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三柱の世界
いつから気づいていた?*
しおりを挟むふい~。今回は伝説の天使たちに向かって攻撃しなきゃいけなかったから、なかなか神経を使った。
使った魔法攻撃は、見た目は派手だけど中身はスッカスカで低出力な代物である。
なんせ相手は女帝様とお姫様。怪我させちゃったら皇帝陛下とヒースラウドさんに土下座しないといけなくなる。
一応、怪我させないように対策は立ててあるのだ。各種防御魔法と護符は基本装備。あとは色々な魔法道具で身体強化と魔法呪文の短縮をしている。
衣装はミザリーさんの作品であるが、それに組み込まれてる魔法道具は全部ヒースラウドさんからの提供である。どんな魔法道具なのかは「詳しいことは秘密です」とあまり教えてもらえなかった。
靴とリストバンドあたりが駿足と筋力増強を担ってるようである。
ネックレスやイヤリングは一見普通に見えるが魔法機械というものらしく、魔法陣が幾重も組み込まれてそれぞれの機構が複雑に絡み合って発動してるようである。
その辺は魔法機械工学とか魔法誘導魔学とかいう分野らしい。
…さっぱりわからぬ。
つか、ヒースラウドさんて何やってる人なの?皇室警護してるのは知ってるよ。
それと紫鳥の国の大元帥の長男ってこともね。
だからってここまでほいほい便利な魔法道具出してくるなんて…未来からきた猫型ロボットじゃないかと疑ってる。忍者っぽかったり、ほんと謎人物である。
なんにせよ今回は演技をしながら魔法にも注意を払ってと神経を使いまくったから、くたくたである。このまま帰って眠りたいが、今夜はもう一本別撮りがある。
別撮りって…すっかり女優気分だな私。
夜空を翔けながらアザレアさんとお話する。
『このまま船に戻ればいいのよねん』
「うん。ありがとアザレアさん」
『お迎えにも来ましょうか』
「あー…どうなるか分からないから…」
『そう…気を付けてねん』
私たちは言葉少なに頷き合って、それから私は身を震わせた。
ぞわぞわっと肌を這う何かがある。
その何かについては、ヒースラウドさんに忠告はされたし、それに気づいてからは意識してしまってるので、その何かが肌の上を這う度に擽られてるような、変な気分になってしょうがない。
でも今は触れてはいけない。触れてしまえば相手に気づかれて、これからの演技に支障が出る。
だから私は体中を這ってどこかに潜もうとする虫──盗聴器に気づいてないふりをしている。
船上に再び降り立って、アザレアさんとは別れた。
今宵は繊月。二日月ともいうね。月の光がほとんど拝めない日だ。
こうして無事に月が登っているのを確認すると月神はまだ大丈夫なのかなと思いを馳せてみたりするけど、今はそれ以上に風呂に入りたい。
ひとっ風呂あびてーと思いながらも、ルークスさんのパートナーとして泊まる予定だった船室まで、歩いた。
*
<ACT6:怪人の正体>
豪華客船と銘打つだけあって、この船の内装は煌びやかで先程のパーティーをしていた大ホールを中心に、演劇場やカジノにプールに各種運動施設に商業施設もあるが、今は人っ子一人いない。
怪人キャシィ出現騒ぎがあったから全ての人員が出払っているのだ。
客たちも転移ポータブル魔法陣で退避した。
残っていたのは伝説の天使たちとルークス殿下だけだったが、その正義の味方達は、いつの間にか去ったようで今はルークス殿下しかいない。
艦内は自動魔力電源が機能しており、それなりに明るい。
今回の騒ぎの後片付けは明日でいいと皇弟殿下の権限で命を発してある。転移ポータブル魔法陣も動作を切らせた。
だからこの船の中には誰も戻ってこれないはず。
誰もいないはずだった。ただ一人、自分だけを除いて…。
その船室には先客がいた。
「キャシィ……」
ルークス殿下が呟いた名に反応して振り向いたのは怪人キャシィだ。
会場から消えた時の姿のまま、彼女はそこにいた。
船の客室の中、今夜のパーティーが終わったらここには愛する彼女と泊まる予定だった。二人で。愛し合うために用意した部屋だった。
「君なら…君がハツネ殿なら、ここに戻って来てくれると思った」
「お見通しか。意外と鋭いなあ殿下…」
怪人キャシィ…いや、彼女の正体はルークス殿下の恋人、ハツネだ。
本名は稲森初音。異世界から来た黒髪の女性である。
黒髪は珍しい。この世界では聖霊王国の王族と、神子にしか見られない特徴だ。
「いつから気づいていた?」
「……最初からだ」
