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願いと約束―3
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―――コポコポコポ……ッシャン………コト…
二杯目の紅茶を注ぎ、レイヴァンの目の前に置いたアルフレッド。
ティーセットから手を離し、レイヴァンの斜め横へ控えると、レイヴァンにしか読み取れないであろう穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「…レイヴァン様の頼みでしたら、誰一人、否定はしないでしょう。それに、レイヴァン様のお話から察するに、人魚ならば水を欲しているはず。バスルームを使用してゆっくり休んで頂く事が良いかと。」
「アルフ」
「ですが、全員に肌を晒すのは幾ら人魚といえど……レディーには複雑な心境になるのでは?」
人魚自身がどの様な考えなのか、アルフレッドは分からないが、人魚の性別が女性である事に変わりはない。
人魚であると証明する事は必要かもしれないが、アルフレッドは人魚の本来の姿は最低限の者に見せて、あとの使用人達はレイヴァンが説明すればその継信じる気がしたのだ。
アルフレッドが注いだ紅茶を何かを考えながら一口含んだレイヴァンは、一瞬、目を閉じる。
アルフレッドからの助言を、自分の中に落とし込み、どうするべきか考えた。
只でさえ、生きた心地のしない国に居るアルメリア。
なるべく負担を増やすような事はしたくないレイヴァンは、最善の判断をしたかった。
「……分かった。アルフとクレマ、それからマドレーヌの五名で確認をしよう。その他の者は取り急ぎ面会のみに留める。」
「承知致しました。……あの、レイヴァン様。クレマンティーヌは分かりますが、マドレーヌは何故?」
レイヴァンは考えた末に、自分とレナ、執事のアルフレッド、メイド長であるクレマンティーヌ、そしてメイドの一人マドレーヌを上げた。
クレマンティーヌはアルフレッドが邸宅で働き始めた初日から共に働いているが、マドレーヌは普通のメイドである。レナの侍女でもない。
「レナもいつも居る訳では無い。ここに居る間、誰か一人、世話係が居た方が良いだろう。特にメイドの中ではマドレーヌは性格が明るいから、良い話し相手になりそうだ。」
「左様ですか。」
紅茶を飲み終えると、レイヴァンは皆が待つサロンへ向かった。
アルフレッドはティーセットを持ち、レイヴァンの後に続いた。
「―――という事で、帰るまでここで預かる事になった。それと、急で申し訳無いが、後で大浴場を貸して欲しい。」
急遽集められた使用人達は、レイヴァンとアルフレッドがサロンに入って来てから、緊張した面持ちでレイヴァンの話に真剣に耳を傾けていた。
誰かが何かをやらかしたのでは無く、又、誰かがクビになるという話で無かった事に、皆はホッと胸を撫で下ろした。
しかし、客人が人魚だと言われると、少々ざわめき立った。人魚は皆初めてだったからだ。
「不慣れな事も多いはずだ。客人として丁寧に接してあげて欲しい。」
レイヴァンの言葉に一同頷く。
「マドレーヌ」
「は、はい!」
勤めるメイドの中では中間に当るマドレーヌは、急に名前を呼ばれ肩を揺らしながら返事をした。
「彼女が居る間、世話を頼みたい。出来るか?」
マドレーヌはレイヴァンからの指名に目を見開く。
聞き違いではないだろうかと自分の耳を疑った。
訪れる客人の相手をした経験はあるが、レイヴァン直々に指名されたのはこれが初めてだった。
出来無いなどと口が裂けても言えない。
しかし、重大なお客様ならば、メイド長のクレマンティーヌが担当しそうな所だが、レイヴァンからの指名は自分である。
マドレーヌは助けを求めるようにクレマンティーヌの顔を見た。
