クリスの物語

daichoro

文字の大きさ
103 / 227
第二章 クリスタルエレメント

第51話 目的

しおりを挟む
 クリスの話を聞き、ダルミアは2,3度うなずいた。

『たしかにそうですよね。お心遣いをありがとうございます』と言って、ダルミアは頭を下げた。



『でも、ボラルクさんにはお話して問題ないでしょう。ここまでクリスさんを導いてくださったのですから』

 怪訝な表情でふたりのやり取りを聞いていたボラルクが『どういうことだ?』と、問い質した。



 クリスが伺うようにダルミアに視線を向けると、ダルミアはうなずき返した。

『実は、ぼくがオケアノースに来た目的はアクアを手に入れるためなんだ。黙っていてごめん』

 クリスが謝ると、ボラルクは怒りと驚きの混じったような険しい表情を見せた。



『それは本当か?だって、お前クリスタルエレメントのことは知らないって言ってたじゃないか』

『うん、ごめん。ぼくの存在はあまり知られない方がいいとグレンさんに言われていたんだ。だから・・・』



 クリスがそう言ってうつむくと、ダルミアがフォローした。

『クリスさんは、選ばれし者のひとりだと考えられているのです』

 それを聞いて、ボラルクは目を丸くした。



『まさか、お前みたいなガキが・・・』

 そう呟いて、ボラルクはクリスをまじまじと見つめた。



『それで、お前はアクアを手に入れてどうするんだ?まさか、それを使って海を支配しようってんじゃないだろうな?』

 クリスは苦笑いして首を振った。



『ボラルクは少し勘違いしているみたいだけど、クリスタルエレメントにはそんな力はないんだよ。クリスタルエレメントは、一つひとつ単体で持っていてもあまり効果はなくて、5つ集まって初めて絶大なパワーを発揮するんだ。地底世界の中央部の人はそう言っていたよ。そうですよね?』

 クリスの意見に同意するように、ダルミアは黙ってうなずいた。



『クリスタルエレメントが5つ揃うと、地球を次元上昇させることもできれば、消滅させることも・・・』

 クリスが説明していると、ボラルクが手で制した。



『5つ揃った時、地球が次元上昇するという話は俺も知っている。負のパワーを用いれば、消滅させられることもな。でも、アクア単体でも海を支配できるほどのパワーがあるのは、間違いないはずだ。こっちじゃ、昔からそう言い伝えられているんだからな』

 ボラルクの意見に、ダルミアが口を挟んだ。



『たしかに、こちらではそのような言い伝えがあります。しかし、それらは単なる迷信でしかありません。恐らく、闇の勢力が人々を使ってクリスタルエレメントを探させるために、かつて流した噂話でしょう』



 柔和な笑みを浮かべながらも毅然とした態度で話すダルミアに、ボラルクは言い返すことなくうなずいた。

 それから下を向いて『マジかよ』とつぶやいた。



『それじゃあ、お前はそれを手に入れて次元上昇させようっていうのか?』

 顔を上げ、ボラルクはクリスに尋ねた。



『今、地球はアセンションの時期が来ているらしいんだ。でも、それを阻止して地球を消滅させてしまおうと、闇の勢力が躍起になってる。だから、闇の勢力に奪われてしまう前に、クリスタルエレメントを手に入れる必要があるんだよ』



『ふーん。だから王子も、こそこそ行動しているというわけか』

 ボラルクは顎に手を当て、納得するようにうなずいた。それからふと疑問に思ったことを口にした。



『でも、それならなんで王子は、海底にお前をひとり置いていくようなことをしたんだ?選ばれし者だっていうのに、モンロリーゴに食われちまったらどうするつもりだったんだろうな?』



 それはクリスが疑問に、そして不満に思っていたことだった。

 ボラルクに出会えたから良かったものの、そうでなかったら怪物の餌食となり今頃は海の藻屑となっていたかもしれないのだ。



『グレン王子があなたを海底に残して、フォーヌス広場へ来るように指示したのは、実はクリスさん、あなたを試すためでもあったのです』

 二人の疑問に答えるように、ダルミアが説明した。



『当然、危険に晒してしまうことは、王子も承知の上でした。しかしクリスさんが選ばれし者であることを信じていたからこそ、王子はあえてひとり残していったのです。選ばれし者であれば必ず導かれる、と。

 そしてその導き手となったボラルクさんは、運命共同体であるということです。ですから私も王子から、もしお連れの方がいるようであれば一緒にご案内するようにと仰せつかっておりました』



 なるほどとうなずきながらも、いささかの横暴さをクリスは感じていた。

 実際こうして導かれたわけだからグレンの考えは正しかったとも言える。でももし読みが違っていた場合、ひとりの人間の命が犠牲になっていたかもしれないのだ。



 しかし、そもそも海底人や地底人とはあらゆる面において感覚がだいぶ違う。だからきっと悪気はないのだろうと、クリスはあまり考えないようにした。



『それでは、王子が待っています。先へ行きましょう』

 アメジストの紫の明かりに仄かに照らされた通路を示して、ダルミアが言った。








しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【長編版】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...