最初に花街で出逢った時、ルークス殿下は既に既視感を覚えていた。
それでも本人に確かめようとしなかったのは、そうであってほしくなかったから。
「参ったな……それじゃあ私はもう」
「行かないでくれ」
二人の距離が縮まる。お互いに歩み寄ったのではなくて、ルークス殿下の方が怪人キャシィの方へと勢いよく間合いを詰めたのだ。
船室は広い。なんせここは一等船室だ。その中でも一番のVIPルームで、船の先頭に一室しかない内装も豪華な最高の船室である。
部屋の窓は全部オーシャンビューであり今は夜景が楽しめるのだが、前方には岬しかないので、遠景としては夜空と灯台の灯りが見えるだけだ。
「行くな。行かないでくれ」
「そんなこと言われたって無理。こうなったからにはもう…」
「正体がバレたからって、私の前から去るのか?」
「それしか…」
「駄目だ。許さない。君がそう考えることは読めていた。だから敢えて気づかないふりを続けてたんだ」
鈍い恋人だと思われようと、その先に別れが待ってるなら白いものだって黒だと言い張れる。
要は別れたくないのだ。ルークス殿下は、異世界から来たという珍しくも魅力的な黒髪をもつ女性に、心底惚れていた。
「駄目、近寄らないで」
会話をしながらもルークス殿下は怪人キャシィに歩み寄っていく。
怪人の正体は愛する恋人だと知っているが、怪人の格好のままの恋人が一歩後ろへ下がる度こちらは一歩どころか二歩近づく勢いで傍まで来た。
「そこ通して」
「御免蒙る」
キャシィの背中が窓ガラスに付く。これ以上は後ろに下がれない。
横に逃げようとした彼女を、腕の突っ張り棒で塞ぐ。
壁ドンならぬ窓ドン状態である。
「逃がさない」
「あ………っ」
右にも、左にも、愛しい恋人の腕がある。腕の中の檻だ。逃げれるわけがない。
正面からルークス殿下の精悍でハンサムな顔が近づいてくる。
キャシィ──ハツネは口を開き恋人の舌を受け入れた。
もうこれは条件反射というやつである。
二人は深い口付けをしてお互いの存在を確かめ合う。
「やはりハツネ殿だな…」
「殿下…ルークス殿下…」
キスをしてしまえば、その慣れた感触に安堵して、恋のときめきが戻ってくる。
たまらず抱擁し合って再度のキスを繰り返した。
こうなればもう、敵も味方もない。ただの男と女である。
二人は感じるままに、お互いの性感を刺激し合い体を重ねたのだった───。
*
ルークスさんの手が止まらない。
シナリオだとキスして終わりじゃなかったっけ?その後のことは仄めかして…で、この後は…そうそう、私に付けられた盗聴器を外してくださいな。
極小の魔法機械である虫が、どこかに潜んでいるはずである。意識を集中すれば体のどの辺を這ってるかなんとなく感じるので、いそうなところにルークスさんの手を誘導してあげてるんだけど、なぜかそこは、その場所は結構な危険地帯だったりするわけで…。
「……っ、」
胸揉むなーーーっと叫びたいけど、まだ盗聴器が外されてないので、うかつな声が出せない。ルークスさんの手は怪人キャシィの黒衣の隙間から入って、がっつり直に胸を揉んできてます。い、いやいや、あんた、せめて服脱がせてくださいよ。
なんでへそ出してるとこから手ぇつっこんでくるかな。
「ひゃ…あぁ」
しかもへそ舐めたぞ?!へそ!へそ!そこには絶対いないだろ虫!
もしいたら盗聴器仕掛けたやつの首をへし折ってやりたいわ!
「っ、うー」
首振っていやいやしてもやめてくれない。
ルークスさんの肩掴んで押しても叩いてもビクともしないし…むしろ嬉々として舐めてくるからゾクゾクぞわぞわしてきた。
背中はガラス窓にくっついてる。これ以上は逃げられない。
お乳揉んでた両手が、今はがっちり私の腰を捉えてる。動けん。
「ひゃぁ…」
さらに固有スキルを使われた。全身をまさぐられる感触がして、これじゃあどこに虫が潜んでるか分からない。
「駄目っ、ダメえぇぇ…」
制止の声も虚しく彼の【手】は止まらない。
「止めれるわけないだろう。どれだけ、おあずけされてると思ってるんだ」
「んな…、それは…」
おあずけは私の所為じゃなくない?!役どころに感情移入するための手法であって私の意思じゃない。途中で何度もめげそうになったよ。
でも、みんな頑張ってるし特にディケイド様の為にって聖霊王国の面々の力の入れよう凄いんだから。私だけサボってたり嫌だって言うわけにはいかないじゃん。
私だって、おあずけされて…我慢してたのに…。
「っふ、あ、あ──っ」
スカートの中に頭突っ込まないでーーっ!犬かーーー!!
