんなもんかなと洗い終わった仔鹿をタオル仕上げする。水分を含んで萎れてた毛並みだが、拭けば拭くほど、ふわっふわ、たんぽぽの綿毛みたいになった。
こいつもシルバー系か? 父親が誰だか分からん毛並みだな。
オロンが告げる父親らしきホラナは赤毛の若雄だそうだ。
赤毛要素皆無な仔鹿を見て思う。こいつ、ちゃんと認知されるのかな?と。
オロンにそのことを訊いてみる。
「ホラナちゃん、まだ下っ端で稼ぎないから子供いらなさそー」
「そうか。なら、マクタヌンと話するしかねえな。しっかし、あそこは既に何十匹もいるからな。たかが一匹と言われそうで怖えわ」
魔法動物を多数雇っているやつにありがちなのが、面倒見切れねえで産まれた仔を売るとか、ひでえと間引くやつもいるらしい。
マクタヌンが、そんなひでえやつじゃねえといいが。
なんせやつとの面識が薄いので何とも言えん。
命の問題もだが金の問題もある。
認知は無理にしても養育費はいただきてえもんだ。
こちとらそんな蓄えがあるわけでもねえ。俺の酒代をなめるなよ。
最低限の生活はサンタ保存協力協同組合で保証されてっけど、嗜好品は別なんだ。
自慢じゃねえが俺の酒代エンゲル係数まじやばいからな。
「ホラナちゃんの金玉もいで売り飛ばしてやろうかな。そしたら浮気もできないし」
「いい考えだ。魔法動物の睾丸は高値で取引されてる」
他にも角や爪、胆のうも薬になるから売れる。
マクタヌンに、ない袖は振れぬと言われたら問答無用で股間のブツをもぎ取ろう。
そう決意して、オロンの腕に洗い立ての小さな仔鹿を乗せた。
仔鹿はさっきまで「ぇふえっ、ぇふえぇっ」と、しきりに啼いていたが今は落ち着いている。
鼻をひくひく動かしオロンの脇のとこに擦りつけ行動。
――――これは、どういう意味があんだ?
「んー? あ、そっか、おっぱいか。こっち、こっちだよー」
仔鹿は本能的に美味しい匂いのするとこを探してたらしい。
脇もおっぱいと同じ匂いすんのか? 初耳だぜえ。
オロンが胸の方まで仔鹿の鼻を誘導させ、それに気づいた仔鹿はオロンの雄乳首を銜えた。
「ああん。この仔テクニシャ~ン」
授乳で欲情すんな変態鹿め。
仔鹿は本能のままにむしゃぶりついているだけだろう。
ちゅーちゅー吸ってお腹いっぱいになったら丸まって寝てしまった白い仔鹿バンビ。
平和そうに寝てやがるバンビ。思わず語尾がバンビる。
魔法動物であるこいつは、野生動物とは違って敵に捕食される心配もねえから、産まれて直ぐ立ち上がらなくて済む。
こちとら仕事後の急な出産でくたびれまくってんのに、この何も知らないあどけない寝顔みてたら、すげーホッとしちまった。
なんだろうなこの淡い気持ち。
サウナでカーッとなってあったまるより、ぬるま湯に足つけて下からじんわりほこほこしたような気分だ。
ホランも仔鹿抱いたまま寝ちまったし、俺も寝るかな。
俺もう四十路おっさんだから厳寒期は耐えれんのよ。
と、ぶちぶち文句言いながらも手早くソリの用意。
相棒の魔法動物にハーネスを装着する。
こいつの名前はオロン。オロンは変態。
手綱を引くだけで、「緊縛プレイおつ!」とかのたまう変態トナカイだ。
「はぁはぁ手綱がおマタに食い込んじゃううぅぅ」
「黙れ鹿野郎」なんて、いつもの応酬をしてから出発だ。
ソリには一応の暖房がついている。
起動までに時間がかかるオンボロだけどな。起動に時間かかるくせに、更にソリ内が適温になるまでにも、時間が掛かる。
それまでに凍えてるのも嫌だから、酒飲んで温まる。
懐からスキットル(携行飲料缶)を出して、ぐいっと煽った。
度数のキツイ蒸留酒が喉を心地良く焼いてくれる。
ぷはー生き返るぜ。体も温まってきた。
サンタ職に就いて20年くらいか。
ガチ寒い吹雪の中、俺は猛然と仕事をこなす。
仕事ってのはあれだ。
サンタだから、ほら、あれだ。
良い子にプレゼントフォーユーするやつだ。
一般的なサンタイメージだと、赤い服・白いもじゃヒゲ・丸眼鏡・赤鼻の腹出たふぉっふぉっふぉって笑う陽気なおじさんだろ。俺もそれだ。