クレマンティーヌはただマドレーヌと視線を合わせるだけで、何も言わなかった。
「マドレーヌ。レイヴァン様は、貴女に話し相手をして欲しいそうです。」
マドレーヌの焦りを感じて、アルフレッドはレイヴァンの言葉に補足するように難しく考えずに引き受けて欲しいと促した。
アルフレッドの言葉におずおずと頷いたマドレーヌは、メイド服前で両手を重ねてレイヴァンに一礼をした。
「…しょ、承知致しました!」
マドレーヌの一礼にレイヴァンは頷く。
「アルフ、扉を開けてくれ。」
レイヴァンの指示で、アルフレッドがサロンの扉を開けると、レイヴァンが説明をしている間に西側の部屋からレナに連れて来られたアルメリアが立って居た。
アルメリアを支えるようにレナも横に居た。
レナに背中を押されたアルメリアは、レナと一緒にレイヴァンの方へ歩いてサロンに踏み入れた。
使用人達の目に映るアルメリア。沢山の興味の視線。
レイヴァンの前でアルメリアとレナが足を止めると、レイヴァンは使用人達の方へ振り向いた。
「彼女が先程話した通り、人魚のアルメリアだ。」
「…アルメリア…です。あの……宜しくお願い…します。」
レイヴァンの紹介に、使用人達を見渡してアルメリアは挨拶をした。
「マドレーヌ」
アルメリアの挨拶が終わると、レイヴァンはマドレーヌを呼んだ。
名前を呼ばれたメイドのマドレーヌは、一歩前に出る。
アルメリアは軽く下げていた頭を上げ、名前を呼ばれ一歩前に出たマドレーヌに視線を移した。
レイヴァンはアルメリアを見る。
「アルメリア、メイドのマドレーヌだ。ここに居る間はマドレーヌを世話係として付ける。何かあれば言うと良い。」
「…はい」
「マドレーヌと申します。何かございましたら、お申し付けください。」
アルメリアがレイヴァンの話に頷くと、マドレーヌはアルメリアに自己紹介をした。
「執事のアルフレッド、メイド長のクレマンティーヌにも何かあれば聞くと良い。レナも家には居るが、外出する時もあるから頼って構わない。」
レイヴァンから紹介されたアルフレッドとクレマンティーヌは順に挨拶を終えた。
「クレマとマドレーヌはちょっと残って欲しい。その他の者は、仕事に戻って構わない。」
レイヴァン達の様子を黙って見ていた使用人達は、レイヴァンからの言葉に一人一人サロンから自分の持ち場へと戻って行った。
残されたクレマンティーヌとマドレーヌはレイヴァンの指示を待った。
アルフレッドは大浴場の様子を確認しに向かう。
入浴の準備が整うまで、レイヴァン達はサロンでティータイムをして待った。
「じゃあ、アルメリア。右手は握っているから、ゆっくり入ってちょうだい。」
アルフレッドがサロンへ呼びに来た後、レイヴァン達は五名で大浴場に移動をした。
レナはアルメリアを支えて移動し、大浴場に着いた後、クレマンティーヌとマドレーヌは大判のバスタオル等を準備した。
水を張った湯船に浸かるアルメリアをレナは手伝う。
アルメリアが水に浸かるまで、レイヴァンとアルフレッドは大浴場の入口付近で待機する事にした。
レナの言葉に、アルメリアは湯船の前で着せられていた服を脱ぎ、胸元は貝殻の水着のような胸当てのみの姿になる。
意を決して、アルメリアが水面に足を入れた。
両足を入れ、腰まで水に浸かる。
大浴場の湯船の中には一段、階段のように段差があり、アルメリアはそこへ腰掛ける。
水に浸かり始めて数分後、アルメリアの脚は透け始め、尾へと変化し始めた。
「―――兄様!」
変化し始めた尾を見たレナがレイヴァンを呼ぶ。
待機していたレイヴァンとアルフレッドが駆け寄る。
アルメリアの尾は徐々に変化し、水面の反射により鱗が宝石のようにキラキラと映った。
レイヴァン達は、アルメリアの脚が完全に尾に変化するまで息を呑んで見続けた。
長い時間では無かったはずだが、レイヴァンには一時間位幻想的な光景を見ている気分であった。
二杯目の紅茶を注ぎ、レイヴァンの目の前に置いたアルフレッド。
ティーセットから手を離し、レイヴァンの斜め横へ控えると、レイヴァンにしか読み取れないであろう穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「…レイヴァン様の頼みでしたら、誰一人、否定はしないでしょう。それに、レイヴァン様のお話から察するに、人魚ならば水を欲しているはず。バスルームを使用してゆっくり休んで頂く事が良いかと。」
「アルフ」
「ですが、全員に肌を晒すのは幾ら人魚といえど……レディーには複雑な心境になるのでは?」
人魚自身がどの様な考えなのか、アルフレッドは分からないが、人魚の性別が女性である事に変わりはない。
人魚であると証明する事は必要かもしれないが、アルフレッドは人魚の本来の姿は最低限の者に見せて、あとの使用人達はレイヴァンが説明すればその継信じる気がしたのだ。
アルフレッドが注いだ紅茶を何かを考えながら一口含んだレイヴァンは、一瞬、目を閉じる。
アルフレッドからの助言を、自分の中に落とし込み、どうするべきか考えた。
只でさえ、生きた心地のしない国に居るアルメリア。
なるべく負担を増やすような事はしたくないレイヴァンは、最善の判断をしたかった。
「……分かった。アルフとクレマ、それからマドレーヌの五名で確認をしよう。その他の者は取り急ぎ面会のみに留める。」
「承知致しました。……あの、レイヴァン様。クレマンティーヌは分かりますが、マドレーヌは何故?」
レイヴァンは考えた末に、自分とレナ、執事のアルフレッド、メイド長であるクレマンティーヌ、そしてメイドの一人マドレーヌを上げた。
クレマンティーヌはアルフレッドが邸宅で働き始めた初日から共に働いているが、マドレーヌは普通のメイドである。レナの侍女でもない。
「レナもいつも居る訳では無い。ここに居る間、誰か一人、世話係が居た方が良いだろう。特にメイドの中ではマドレーヌは性格が明るいから、良い話し相手になりそうだ。」
「左様ですか。」
紅茶を飲み終えると、レイヴァンは皆が待つサロンへ向かった。
アルフレッドはティーセットを持ち、レイヴァンの後に続いた。
「―――という事で、帰るまでここで預かる事になった。それと、急で申し訳無いが、後で大浴場を貸して欲しい。」
急遽集められた使用人達は、レイヴァンとアルフレッドがサロンに入って来てから、緊張した面持ちでレイヴァンの話に真剣に耳を傾けていた。
誰かが何かをやらかしたのでは無く、又、誰かがクビになるという話で無かった事に、皆はホッと胸を撫で下ろした。
しかし、客人が人魚だと言われると、少々ざわめき立った。人魚は皆初めてだったからだ。
「不慣れな事も多いはずだ。客人として丁寧に接してあげて欲しい。」
レイヴァンの言葉に一同頷く。
「マドレーヌ」
「は、はい!」
勤めるメイドの中では中間に当るマドレーヌは、急に名前を呼ばれ肩を揺らしながら返事をした。
「彼女が居る間、世話を頼みたい。出来るか?」
マドレーヌはレイヴァンからの指名に目を見開く。
聞き違いではないだろうかと自分の耳を疑った。
訪れる客人の相手をした経験はあるが、レイヴァン直々に指名されたのはこれが初めてだった。
出来無いなどと口が裂けても言えない。
しかし、重大なお客様ならば、メイド長のクレマンティーヌが担当しそうな所だが、レイヴァンからの指名は自分である。
マドレーヌは助けを求めるようにクレマンティーヌの顔を見た。
クレマンティーヌはただマドレーヌと視線を合わせるだけで、何も言わなかった。
「マドレーヌ。レイヴァン様は、貴女に話し相手をして欲しいそうです。」
