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学園・出逢いは唐突に
第4話 入学試験
しおりを挟む2月末がやってくる。つまり、レオンハルトの入学試験がやってくるということだ。陛下の勅令とはいえ、無条件で入学できるわけではない。ここで不合格にでもなったらなに言われるかわからない。
皇立学園の試験は大きく筆記と実技に分かれる。
筆記試験は鬼門とも言われており、科目は政治、数学、歴史、兵学、魔法学の五つである。
この中で、レオンハルトが得意とするのは政治、兵学、数学である。
歴史は得意ではないのかと言われると、あまり得意ではない。
一部の歴史を自らが体験しているからこそ、歴史書がどれほど出鱈目なのかがよくわかる。そもそも歴史を記すのは常に勝者側なのだから、辻褄が合わないのは当然かもしれない。
さらに、魔法学も得意ではないかと思われるが、レオンハルトのやっている魔法の用法は、多くの人々にとっては奇抜すぎるのだ。
そもそも、あれを教科書に載せるわけがない。前提条件が虐待と言われてもおかしくないのだから。レオンハルトと同じことができるのはこの国でも少数。それこそ、護国の三騎士あたりが習得しているものである。
それ故、歴史と魔法学はあまり得意ではない。まあ、五科目中三科目が得意なら十分合格範囲内である。
ーーアレクサンダリア1世が初めて勝利を収めた戦はなに?
『サンクリラの戦い』
ーーアレクサンダリア1世が先の戦いで利用したものを書けるだけ書け。
『大河の水、流木、岩石』
ーーアレクサンダリア1世が起こした最大の惨劇はなに?
『クロイツァの焦土』
歴史もこうやってアレクサンダリア1世に関する問題が度々出題されるので、そこそこ点数が取れた。
そして、いざ実技試験。皇立学院の実技試験は実にシンプル。試験官と戦って、その内容によって採点される。勝つ必要はない、というよりほとんどの生徒は勝てない。
この実技試験はレオンハルトにとってはお手の物だが、ここであまり目立つのは本意ではない。なんせ、一度追い出された学園だ。また注目の的になってもかなわない。
とはいえ、試験でわざと手加減するのも何だか違う気がしてならない。
そこで、レオンハルトがとった選択はーー
ーー自身に有りったけの魔力を注いで重力魔法を発動させる。
いつもやっていることだが、今までは筋肉そのものに重力をかけていた。今回はそうではない。全身に重力魔法をかけることで、細かい魔力制御を必要とせず、ただただ重力を増させることに集中できる。
その結果レオンハルトが受ける重力は、通常の32倍となった。
加えて魔力を魔法に割いているため、魔力による身体強化はほとんどできないし、陸跡魔闘術も使えない。この状態でどれだけ戦えるかを、レオンハルトは測るつもりだった。
「次、受験番号1729、レオンハルト」
「はい!」
レオンハルトの順番がやっと回ってくる。眼鏡をかけたクールビューティーの試験官が、レオンハルトの名を呼ぶ。
「これより、こちらの教官と戦ってもらいます。勝つ必要はありませんので、あまり気張りすぎないように。実力を存分に発揮してください」
「おう、お前さんの相手は俺だ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「では構えてください……よーい、始め!」
開始の合図と同時に、レオンハルトは駆ける。逆手に持っていた長物の槍を背後に構えたまま、教官に突撃する。体で隠すことで軌道を読ませないようにしている。
それに対して教官はわずかに目を見開く。
間合い入ったレオンハルトは、スピードを落とす事なく、槍を後ろから前に振り抜く。上か下かと迷っていた教官は、避けることができず、受け止めるしかなかった。
「うお! おっも!」
(何つう威力だよ全く! 速いことには速いが、重さはその比じゃねー! こいつ、この体でどんな体重してんだよ)
レオンハルトの体重は通常の32倍になっているのだから、攻撃が重いのは当然である。速さは大したことないと判断した教官は不意を突かれる。
