134 / 227
第三章 悪魔の儀式
第20話 涙の真相
しおりを挟む
エランドラ、クレアそしてラマルが突然やってきた。
校庭に降り立ったドラゴンと有翼人の姿を目にして、クリスも紗奈も興奮を抑えきれなかった。しかしそれと同時になんでまたやってきたのか、という疑問が湧き起こった。
ラマルの背からふわりと舞い上がったクレアは、クリスに向かって『元気そうね』と、笑顔で言った。
『うん。まあね』と、クリスも笑顔で返事をした。
『それより、突然どうしたの?』
周囲を気にしながら、クリスは尋ねた。誰か人に見られていないか心配だった。
しかし、校庭には相変わらずクリスたち以外誰もいない。誰かいたとしても翼の生えたクレアやエランドラたちドラゴンの存在は見えないはずだが、それでもやはり人目が気になった。
そんな中、優里がひとりあんぐりと口を大きく開けていた。どうやら優里には、クレアたちの存在が見えているようだ。
クレアもそれに気がついて、『あら?』と言った。
『あなたも、わたしたちのことが分かるみたいね?』
優里はかすかにうなずくと、説明を求めるようにクリスに視線を送った。
「やっぱり、桜井さんには見えるんだね」
クリスが微笑みかけると、優里は小さく「うん」とうなずいた。
「この子はクレアっていうんだ。それで、向こうのドラゴンはエランドラといってぼくの守護ドラゴンだよ」
紗奈のうしろに座る、白く大きなドラゴンを指差してクリスが紹介した。
「それと、こっちのドラゴンがラマルといってクレアの守護ドラゴン」
そう言って手前に座る、エランドラよりひと回り小さい青色のドラゴンをクリスが示した。
クリスが簡単に三人を紹介すると、優里は慌てて立ち上がった。それから深々と頭を下げて「桜井優里です」と、声に出して名前を名乗った。
『ぼくと紗奈ちゃんの小学校からの友達だよ』とクリスが補足すると、クレアは何も言わずにクリスを見てから、エランドラの方を振り返った。
振り向いたクレアに、エランドラが無言でうなずき返した。クレアは肩をすくめると、また桜井さんに向き直った。
『あなた、ちょっと危ないんじゃない?』
「え?」
突然クレアにそのように言われて、優里は絶句した。
たしかに優里は動物の死骸を平気で拾ってきて、悪魔を召喚しちゃうような危ない人かもしれない。でも、初対面の人にそんな風に言うのは、いくらなんでも失礼じゃないだろうか。
そう思ってクリスが意見しようとすると『ちょっと』と、紗奈が口を挟んだ。
『わたしの友達にいきなり何言ってるのよ。失礼じゃない』
強い口調でそう言った紗奈をちらっと一瞥したものの、クレアはそれを無視して再度優里に向かって言った。
『あなた、このままいくと悪魔に生気を吸い尽くされるよ』
『え?どういうことですか?』
優里が思念で聞き返した。さすが悪魔と会話し慣れているだけあって、筋がいい。
『悪魔に魅入られてるよ。何か、契約を交わしたのでしょう?』
『それはそうだけど。でも、もう約束は果たしてるはずです』
クレアは首を振った。
『地表人ってこれだから。学校で習った通りね。本当詰めが甘い』と言って、クレアはため息をついた。
『いい?悪魔ってものすごく狡猾だから、契約をした時点で魅入られてしまうことがよくあるの。生命エネルギーが強くて、潜在能力は高いのに、無知ゆえに悪魔を召喚しちゃったような人なんて尚更。悪魔からしたら、恰好の餌食だよ。
一度魅入られてしまうと、自分が考えたことは知らず知らずのうちに、悪魔が実現を手伝うのよ。そうして、知らぬ間に自分の寿命や、大切な人の命がどんどんすり減らされていってしまうの』
「そんな・・・」
優里は両手で口を押さえた。
『それで、桜井さんはどうなっちゃうの?』
『このままいったら、命の保証はないよ。突然死したりとか、何らかの事故に巻き込まれたりして命を落とすことになるんじゃないかな』
クリスの方を振り向いて、素っ気なくクレアは言った。
それを聞いて、優里はへたりこむようにブランコに座った。顔面は蒼白で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
『ちょっと、それってどうにかできないの?』と問い詰める紗奈に、クレアは肩をすくめた。
『別にできないことはないけど、でもその前にまず本人に今後一切悪魔に頼らない、一切悪魔と関わらないっていう気持ちがあるかどうかが問題だよ』
クレアはそう答えながら、優里に視線を向けた。クリスも紗奈も優里を見た。
優里はうつむいたまま黙り込んでいた。
『悪魔に関わらないってことは、これから先ずっと悪魔の手助けは得られなくなる。悪魔に頼ってから今まできっとすべてうまくいっていたと思うけど、そういうのがなくなるっていうことだよ』
それでも覚悟できるかと確認するように、クレアは説明した。
しばらく黙り込んだ後、優里が顔を上げて紗奈を見た。それからクリスを見て一度またうつむき、かすかにうなずいた後にゆっくりと返事をした。
『はい。もう悪魔を召喚したり、悪魔にお願い事をしたりするようなことは二度としません。悪魔とは一切もう関わりません。だから・・・助けてください』
そう言って、優里は泣き出した。紗奈がそばへ駆け寄って「大丈夫だよ」と声をかけながら、背中をさすった。
悪魔のおかげでうまくいっていたのにまた元の生活に戻るのが怖いのか、悪魔と関われなくなるのが嫌なのか、それとも悪魔と関わってしまったばっかりに窮地に陥ってしまったことを悔いているのか。優里の涙の真相は分からなかった。