上半身は固有スキルを駆使した愛撫と優しいキスとかで翻弄されてるのに、下半身は本物の腕で抑え込まれてて、その上で股間を舐めてくるなんて…変態くさい。
息が陰毛揺らしてパンツに熱気が籠ってるのがまた変態くさいですよ。
なんでパンツん中に頭つっこむかなー。
…陰毛はね、剃り忘れですよ。
日常の毛のお手入れというのを全くしてなかったことに今頃気づいた。
だって怪人やってたから。
その間は接触禁止だったし。だから完全に油断してたんだ。
「んやあああ…やああ…っ」
変態の舌が止まらない。私の弱いところ、赤く充血した突起を何度も何度も舐られ責められて、多分、軽い絶頂を迎えた。
腰のあたりがピリピリ痺れて萎えてきた。このまま足も限界を迎えそう。ヒールの靴も痛いしさ。
「ひぐ…だめ…もう、もう、限界…!」
スキルで乳首は捻り上げられてるし、耳の穴やへその穴の中まで舐められてる感触がする。
全部同時に食らって陰核まで吸い上げられ強く食まれてしまえば、全身に電撃食らったような痺れが貫く。
「っん、ふ、クうぅぅぅ~~~っ!!!」
股間は盛大に濡らしてしまったことだろう。
未だピチャピチャ舐める音が響いてるし刺激が持続して下半身が震えまくってる。
「やだ…イった、イっ、も、イってる、から…」
足なんかとうに限界を迎えて床についてることすら拒否してる。
ガラス面をずるずる下って私のお尻は床に、脚はルークスさんの腕に抱え込まれて高々と上がった。ヒールの靴履いたままなんだけど…。
こんな卑猥な格好にされてもまだ愛撫をやめてくれない。
クンニで達した余韻が残ってても敏感なスポットを責められ続けて、私の体は震えっぱなしである。
「っあ、は…ぁぁ…」
広い船室に私の喘ぎ声だけが木霊する。
ずるい。私ばかりイかされて息も絶え絶えだ。ずるい。
服さえ脱いでない。そのスキルは本当にずるい。
そういう気持ちでさっきからずっとルークスさんの頭とか肩とかぺんぺん叩いてるけど効果はないな。
むしろ愛撫を強めてくるから、もう何度絶頂させられ飛ばされたか分からない。
これが接触禁止してた間の時間差分攻撃だというのか…。
本来なら小分けに食らってた愛撫を半月分くらい一気に今食らってるわけだ。
「ね…せめて、ベッド…ベッドに…」
背中が冷たいんだ。ずっとガラスと密着してるから冷えるんだよー。
怪人衣装で着衣プレイも、固有スキルで全身愛撫イキっぱなしプレイも受け入れるから、せめてベッドに連れてけと懇願する。
「…逃げないか?」
「流石にベッドの中じゃ逃げれませんて」
やっと顔を上げたルークスさんと視線が合ってよかった。
つーか、あんた顔面が愛液でべしょべしょじゃないか。
「逃げないと言ってくれ。じゃないと安心してセックスもできん」
「っく、なにそれ…ここまでしておきながら…」
十分に今セックス中だと思いますけどね。
私の頭の中はもう完全にルークスさんでルークスさんのことしか考えてないというのに、そんなこと言うか。
「目的を果たすのに時間を割いただけだ。まだ本気じゃないぞ」
「へ…?」
ルークスさんの視線を追って首を右に向けると、私の脇の傍に煙上げて壊れた虫──盗聴器があった。いつの間に…。
「なるべく早く見つけたかったんだが…君の可愛い声を大分やつに聞かせてしまった」
「え…と、どれくらい?」
「あー…潮吹きぐらいまでかな」
「しお…?!」
本当に大分ですね?!
「じゃあここまでしつこく舐めることもしなくてよかったんじゃ…?」
「こんなに舐めても舐めても溢れ出てくると、止め時が分からんのだ」
「まるで私の所為な言い方やめてくれますう?!」
「現にそうだろう。特に今日は感度が良さげだ。このまましよう」
「嫌ですベッド連れてけー!」
腰萎えちゃって立てないんだ。お姫様抱っこを所望します。
そう言ってるのにルークスさんは聞いてくれなかった。
もう演技しなくていいと分かった途端に甘えたのが悪かったのか、この後、オーシャンビューな夜景を背景に、駅弁ファ○クされることとなる。
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