62 / 227
第二章 クリスタルエレメント
第10話 監視局員ネイゲル
しおりを挟む
「うわぁ!すごい・・・」
出口から飛び出ると、紗奈が感嘆の声を漏らした。眼下には、クリスタルブルーに輝く水面が広がり、そしてはるか前方には塔や建物が乱立する街がある。
白く輝くその街に、クリスは見覚えがあった。前世でやってきたことのある、地底都市“セテオス”だ。
『おかえり、クリス』
クレアが笑顔で振り返った。
『ただいま』と、クリスも笑顔を返した。
「ここが、ファロスが来たことのある地底世界なの?」
あちこちキョロキョロと見回して、興奮した様子で紗奈が聞いた。
「そうだよ」
「すっごくきれい。それに、地底世界ってこんなにも明るいのね。なんだかすごくあったかいし。もっと暗くて寒くてどんよりしているのかと思ってた」
「うん、そうだよね」
クリスは少し得意になって、笑顔で答えた。
すると、前方から黒く大きなドラゴンがやってきた。勢いよく飛んできたそのドラゴンは、クリスたちの目の前でピタリと止まった。
頭に2本の角を生やしたいかめしいドラゴンは、エランドラよりもだいぶ大きい。顔の大きさだけでも、クリスと紗奈の身長を足したくらいの大きさがある。
ドラゴンの上には、色白でほっそりとした背の高い男がひとり立っていた。耳の長さに切りそろえられた髪は銀色で、シルクのようにつやつやと光る白い服を着ている。その男に、クリスは見覚えがあった。
門番のような立場で、セテオスへやってくる人間を監視する役割を担っているということだった。クリスが記憶を呼び覚ますと、『覚えていてくださいましたか』と、男がクリスに微笑みかけた。
『あれ?クリスってネイゲルに会ったことあったんだっけ?』
驚くようにクレアが言った。
『いえ、クリスさんとお会いするのはこれが初めてです。ただ、クリスさんが前世で初めてこちらへいらした際にも、私がこのように一度だけご挨拶させていただいたことがあるのです』
『あー、そっか』
ネイゲルが答えると、クレアが相槌を打った。
『でも、その一度しか会ってないっていうのにネイゲルもよくクリスのこと覚えてるね』
『お噂はかねがね伺っていたものですから』
そう言って、ネイゲルはクリスに向かって軽く頭を下げた。
『ところで』と、エランドラが声をかけた。
『ご覧の通り、クリスだけでなくサナとベベもこうして一緒に来てもらっているのだけど、その件に関してソレーテおよび中央部は何か言っているかしら?』
『もちろんソレーテはじめ中央部は、お二方とも大いに歓迎しております』
ネイゲルは紗奈とベベに視線を向けてそう言った。それを聞いて安心するように紗奈は笑顔を見せた。それからネイゲルに対してぺこっと頭を下げると、クリスの耳元で「わたしたちが来ること、もう伝わってたんだね」と囁いた。
そんな紗奈にネイゲルは微笑み返した。
『さて、皆様にはメシオナをご用意しております。メシオナとは、いわば宿泊施設のことでございますが──────ひとまずそちらでおくつろぎください。
必要であればお食事もお取りいただけます。また、ジェカルの用意もございますので、このセテオスを観光して回るのもよろしいかと。
皆様のご調整がお済みになった頃にまたお呼びに伺いますので、それまではゆっくりとお過ごしください。それでは、メシオナまでご案内いたします』
そう言って、ネイゲルは方向転換して街へ先導した。
『ところで今ネイゲルが調整が済んだ頃にって言っていたけど、それってどういう意味なの?』
ネイゲルの後を追って、ゆったりと飛翔するエランドラにクリスが尋ねた。
『あなた方のエネルギー体の調整が済んだら、という意味よ。こちらの世界は地上とは波動の振動率が違うので、肉体的には問題がないように思えても、肉体の周りを取り囲むエネルギー体がこちらの振動率に合わせるように調整を進めているのよ』
『エネルギー体って?オーラみたいなものですか?』
紗奈が横から質問した。
『そう。エネルギー体は、オーラとも表現されるわ』
前を向いたまま、エランドラが答えた。
『人の周りにはいくつかの層に分かれてエネルギー体が取り囲んでいるのだけれど、その中でも人が感知できるものをオーラと呼んでいるわね。肉体では感知できないものも多くあるのだけれど。それらを含め、その人を構成しているエネルギー体すべてがその人の身体と言えるわ。
つまり、ひと口に身体といっても、肉眼で見える肉体のことだけをいうわけではないの』
『ふーん』
いまいち理解できずにいるクリスが曖昧に相槌を打つと、紗奈はなおも質問した。
『それで、こっちの波動に合わせるためにそのエネルギー体を調整するにはどうしたらいいのですか?』
『何もしなくて大丈夫よ。無意識下で調整がなされるから。眠くなったら寝ればいいし、食事がしたくなったらそうすればいい。身体がしたいと思うことをしていれば、スムーズに調整はなされるわよ』
『じゃあ、今から観光しに行っても?』
『ええ、もちろん。それをしたいと望むのなら』
