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1,ホーケホケーホーケー

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 メガッロホーケ王国には奴隷制度がある。
 二つの大河を有する首都の、川と川の間、巨大な中州に開かれた奴隷市場。
 ここで本日、国営魔術師団第三番隊隊長アシュタハ・ナクトは、奴隷を購入した。

「チンコでかい奴隷がいい」
「丁度いいのがいやすぜ」

 揉み手しまくる奴隷商人から、「こいつぁ活きがいいぜ」とばかりに押し付けられた奴隷の男は、真性包茎だった。
 俗称『皮被り』ともいう。
 この国の男子の仮性包茎率は世界トップだ。
 せめて仮性であれば勃起時にキトーさんがコンニチハする可能性があるのだが、この男は真性包茎。キトーさんと挨拶は難しいタイプだった。

「ぶぁっかもーん! こんなんで俺の体を慰めれるかあぁ!」
「いやいやこれ呪いなんでげさ。包茎の呪い。呪いを解けば、お客さんがお望みの、屈強で逞しい肉体に慰めてもらいたい放題ですぜ」

 奴隷商人の言うことも一理あるなと思ったアシュタハは、奴隷購入を決意。
 この時点で本末が転倒しまくっているのだが、体ムキムキで格好良い理想のマッスル体型であるこの奴隷を、一目見て気に入ってしまったのだ。
 憧れの英雄のような容貌に、大柄で引き締まった体躯。艶々とした小麦色の肌を魅せる健康体には胸がときめくし、垂涎ものだ。じゅる。おっと、いかん涎が……。
 この奴隷が美肉体であるからこそ、自分好みの、体を慰める要員に育て上げるのも面白いかもしれないと、そんな打算も働いての、お買い上げだった。
 呪いだって特に気にしない。解けばいいのだ。自分は魔術師だものと気軽に考える。

 突然だが、この世界の魔術師は総じてビッチである。
 理由的には、魔力を使えば使うほど体が勝手にエクスタシーを感じてしまって、体に熱情を帯びるからである。その熱情を取り除くために性交を用いるのだ。
 
「600万ホケーになりやす」
「そんなに出せるもんか包茎野郎に。10万ホケーにまけろ」
「いやいやそんな安くちゃ商売あがったりですぜ。500万ホケーで」
「高い。15万ホケー」
「安すぎやすぜ。450万ホケー」

 奴隷商人との交渉は難航を極め、けっこうな時間を要した。

「100万ホケーでどうだあああぁ」

 遂に奴隷商人が叫んだ最低額。これ以上低く見積もったら完全に足が出る崖っぷちまで、アシュタハは奴隷商人を追い込んだ。
 追い込み漁だ。
 根気と時間が必要なことだが、アシュタハはしつこい性格だから苦ではない。

「買おう。ここにサインだな。よし、ダイデン来い」

 奴隷の名前はダイデン。たった今アシュタハが名付けた。名付けと共に奴隷との主従契約が成されるので、これは重要なことだった。

「…………」
「ダイデン、お返事は?」
「ちっ、……はい、ビッチ御主人様」
「うむ、合ってる。でも舌打ちは控えろ。俺はいいけど、周りの奴らが何言うかわからん」

 え、いいんだ? ビッチって言っていいんだ?
 奴隷のダイデンは目をぱちくりさせながら、新たなご主人様を観察した。

 アシュタハの見た目は中肉中背、灰色の髪に瞳も灰色だ。羽織っている外套まで灰色だが、外套下の服は魔術師団の制服だったのを、奴隷商人とやり取りしている時に盗み見ていた。

「今日からヨロシクなダイデン!」

 快活に笑いながら、手まで差し出すご主人様。
 明らかに奴隷に対する挨拶として間違っている。

 ダイデンの首には奴隷の首輪があり、そこから伸びる鉄製の鎖には、なにも絡まっていない。
 本来なら、この鎖を引っ張られ、ご主人様の屋敷に連れて行かれるのが正しいはずだ。握手を求めるのはおかしいことである。
 そう、このご主人様は明らかにおかしい。
 この国の魔術師は総じてビッチであると聞く。変態だ。
 そういう意味でのおかしいもあるが、今の場合、主従関係の崩壊という意味でおかしい。大変おかしい。

 いいのだろうか。鎖の先、ぷらんぷらんと空中で揺れているぞ。まるで解放されたフニャチンコのように。

「確認するが、お前は俺のご主人様だよな?」
「その通りだ。ダイデン良い子、よくできました」

 と、尚も手を差し出し握手をしようとするアシュタハに、ダイデンは複雑な気持ちを抱えながらも握手し返すのだった。
 ダイデンも奴隷としては大分おかしいやつだった。





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一万ホケーは一万円くらいかな
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