クリスの物語

daichoro

文字の大きさ
34 / 227
第一章 過去世の記憶

第33話 ラムザの見解

しおりを挟む
『うーむ。何とも言えんのう』

 クレアが一部始終話終えると、ラムザは腕を組んだ。


『たしかにイビージャとアルタシア、二人ともその部分しか情報が残されていないというのはおかしな話じゃがのう。それ以外の情報が二人ともなくなっているというのは、偶然にしてはあまりにも不自然じゃ』

『でしょう?やっぱりラムザおじいさんもそう思うでしょう?きっと、わたしたちが調べに来ることを知って、誰かがクルストンをいじったのだと思うんだよね』


『じゃが、いじるといったって、中央部のそれも情報統制局の司令官以上の人間でないと操作することなどできんからのう。それに、ここ最近そういった人間は出入りしとらんしの。

 仮に情報統制局の人間が操作していたのだとしても、そういった人間でも情報を削除する以上の権限はないんじゃ。じゃから、少しの情報しか残っていなかったとはいえ、残っていたその情報はやはり正しいのではないかと思うがの』


「ということは、やはりアルタシアが呪いをかけたのは本当だということか?」

 ファロスが間に入って確認すると、『まぁ、そういうことになるかの』とラムザは2,3度うなずいた。


 すると、クレアが納得いかない表情で異議を唱えた。

『でもそれだったら、何のためにあの部分だけ残しておくの?どうせ消すなら全部消せばいいじゃない。あんなの、いかにもわたしたちに見てくださいといわんばかりの内容だったよ』


『ううむ。そう言われてものう』

 ラムザは困ったように、視線を落とした。


『だって、偶然にしてはあまりにもできすぎているもの。なんか、アルタシアが呪いをかけたのは本当のことだから、イビージャの言う通り、黒いドラゴンの石を取ってくるようにって誰かがファロスにそういう風に仕向けているような気がする』


 クレアはテステクをカウンターに置くと、組み合わせた手の上に頬杖をついた。


「さっきからクレアは疑ってばかりいるが、逆にあの情報が正しいからこそ他の余計な情報は削除して、あの部分だけは残しておいたという風には考えられないか?」

 頬杖をついたまま、クレアはファロスに視線を向けた。


『それなら、なんで他の情報は削除する必要があるの?』

「それは分からんが、何か削除しないといけないような不都合な内容があったということじゃないか?」


 話にならないとでもいうように、組んだ手をぱっと離してクレアは首を振った。


『まず第一に、イビージャの言っていることが正しいことだとして、イビージャが闇の勢力の人間じゃなくて本当に地底世界の人間なのだったら、ドラゴンの石を使ってアルタシアを殺そうなんて考えは起こらないはずだよ。

 それに・・・そうだよ。仮に、中央部の人間があの情報を認識していて他の余計な情報を削除したというのなら、アルタシアが闇の勢力の人間だと気づいているっていうことでしょう?そしたら、アルタシアのことをまず放っておかないはずだよ。

 やっぱり、あの情報はわたしたちに見せるために、あえて作られたでたらめの情報だよ。きっと』


 合点がいったように、クレアは腕を組んでうんうんとうなずいた。


『情報を書き換えることって、絶対にできないことなのかなぁ?』

 ラムザに向き直って、クレアが聞いた。


『いや、絶対にできないということはない』

 ラムザのその言葉に、クレアは目を輝かせた。


『本当?』

『うむ。理論的にはの。しかし少なくとも中央部の人間には不可能なはずじゃ』

『え?それなら、誰だったらそういうことができるの?』

『うむ。銀河連邦クラスの人間であれば、そういったことも可能だろう』

 思い出したようにうむうむと、ラムザはうなずいた。


『ただ、銀河連邦の人間が地球のこのような、彼らにしてみれば些細なできごとで動くはずはないと思うがの』

『何?その銀河連邦って?』


『わしらのいるこの銀河系のすべての惑星を監視・指揮している艦隊じゃよ。この銀河系には1万を超える銀河連邦の艦隊があり、この銀河系に存在する惑星を常に監視しているということじゃ。光が闇に包まれてしまわないようにの。

 そしてさらに、宇宙にはそのすべての銀河連邦を司る、宇宙連盟なるものがあるということも聞く』


『へぇー。そんなの初めて聞いた』

『うむ。まぁ、そうじゃろう。この地底世界でも知る者はあまりおらんじゃろうからの』


『あ。もしかして、わたしたちより先に来てたあの黒い服の男の人がその銀河連邦っていうところから来た人なんじゃないの?』

 思いついたように、クレアが両手でカウンターを叩いた。その瞬間、ラムザはびくっと肩を震わせた。


 咳払いしてから、ラムザは言った。

『いや、銀河連邦の人間がまさかこんなところに来たりはせんよ。仮に万に一つ来ることがあったとしても、事前にその旨を知らせる連絡があって、中央部の人間を何人も伴って来るはずじゃ』

『そうなの?でも、もしかしたらお忍びで来たっていうこともあるかもしれないよ?』

 苦笑しながらラムザは首を振った。


『銀河連邦の人間であればなおのこと、イビージャがアルタシアに報復をするその手助けをするよう誰かに仕向けるということはないじゃろう』

『それもそうか』

 大きくため息をついて、クレアはまた腕を組んだ。


『ねぇ』

 皆が沈黙する中、ラマルがクレアの袖を引っ張った。

『何よ?』

『ええと、だからさ、受付の人がクルスターで記録を取っているのだから、あの黒い服の人のことについてはひとまずそれで調べてもらったらどうかな?だって、そのこともあって館長に相談しに来たんじゃない・・・?』

 ラマルが遠慮がちに発言すると、クレアは『あ、そっか』と言って手を叩いた。


『ねぇ、ラムザおじいさん。わたしたちより先に3312号館の1648階―25号室に入っていた黒い服の人が誰だかっていうのは、記録に残っているでしょう?それを調べてもらえないかな?』


 ラムザは『ふーむ・・・』とうなって、少し考え込んだ。

 それから『まぁ、事情が事情じゃからの。特別じゃ』と言って、自分の席へと戻っていった。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...