出口から飛び出ると、紗奈が感嘆の声を漏らした。眼下には、クリスタルブルーに輝く水面が広がり、そしてはるか前方には塔や建物が乱立する街がある。
白く輝くその街に、クリスは見覚えがあった。前世でやってきたことのある、地底都市“セテオス”だ。
『おかえり、クリス』
クレアが笑顔で振り返った。
『ただいま』と、クリスも笑顔を返した。
「ここが、ファロスが来たことのある地底世界なの?」
あちこちキョロキョロと見回して、興奮した様子で紗奈が聞いた。
「そうだよ」
「すっごくきれい。それに、地底世界ってこんなにも明るいのね。なんだかすごくあったかいし。もっと暗くて寒くてどんよりしているのかと思ってた」
「うん、そうだよね」
クリスは少し得意になって、笑顔で答えた。
すると、前方から黒く大きなドラゴンがやってきた。勢いよく飛んできたそのドラゴンは、クリスたちの目の前でピタリと止まった。
頭に2本の角を生やしたいかめしいドラゴンは、エランドラよりもだいぶ大きい。顔の大きさだけでも、クリスと紗奈の身長を足したくらいの大きさがある。
ドラゴンの上には、色白でほっそりとした背の高い男がひとり立っていた。耳の長さに切りそろえられた髪は銀色で、シルクのようにつやつやと光る白い服を着ている。その男に、クリスは見覚えがあった。
門番のような立場で、セテオスへやってくる人間を監視する役割を担っているということだった。クリスが記憶を呼び覚ますと、『覚えていてくださいましたか』と、男がクリスに微笑みかけた。
『あれ?クリスってネイゲルに会ったことあったんだっけ?』
驚くようにクレアが言った。
『いえ、クリスさんとお会いするのはこれが初めてです。ただ、クリスさんが前世で初めてこちらへいらした際にも、私がこのように一度だけご挨拶させていただいたことがあるのです』
『あー、そっか』
ネイゲルが答えると、クレアが相槌を打った。
『でも、その一度しか会ってないっていうのにネイゲルもよくクリスのこと覚えてるね』
『お噂はかねがね伺っていたものですから』
そう言って、ネイゲルはクリスに向かって軽く頭を下げた。
『ところで』と、エランドラが声をかけた。
『ご覧の通り、クリスだけでなくサナとベベもこうして一緒に来てもらっているのだけど、その件に関してソレーテおよび中央部は何か言っているかしら?』
『もちろんソレーテはじめ中央部は、お二方とも大いに歓迎しております』
ネイゲルは紗奈とベベに視線を向けてそう言った。それを聞いて安心するように紗奈は笑顔を見せた。それからネイゲルに対してぺこっと頭を下げると、クリスの耳元で「わたしたちが来ること、もう伝わってたんだね」と囁いた。
そんな紗奈にネイゲルは微笑み返した。
『さて、皆様にはメシオナをご用意しております。メシオナとは、いわば宿泊施設のことでございますが──────ひとまずそちらでおくつろぎください。
必要であればお食事もお取りいただけます。また、ジェカルの用意もございますので、このセテオスを観光して回るのもよろしいかと。
皆様のご調整がお済みになった頃にまたお呼びに伺いますので、それまではゆっくりとお過ごしください。それでは、メシオナまでご案内いたします』
そう言って、ネイゲルは方向転換して街へ先導した。
『ところで今ネイゲルが調整が済んだ頃にって言っていたけど、それってどういう意味なの?』
ネイゲルの後を追って、ゆったりと飛翔するエランドラにクリスが尋ねた。
『あなた方のエネルギー体の調整が済んだら、という意味よ。こちらの世界は地上とは波動の振動率が違うので、肉体的には問題がないように思えても、肉体の周りを取り囲むエネルギー体がこちらの振動率に合わせるように調整を進めているのよ』
『エネルギー体って?オーラみたいなものですか?』
紗奈が横から質問した。
『そう。エネルギー体は、オーラとも表現されるわ』
前を向いたまま、エランドラが答えた。
『人の周りにはいくつかの層に分かれてエネルギー体が取り囲んでいるのだけれど、その中でも人が感知できるものをオーラと呼んでいるわね。肉体では感知できないものも多くあるのだけれど。それらを含め、その人を構成しているエネルギー体すべてがその人の身体と言えるわ。
つまり、ひと口に身体といっても、肉眼で見える肉体のことだけをいうわけではないの』
『ふーん』
いまいち理解できずにいるクリスが曖昧に相槌を打つと、紗奈はなおも質問した。
『それで、こっちの波動に合わせるためにそのエネルギー体を調整するにはどうしたらいいのですか?』
『何もしなくて大丈夫よ。無意識下で調整がなされるから。眠くなったら寝ればいいし、食事がしたくなったらそうすればいい。身体がしたいと思うことをしていれば、スムーズに調整はなされるわよ』
『じゃあ、今から観光しに行っても?』
『ええ、もちろん。それをしたいと望むのなら』
0
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる