いや、純粋な疑問で聞いただけなんだけど

ゆきと

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いや、純粋な疑問で聞いただけなんだけど

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いや、純粋な疑問で聞いただけなんだけど





雲一つない澄み切った青い冬空、水が張られていない土の色が見えた休耕田が広がる平野。その中をジャージ姿の高校生二人が自転車をノロノロと走らせていた。

「まーじで疲れたわ~マラソン大会ってなんであるん?」

「わかる、疲れるし、寒いし~真夏にやるよりはましなんだろうけど。」

「いやいやいや!俺はさ!やる前提じゃなくて存在意義を問うてるわけよ。」

「ええ…」

マラソン大会を終え、通常の授業日和は少し早く帰路についている男子高校生二人は、ほぼ歩いたほうが早いのではないかと思うほどのんびりとペダルを踏みながら会話を交わしていた。

「ってか、会場のスタジアムまで現地集合現地解散なのもだりー」

…まあ、一緒に帰れるのはラッキーだけど。
と背の高い方の男子がつぶやくが冬の田園特有の強風にさらわれ、その声は傍らの男子に届かなかった。

「寒っうぅ!なんか言ってたけど、何話してたー!?」

「なんでもなーい!!風強すぎッて言ってただけ!!」

田んぼのど真ん中の道を過ぎると、徐々に片側が山の斜面、道路の反対が畑の田んぼとはまた違う意味での田舎道に出た。
ここまでくると徐々に民家や農作業用の小屋などがぽつぽつと見えてくる。
冬の平日の昼間、しかも休耕期のためか外で農作業をする人などは全くいない。
人がいないことをいいことにくだらない雑談を話しながら進んでいく。

「でさー長谷センがさー…」

「うんうん、それでー…」

授業のこと、今ハマっているスマホゲーのこと、部活のこと、親や兄弟、家でのたわいのないやりとりのこと…なんて事のない話をしても笑い声の絶えることのない帰り道だ。
背の高い男子は心の奥で、帰り道がもっと長くなればいいのに…と思いながら傍らで楽しそうに話を聞く男子をちらりと見やる。
中学生のころまでは背の高さは同じくらいだったが、高校に入ると自分の方が少しだけ追い越してしまった。同じ目線で話ができた中学の頃を少しだけ寂しく思うが、今は傍らの男子の姿を少しだけ高い視点から眺められるのが楽しくてしょうがなかった。
彼よりすこし高い視点から見るとぱっちりとして二重の瞳、男子にしては長いまつ毛がぱちぱちと動く様子がはっきり見える。中学のころから焦がれた彼のまた違った見え方に気づいたときはドキドキが止まらなかった。

「…あ」

ペダルをのんびりと漕ぎながらそんなことをぼんやり思っていると彼がぼんやりとした声を出しながら山の斜面の方を眺めていた。

「ん、なんかあった?」

「あれさ、前から気になってたんだけど…」

「どれ?………」

彼が指し示してたのは、トロピカルな装飾に可愛らしいポップ調の看板、道路が続いた先には建物があり、ガレージが何個も連なっている。



…いわゆる、ラブホテルというものであった。しかもガレージタイプ。



「ちっちゃい頃からここ通るたびに気になってたんだよね。あれ。親とか兄さんとかに聞いてもなんか知らないみたいだし。」

彼の家は答えることを放棄していたようだった。

「あー…えっと…」

「なんだろ、車が止まってる時あるからホテルか旅館?あ、モーテルってやつ?」

「いや、その泊るところってのはあってるんだけどさ…」

純真な目でこちらを見てくる。
質問されているこちらがなんだか恥ずかしくなってくる。
耳たぶに血が集まっている気がする、背中が汗ばんでくる。

「なあ?なんか知ってる?あれ。」

首をこてんと傾げこちらを見てくる。
長いまつ毛がぱちりと上下に動く。

「…知りたい、か?」

「…?うん。」

肯定の返事の後、しばらく沈黙が流れる。
乾く舌を必死に動かし、叫んだ。

「…ら、」


「ら?」


「ラブホテルっっ!!!」


そう言うや否や今までノロノロと漕いでいた自転車を必死にこぎ爆速でその場を離れる。


その言葉を聞いた彼は、「ら、らぶほてるっ?」と素っ頓狂な声を上げた。

「って、なんで走るのさ!まって!」




顔が真っ赤だ。彼の前でそんな言葉を発するくらいでこんなことになるなんて恥ずかしすぎる。
冷たい冬の風が顔にあたる。
でも今はそれが心地好いと思うくらい頬が熱かった。
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