マドレーヌの焦りを感じて、アルフレッドはレイヴァンの言葉に補足するように難しく考えずに引き受けて欲しいと促した。
アルフレッドの言葉におずおずと頷いたマドレーヌは、メイド服前で両手を重ねてレイヴァンに一礼をした。
「…しょ、承知致しました!」
マドレーヌの一礼にレイヴァンは頷く。
「アルフ、扉を開けてくれ。」
レイヴァンの指示で、アルフレッドがサロンの扉を開けると、レイヴァンが説明をしている間に西側の部屋からレナに連れて来られたアルメリアが立って居た。
アルメリアを支えるようにレナも横に居た。
レナに背中を押されたアルメリアは、レナと一緒にレイヴァンの方へ歩いてサロンに踏み入れた。
使用人達の目に映るアルメリア。沢山の興味の視線。
レイヴァンの前でアルメリアとレナが足を止めると、レイヴァンは使用人達の方へ振り向いた。
「彼女が先程話した通り、人魚のアルメリアだ。」
「…アルメリア…です。あの……宜しくお願い…します。」
レイヴァンの紹介に、使用人達を見渡してアルメリアは挨拶をした。
「マドレーヌ」
アルメリアの挨拶が終わると、レイヴァンはマドレーヌを呼んだ。
名前を呼ばれたメイドのマドレーヌは、一歩前に出る。
アルメリアは軽く下げていた頭を上げ、名前を呼ばれ一歩前に出たマドレーヌに視線を移した。
レイヴァンはアルメリアを見る。
「アルメリア、メイドのマドレーヌだ。ここに居る間はマドレーヌを世話係として付ける。何かあれば言うと良い。」
「…はい」
「マドレーヌと申します。何かございましたら、お申し付けください。」
アルメリアがレイヴァンの話に頷くと、マドレーヌはアルメリアに自己紹介をした。
「執事のアルフレッド、メイド長のクレマンティーヌにも何かあれば聞くと良い。レナも家には居るが、外出する時もあるから頼って構わない。」
レイヴァンから紹介されたアルフレッドとクレマンティーヌは順に挨拶を終えた。
「クレマとマドレーヌはちょっと残って欲しい。その他の者は、仕事に戻って構わない。」
レイヴァン達の様子を黙って見ていた使用人達は、レイヴァンからの言葉に一人一人サロンから自分の持ち場へと戻って行った。
残されたクレマンティーヌとマドレーヌはレイヴァンの指示を待った。
アルフレッドは大浴場の様子を確認しに向かう。
入浴の準備が整うまで、レイヴァン達はサロンでティータイムをして待った。
「じゃあ、アルメリア。右手は握っているから、ゆっくり入ってちょうだい。」
アルフレッドがサロンへ呼びに来た後、レイヴァン達は五名で大浴場に移動をした。
レナはアルメリアを支えて移動し、大浴場に着いた後、クレマンティーヌとマドレーヌは大判のバスタオル等を準備した。
水を張った湯船に浸かるアルメリアをレナは手伝う。
アルメリアが水に浸かるまで、レイヴァンとアルフレッドは大浴場の入口付近で待機する事にした。
レナの言葉に、アルメリアは湯船の前で着せられていた服を脱ぎ、胸元は貝殻の水着のような胸当てのみの姿になる。
意を決して、アルメリアが水面に足を入れた。
両足を入れ、腰まで水に浸かる。
大浴場の湯船の中には一段、階段のように段差があり、アルメリアはそこへ腰掛ける。
水に浸かり始めて数分後、アルメリアの脚は透け始め、尾へと変化し始めた。
「―――兄様!」
変化し始めた尾を見たレナがレイヴァンを呼ぶ。
待機していたレイヴァンとアルフレッドが駆け寄る。
アルメリアの尾は徐々に変化し、水面の反射により鱗が宝石のようにキラキラと映った。
レイヴァン達は、アルメリアの脚が完全に尾に変化するまで息を呑んで見続けた。
長い時間では無かったはずだが、レイヴァンには一時間位幻想的な光景を見ている気分であった。
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