校庭に降り立ったドラゴンと有翼人の姿を目にして、クリスも紗奈も興奮を抑えきれなかった。しかしそれと同時になんでまたやってきたのか、という疑問が湧き起こった。
ラマルの背からふわりと舞い上がったクレアは、クリスに向かって『元気そうね』と、笑顔で言った。
『うん。まあね』と、クリスも笑顔で返事をした。
『それより、突然どうしたの?』
周囲を気にしながら、クリスは尋ねた。誰か人に見られていないか心配だった。
しかし、校庭には相変わらずクリスたち以外誰もいない。誰かいたとしても翼の生えたクレアやエランドラたちドラゴンの存在は見えないはずだが、それでもやはり人目が気になった。
そんな中、優里がひとりあんぐりと口を大きく開けていた。どうやら優里には、クレアたちの存在が見えているようだ。
クレアもそれに気がついて、『あら?』と言った。
『あなたも、わたしたちのことが分かるみたいね?』
優里はかすかにうなずくと、説明を求めるようにクリスに視線を送った。
「やっぱり、桜井さんには見えるんだね」
クリスが微笑みかけると、優里は小さく「うん」とうなずいた。
「この子はクレアっていうんだ。それで、向こうのドラゴンはエランドラといってぼくの守護ドラゴンだよ」
紗奈のうしろに座る、白く大きなドラゴンを指差してクリスが紹介した。
「それと、こっちのドラゴンがラマルといってクレアの守護ドラゴン」
そう言って手前に座る、エランドラよりひと回り小さい青色のドラゴンをクリスが示した。
クリスが簡単に三人を紹介すると、優里は慌てて立ち上がった。それから深々と頭を下げて「桜井優里です」と、声に出して名前を名乗った。
『ぼくと紗奈ちゃんの小学校からの友達だよ』とクリスが補足すると、クレアは何も言わずにクリスを見てから、エランドラの方を振り返った。
振り向いたクレアに、エランドラが無言でうなずき返した。クレアは肩をすくめると、また桜井さんに向き直った。
『あなた、ちょっと危ないんじゃない?』
「え?」
突然クレアにそのように言われて、優里は絶句した。
たしかに優里は動物の死骸を平気で拾ってきて、悪魔を召喚しちゃうような危ない人かもしれない。でも、初対面の人にそんな風に言うのは、いくらなんでも失礼じゃないだろうか。
そう思ってクリスが意見しようとすると『ちょっと』と、紗奈が口を挟んだ。
『わたしの友達にいきなり何言ってるのよ。失礼じゃない』
強い口調でそう言った紗奈をちらっと一瞥したものの、クレアはそれを無視して再度優里に向かって言った。
『あなた、このままいくと悪魔に生気を吸い尽くされるよ』
『え?どういうことですか?』
優里が思念で聞き返した。さすが悪魔と会話し慣れているだけあって、筋がいい。
『悪魔に魅入られてるよ。何か、契約を交わしたのでしょう?』
『それはそうだけど。でも、もう約束は果たしてるはずです』
クレアは首を振った。
『地表人ってこれだから。学校で習った通りね。本当詰めが甘い』と言って、クレアはため息をついた。
『いい?悪魔ってものすごく狡猾だから、契約をした時点で魅入られてしまうことがよくあるの。生命エネルギーが強くて、潜在能力は高いのに、無知ゆえに悪魔を召喚しちゃったような人なんて尚更。悪魔からしたら、恰好の餌食だよ。
一度魅入られてしまうと、自分が考えたことは知らず知らずのうちに、悪魔が実現を手伝うのよ。そうして、知らぬ間に自分の寿命や、大切な人の命がどんどんすり減らされていってしまうの』
「そんな・・・」
優里は両手で口を押さえた。
『それで、桜井さんはどうなっちゃうの?』
『このままいったら、命の保証はないよ。突然死したりとか、何らかの事故に巻き込まれたりして命を落とすことになるんじゃないかな』
クリスの方を振り向いて、素っ気なくクレアは言った。
それを聞いて、優里はへたりこむようにブランコに座った。顔面は蒼白で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
『ちょっと、それってどうにかできないの?』と問い詰める紗奈に、クレアは肩をすくめた。
『別にできないことはないけど、でもその前にまず本人に今後一切悪魔に頼らない、一切悪魔と関わらないっていう気持ちがあるかどうかが問題だよ』
クレアはそう答えながら、優里に視線を向けた。クリスも紗奈も優里を見た。
優里はうつむいたまま黙り込んでいた。
『悪魔に関わらないってことは、これから先ずっと悪魔の手助けは得られなくなる。悪魔に頼ってから今まできっとすべてうまくいっていたと思うけど、そういうのがなくなるっていうことだよ』
それでも覚悟できるかと確認するように、クレアは説明した。
しばらく黙り込んだ後、優里が顔を上げて紗奈を見た。それからクリスを見て一度またうつむき、かすかにうなずいた後にゆっくりと返事をした。
『はい。もう悪魔を召喚したり、悪魔にお願い事をしたりするようなことは二度としません。悪魔とは一切もう関わりません。だから・・・助けてください』
そう言って、優里は泣き出した。紗奈がそばへ駆け寄って「大丈夫だよ」と声をかけながら、背中をさすった。
悪魔のおかげでうまくいっていたのにまた元の生活に戻るのが怖いのか、悪魔と関われなくなるのが嫌なのか、それとも悪魔と関わってしまったばっかりに窮地に陥ってしまったことを悔いているのか。優里の涙の真相は分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる