<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐

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「昨日付けでアルフレドとエミーリア嬢の婚約が解消された」
「…畏まりました。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「この記録文書に目を通すといい」

エミーリアの父、カリスター侯爵は国王から手渡された複写と右上に文字のある書類に目を通し終わると心の中で大きな溜息を吐いた。




エミーリアが生まれた時、侯爵が思ったことは二つ。一つは無事に契約が果たされた。そして、もう一つは『困った』だった。

エミーリアの産みの親であるイザベラは体調が戻ると直ぐに契約通り、領地の中でも風光明媚な場所にある別荘へ愛人である騎士と共に旅立った。エミーリアを残して。
イザベラには引かれる後ろ髪は一本もなかったということだ。寧ろそれを避ける為、一度も抱き抱えもせず、名前すら聞かなかったのではないかと思えた。

しかし侯爵にとってそれは予想外。いくら契約とはいえ、そんなに早くイザベラがいなくなるとは。だから、直ぐに乳母と世話係を探したのだった。エミーリアに手が掛かったのはその時だけ。と言っても本人のせいではなく、原因はイザベラ、もしくは結婚前の契約に起因するのだが。

その後エミーリアは病気もせず、乳母達を煩わすことなく育っていった。まるで自分の立場を知り、周囲に気を遣うように。お陰で第二夫人として迎えたアイリスは自分の出産と育児にだけ集中することが出来たし、カリスター侯爵家は上手くまとまっていた、全員がエミーリアを見ないようにすることで。


王家からの婚約打診は渡りに船だった。イザベラには母国の王家の血が幾許か入っているので、エミーリアを不相応と言う者はいないだろう、こんな育てられ方をしていても。しかも、アルフレドの母である第二妃の爵位が低いことはある意味都合が良い。成長すれば、エミーリアの持つ力の方が上になる。カリスター侯爵家の長女であることは変わらぬ事実なのだから。

それに、まだ小さいにもかかわらず侯爵家で常に気を使い生きていくより、王城で暮らす方が良いだろうと侯爵は思った。だから、婚約と同時に侯爵はエミーリアを手放し王城へ送ったのだった。

それが今から十数年前の話。
権力ある侯爵家の長男なのに好きな人と結婚出来ないと踠いたあの頃から、侯爵は人間として成長した。アイリスが産んだ三人の子供達のお陰で父としても。そう、エミーリアが生まれた時には全く持ち合わせていなかった、親としての気持ちが育ってしまったのだ。

気付けば、王城に来るたびに全く交流を持たなかったエミーリアを探すようになった。
子に親の事情は関係ない。今のこの状況は正しいものなのかエミーリアの姿を見る度に侯爵は疑問に思ったのだった。

見掛けるエミーリアには表情はない。王城の広間にて、来賓に挨拶する時の笑みは美しいかもしれないがそれだけだ。
侯爵はどの表情のエミーリアを見掛けても、疑問に対する答えが自分の蒔いた罪だと知るだけだった。

だから、せめてもと第二妃が手配する教育係を陰で一部挿げ替えたりもした。その教育係達から上がってくる報告は優秀で素晴らしい王子妃というものばかりだったのに…

疑う余地もなく公文書に記載された内容はエミーリアを馬鹿にしたふざけたものだ。と同時に侯爵の罪。
愛を知らずして育ったエミーリアを作ってしまったのは、若かりしき日の侯爵だ。

だから言わなくてはいけない。


「こちらの内容ですと、カリスター侯爵家としては慰謝料を請求させていただく他ありません。エミーリアは溺愛を知らなかっただけ。対して、殿下は既に別の令嬢と親しくされているようですから」
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