だが、それも一瞬のこと。すぐに切り替えて、受けるのではなく、受け流すことにした。
レオンハルトの突きを、教官は難なくいなす。さらに反撃に出ようとするが、それをレオンハルトは許さない。
入れ替えるように槍を縦に回転させ、石突きを前に突き出す。
流石に無視するわけにもいかず、教官は反撃を諦め防御に入る。
石突きの突き出しをいなされたレオンハルトは、そのまま横に槍を回転させ、再び穂先で攻撃を仕掛ける。
「おい! あいつ何者だ!」
「教官と互角にやり合ってるぞ!」
「いや、むしろ押してないか?」
「そんなバカな! 同い年だぞ!」
「ここの教官はみんな元騎士だろ?」
攻めのレオンハルトに、守りの教官。
側からみればレオンハルトが押しているように見えるが、実はそうでもない。速さがないレオンハルトは、攻めあぐねていた。
(守りがうまい。これはそうそう切り崩せそうにないな。かといって魔法を緩めてしまっては意味がない、どうしたものか)
(こいつ! 体力が無尽蔵かよ! そろそろバテてもおかしくねーのに、息ひとつ切れてねー)
教官とレオンハルトが激しい攻防を繰り広げる。一進一退のバランスを崩そうと、レオンハルトが先に仕掛ける。
今でにないほどの大振りで上段から振り下ろす。その一撃には確かな威力が乗っていた。受ければ教官もただでは済まない。が、やはり速さが足りない。
ギリギリのところで半身になって避ける教官。レオンハルトは攻撃を止めることもできず、そのまま槍が地面に向かって振り下ろされる。
(チャンス! 胴ががら空きだ!)
教官が守りから攻めに切り替えようとした瞬間。レオンハルトは放たれた攻撃の勢いのまま、槍を地面に突き立て、そのまま棒と化した槍を軸に横一回転する。
(しまった! 誘われた!)
普段なら引っかかるはずがないが、受験生であるレオンハルトに良いようにされてストレスが溜まったのだろう。
レオンハルトは回転した勢いを利用して蹴りを放つ。
それでも流石は教官と言ったところか、何とか防御体制をとる。吹き飛ばされながらも、しっかりと受け身をとり、すぐさま体勢を立て直す。
追撃を仕掛けようと、駆けるレオンハルト。迎撃しようと構える教官。
しかしーー
「そこまで!」
クールビューティーな美人試験官が試験終了の合図を出す。
それぞれの得物が、互いの首元に突きつけられたまま、2人は停止する。
「双方武器を収めなさい。試験は終了です。受験番号1729、速やかに退室しなさい」
「了解しました」
「……」
去っていくレオンハルトの背中を眺める教官。レオンハルトが退室を済ませると、クールビューティーな試験官が話しかける。
「すごい子でしたね。まさか、ルドルさんと互角にやりあえるなんて」
「……互角じゃねー」
「え? でも、私の目では互角のように見えましたが?」
「ああ、互角なのは間違いねーが……あいつ、手抜いてやがった」
「ええ? 嘘!? 何でわざわざ試験で手を抜くんですか?」
「そんなの俺だって知るかよ。だが、あいつはあれだけじゃねーだろ。スピードと釣り合わないパワー。実力以上に戦い慣れしてやがる。攻撃の軌道がまるで読めねー。何かの制約を受けてるのかもな」
「……末恐ろしいですね」
「あいつ、名前なんて言ったか?」
「えーと……レオンハルト、レオンハルト・ライネルです」
「……ライネルだと?」
「ライネルに何かあるんですか? 確か辺境の地でしたよね」
「……五年前、帝国が1万の大軍でライネル領に攻め込んだことがある。上で止められてるが、そんな大事が止められるわけもなく、俺らにも話が届く。あの時、俺も現役だったからな」
「1万!?」
「それでよ、その1万の軍を領軍だけで撃破したらしい。その時の功が評されて、当時領主代理だった人物が叙爵された。その人物はまだ未成年だったから、名前は伏せられたが……なるほど、あいつが……流石に嘘だろうと思ったが、これなら満更嘘というわけでもないかもな」
「そんな……」
注目されたくないと思ったレオンハルトだが、やはりというべきか、しっかり目立っていた。
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