腹出てないけどな。
ヒゲもじゃでもない。鼻の下と顎に無精ひげがあるくらいだ。
丸眼鏡もしてねえ。俺、目がいいんだ。
赤い服は着ている。
サンタ保存協力協同組合から支給されてるサンタ服は最高級のブランド服。
装備しているだけで、そこはかとなく体力を底上げし、極地寒冷仕様の生命維持装置も付いている。簡単にいうと、これを着ているだけで、あったかい。
ちゃんと空気も吸える。寒さで口や鼻の水分が凍ることがないのだ。
高性能なサンタ服。デザインも多数あって選べる。俺は裾が長いサーコート風のやつを選んで着用中だ。
んで、腹出てない。
これ重要なことだから二回言う。
サンタってのは苛酷な職業なんだ。
クリスマスシーズンともなると世界中を飛び回らなきゃならねえ。体力のいる職だ。
だから春夏なんかは山登ったり、遠泳したり、トライアスロンして体力をつけている。
おかげでアスリートなボディを手に入れた。腹なんか出ていない(三回目)
酒は好きだがビールは飲まないのでプリン体に好かれてもいないのだ。
俺の肉体は常に体脂肪率が一桁台。体力は備わったが寒さには弱いという、ちょっと矛盾した肉体なのである。
まあ、それでも支給品のソリには暖房あるし……欠点だらけだけど。
相棒の鹿オロンはそれなりに仕事するやつだし……性癖おかしいけど。
なんとかやっている。
今日でクリスマスも最終日。仕事納めだ。
ちゃっちゃっと世界中回って子供たちを笑顔にしてくるかね!
夜空をソリで飛翔する。
最新型サンタ専用トライディングソリはマッハ0.8で魔力を原動力にひた走る。
トナカイが引っ張っているのは、なんか見栄えがいいからってだけだ。
一件一件、丁寧に配る。
配達リストはソリ付属モニター画面に映し出されているから、それ通りに行く。
道順も最短ルートを提示してくれて、自動的に次の目的地へと連れて行ってくれる。
こういうところ、サンタ保存協力協同組合は頑張っていると思うね。
最後の一件を配り終えて、「早よしろ」と変態鹿オロンの手綱を力入れて引っ張る。
「ああん」とか気持ち悪い声を出すオロン。
声は気持ち悪いがスピードは上がった。やつも分かっているのだ。もう仕事は完了した。後は家に帰って仕事納めの祝杯して新年を迎えるだけということを。
意気揚々と家へと凱旋する。
誰かが待っている我が家ではないが、温かいペチカ(暖炉)の前で滋味深い琥珀色の酒を堪能したい。ささやかながら祝い用の熟成肉を引っ張り出してきて火で炙ろう。
その上にトロリ蕩けたチーズをかけて粗挽き胡椒をまぶすんだ。絶対うまいだろうが。
思い出すだけで涎が垂れてくる口元を舌で拭って、ポケットからまたスキットルを取り出し、中身を飲み干した。
蒸留酒が切れた。
意地汚く突き出した舌の上に、一滴だけポトリ。
それから何度振っても最後の一滴より多くの酒は落ちてこなかった。ちくしょお。もっと持ってくればよかった。酒がないと思うだけで、また寒さがぶり返した気がするぜ。
ぶるり。震えて手綱を握り締める。
ソリは我が家のある極北の大地へと近づいて行く。けれど、その途中で思わぬアクシデントが起こった。
「うああああ陣痛キタアアア」
突如、オロンが産気づいたんだ。
産気……――――て、はああ?!!!
お前、雄だろうが妊娠なんてありえんだろうがああああああ!
という意味のないつっこみはしない。
それよりも、「うーんうーんアハ~ンんぅ、あん、ああん……」と、陣痛なのに色っぽい声出すドM鹿オロンに、「キモイ声出すな魔法動物だから喋れるとかそんなメルヘンな設定いらねえんだよ」と遅ればせながらのつっこみをする方が大事だったからだ。
あと、この世界の魔法動物は、雌は勿論のこと雄でも妊娠可である。ファンタジーだな。
「うっ、うっ、でそう、でちゃううう」
「なんだよマジで産まれるのか?!」
雪の上で、じったんばったん暴れる妊婦もとい妊夫もとい妊鹿。
股の間から何か赤いものが覗いている。
────赤仔鹿じゃね?!
急いでオロンを担ぎ上げてソリへと乗せる。
見栄え重視ソリだから、オロンなんぞなくとも空を飛べる。
『妊娠中は高度飛行をお控え下さい』と大昔に読んだ飛行マニュアルを思い出すが、そういうのは丸無視。高速最短距離でソリ専用国道をかっ飛ばし、無事に我が家へと帰宅した。
*
「ホラナちゃんに種付けされちゃったんだな」
「ホラナちゃんって誰だ?」
「んーとぉ、マクタヌンさんとこの若いこ。持久力あって素晴らしい」
何が素晴らしいかは問い質さないでおこう。
はふ~ん なんて、満足気に溜息吐いてベッドに横たわる産後のオロンは人型だ。
魔法動物であるこいつは動物形態で仕事をし、普段は人の姿をとることが多い。
動物の時も綺麗なシルバーグレイな毛並みをしているのだが、人型でも煌めかしいストレート銀糸を胸の前に垂らして、なんだか婀娜っぽい色目遣いで俺の方見てる。
産後に色気放つこいつなんだろうな。鹿のくせに。
一方の俺は、産まれたてのバンビもとい仔鹿を産湯に浸している。
たらいに湯を張って、その中で血だけを流し落としてあげているのだ。
ふむ。こんなもんかなと洗い終わった仔鹿をタオル仕上げする。水分を含んで萎れてた毛並みだが、拭けば拭くほど、ふわっふわ、たんぽぽの綿毛みたいになった。
こいつもシルバー系か? 父親が誰だか分からん毛並みだな。
オロンが告げる父親らしきホラナは赤毛の若雄だそうだ。
赤毛要素皆無な仔鹿を見て思う。こいつ、ちゃんと認知されるのかな?と。
オロンにそのことを訊いてみる。
「ホラナちゃん、まだ下っ端で稼ぎないから子供いらなさそー」
「そうか。なら、マクタヌンと話するしかねえな。しっかし、あそこは既に何十匹もいるからな。たかが一匹と言われそうで怖えわ」
魔法動物を多数雇っているやつにありがちなのが、面倒見切れねえで産まれた仔を売るとか、ひでえと間引くやつもいるらしい。
マクタヌンが、そんなひでえやつじゃねえといいが。
なんせやつとの面識が薄いので何とも言えん。
命の問題もだが金の問題もある。
認知は無理にしても養育費はいただきてえもんだ。
こちとらそんな蓄えがあるわけでもねえ。俺の酒代をなめるなよ。
最低限の生活はサンタ保存協力協同組合で保証されてっけど、嗜好品は別なんだ。
自慢じゃねえが俺の酒代エンゲル係数まじやばいからな。
「ホラナちゃんの金玉もいで売り飛ばしてやろうかな。そしたら浮気もできないし」
「いい考えだ。魔法動物の睾丸は高値で取引されてる」
他にも角や爪、胆のうも薬になるから売れる。
マクタヌンに、ない袖は振れぬと言われたら問答無用で股間のブツをもぎ取ろう。
そう決意して、オロンの腕に洗い立ての小さな仔鹿を乗せた。
仔鹿はさっきまで「ぇふえっ、ぇふえぇっ」と、しきりに啼いていたが今は落ち着いている。
鼻をひくひく動かしオロンの脇のとこに擦りつけ行動。
――――これは、どういう意味があんだ?
「んー? あ、そっか、おっぱいか。こっち、こっちだよー」
仔鹿は本能的に美味しい匂いのするとこを探してたらしい。
脇もおっぱいと同じ匂いすんのか? 初耳だぜえ。
オロンが胸の方まで仔鹿の鼻を誘導させ、それに気づいた仔鹿はオロンの雄乳首を銜えた。
「ああん。この仔テクニシャ~ン」
授乳で欲情すんな変態鹿め。
仔鹿は本能のままにむしゃぶりついているだけだろう。
ちゅーちゅー吸ってお腹いっぱいになったら丸まって寝てしまった白い仔鹿バンビ。
平和そうに寝てやがるバンビ。思わず語尾がバンビる。
魔法動物であるこいつは、野生動物とは違って敵に捕食される心配もねえから、産まれて直ぐ立ち上がらなくて済む。
こちとら仕事後の急な出産でくたびれまくってんのに、この何も知らないあどけない寝顔みてたら、すげーホッとしちまった。
なんだろうなこの淡い気持ち。
サウナでカーッとなってあったまるより、ぬるま湯に足つけて下からじんわりほこほこしたような気分だ。
ホランも仔鹿抱いたまま寝ちまったし、俺も寝るかな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
50
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる