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学園・出逢いは唐突に
第10話 出逢いは唐突に
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レオンハルトが学園にきて1ヶ月が経とうとしてる。
1年A組では絶大な尊敬を集めるレオンハルトも、未だ校内では腫れ物扱いされている。それだけ、レオンハルトの悪評は根強いと言うことだ。
にもかかわらずその1ヶ月間、特に何もなかった。
というのも、レオンハルトの悪い噂とともに、もう一つ噂が流れていたからだ。
ーーレオンハルトはシュナイダーのお気に入りだ
という噂だ。
多くのものは信じていない。
問題児のレオンハルトと護国の三騎士の麗剣・シュナイダーじゃ住む世界が違う。そのシュナイダーがレオンハルトを気にいるなんてありえない。そうみんな思っている。
だが、とはいえそれを確かめようとする者もいない。いや、いないわけではないが、レオンハルトはうまくかわしている。
よって、校内を歩くと侮蔑の視線を浴びせられるが、話しかけられることは少ない。陰口は絶えいないが。
そんなある日の放課後、レオンハルトは訓練場にやって来ていた。というより、ここ数日毎日来ている。最近、あまり自主練が進んでいないことが原因だ。
皇都に来たはいいものの、レオンハルトには家がなかったのだ。
そのせいで、しばらくは旅館暮らしをしている。貴族としてどうなのかと言われると返す言葉もないが、元々レオンハルトは貴族らしくないから今更である。
そんなこんなでシリアには家探しをしてもらいつつ、レオンハルトは学園に通っていた。
しかし、ここで問題が発生する。宿では自主練だできないということだ。まさか宿の空きスペースで大刀を振り回すわけにもいかず、レオンハルトは鍛錬できずにいたのだ。
だから、毎日授業前と放課後には訓練場にやって来て、訓練をしている。
ちなみに、訓練場はいくつも存在し、武闘大会前でもなければ他の生徒と遭遇することは滅多にない、はずだった。
しかしその日、先客がいた。
銀の髪をした少女である。彼女は、その美しい銀髪をひとまとめにし、脇目もふらずに剣を振り続けていた。
エメラルド色に輝く瞳は先を見据えており、顔立ちは信じられないほど整えられていた。剣を振っていなければ彫刻と疑うほどである。
訓練場を照らす夕陽がその銀色の髪に反射し、その反射した光もまた訓練場を照らす。刹那、レオンハルトは、まるで絵画の世界に迷い込んだようだった。
(綺麗……相当鍛錬を積んだのだろう……故に)
「勿体ないな」
障害物も何もない開けた空間。レオンハルトの呟きは瞬く間に広がる。
瞬間、少女の手が止まる。
剣を振るのをやめ、レオンハルトの方へと勢いよく視線を向ける。彼女の頬を流れる汗が飛び散り、これまた絵になるような光景である。
少女がレオンハルトの方へと近く。見惚れていたレオンハルトは、そこで我に返る。そして、珍しく慌てふためいていた。
「あ、いや、その……すまない。覗いてたつもりはないんだが、その、なんだ」
「さっきの、どういう意味?」
「え?」
「さっき、勿体ないって。あれ、どういう意味?」
「ああ」
少女の目に敵意はないが、わずかな怒気が宿っていた。
「そのままの意味だ。綺麗な剣だ。鍛錬を積んだ美しい剣だ。だが、実戦向きではない」
「む! じゃーどういうのが実戦向けなわけ?」
ムキーっと言った感じで少女はレオンハルトを睨む。第一印象は綺麗という印象だったが、意外と可愛い方なのかもしれない。
「そうだな……剣に意識が行きすぎてるように思える。綺麗な剣ではあるが、それでは想定外のことに対処できない。少し、体術の方も鍛えておいた方がいいだろう」
「あー、なるほど。ちょっと的確かも」
先ほどの怒った表情から一転、今度は納得した感じの少女。
表情がコロコロ変わって見てて飽きない、とレオンハルトは思う。
「じゃーその体術ってのを見せてよ」
「はい?」
「そっちが言い出したことでしょ。だったら最後まで責任持ってよね」
「責任って」
「それじゃーいくよう」
「え? 何を?」
「問答無用!」
「だから何を!?」
そう言って少女が剣を構え、レオンハルトに向かって突き出す。ちゃんとレオンハルトを怪我させないように配慮した一撃だというのがわかる。
(いきなりかよ……でもまあ、体術を見せろだったか? 指摘したんだ、最後まで面倒を見よう)
考えがまとまったレオンハルトは、すぐさま思考を戦闘モードに切り替える。
まっすぐ突き出された剣をギリギリでかわし、懐で入り込む。そのまま右拳で、顔面を目掛けて一撃を放つ。まさか本当に当てるわけにもいかず、レオンハルトはすんでのところで攻撃を止め、拳を引く。
右拳を引くと同時に、そのまま体の回転を利用して左腕で二度目の攻撃を仕掛ける。剣を突き出した少女の腕の下から左腕を回り込ませ、少女の右頬を撃つべく拳を放つ。そして、これも寸止めで止める。
さらに左腕も引き、再び右手を突き出す。突進した勢いもありかなり懐深くまで入り込んだレオンハルトは、正面ではなく、下顎へと手を伸ばす。喉元へ向かって貫手を放つがここでも寸止め。
わずか一瞬の間だが、少女が1撃を放つ間に、レオンハルトは3回も攻撃して見せた。
少女も目では追えていたが、体が反応できなかった。そして、僅か後に、少女の体も反応する。
「あ、あわわわぁぁ」
喉元に貫手を突きつけられた少女は、寸止めだとわかっていながらも、反射的に後ずさろうとする。そこで足がもつれて、後ろへ向かって倒れてしまう。
「「あっ」」
今まさに倒れようとした瞬間に、レオンハルトは左手を伸ばし、少女の右手を掴む。それと同時に倒れないように、右手を腰の後ろへと回す。ほんの一瞬の出来事だが、レオンハルトの身体能力がそれを可能とする。
目と目が合う。見つめ合う二人の間に沈黙が流れる。
先に動いたのは少女の方。
「わあぁぁ! すっごい速かった! どうやったの? ねー、どうやったの?」
レオンハルトを押しのけ、一瞬二人の間に距離ができるが、それを少女がすかさず詰み、レオンハルトを質問攻めにする。気まずさをものともしない様子だったが、その頬はわずかに赤くなっていた。
「あ、ああ。これが体術だ。体の使い方を工夫すれば、力を入れなくても速さはでる。今のは肩甲骨を回転させることで技の繋ぎを滑らかにすると同時に、遠心力を利用して拳を加速させるんだ」
レオンハルトはといえば、こちらも頬を赤ている。そして、普段よりも早口なってしまっている。
「へー、なるほど。これ、剣にも応用できるの?」
「ああ、できる。というより、これが本来の体の使い方だ。君のは少し硬かったからな」
「そうなんだぁ。あっそういえば自己紹介まだだったね。君って普段呼ばれないからなんか違和感」
「そういえばそうだな。レオンハルト・ライネル。1年だ」
「私はオリービア・ラインクール。2年だよ。よろしく」
「ああ、よろし……く?」
オリービアの名を聞いたレオンハルトは硬直する。そのわずかな硬直が解けると、たちまち膝をつき、首と垂れる。
「皇女殿下とはつゆ知らず、失礼いたしました! お許しください」
「あっ、いいよいいよ。気にしてないから、顔を上げて……あと口調も変えなくていいから……あと、皇女殿下じゃなくて、オリービアって……」
レオンハルトの反応を見て、オリービアはわずかに悲しそうな表情を浮かべる。声も後ろにつれてだんだん小さくなっていった。
(やっちゃった。名乗らない方がよかったかなぁ。折角お友達になれそうだったのに……これじゃー無理かなぁ)
皇女が気にしくなくてもいいと言っても、他のものがそうするかは別の話。
皆オリービアが皇女だと知ると、離れるか、おべっかをかいてくるかの二択だった。皇女とただの友達になろうとする物好きは存在しない。その事実がオリービアの心を抉っていた。
(いつも通りになるだけ……みんなそうだった……昔と、何か変わったわけじゃないのに……なのに、なんでだろう……この人には、そんな態度をとって欲しくない)
そう思うと、だんだんオリービアの目に涙が溜まっていく。でも、ここで泣いてはいけない。ここで泣いたらレオンハルトに迷惑をかけてしまうから。
脳内を渦巻く感情の整理が付かないうちに、レオンハルトは立ち上がる。
「そうか。では改めて、よろしく。オリービア」
「え?」
「ん? どうした?……おい、どうした! どこか痛むのか?」
「え?」
そこでオリービアは初めて頬を伝う液体に気づく。
「あっ、これは違くって……その、嬉しくてつい……あ、そ、その、ごめんなさい」
「……はぁ……全く、おどかすなよ」
「ごめんなさい……でも、レオンハルト君って変だよね」
「なぜだ?」
「だって、皇族が言ったからと言って、すぐタメ口で話せる人ってそうそういないよ? 肝が座ってるよね」
「あー、うーん。なんだかな、オリービアに敬語を使うのはしっくりこないんだよな」
「あ! それって私が皇女らしくないってこと?」
「皇女らしくはないだろう。普通の皇女はいきなり喧嘩を売ったりしない」
「何を! 怒ったもん! レオンハルトくんなんて知らない! バーカバーカ」
「そういうところも皇女らしくないな」
「ムキー!」
「ははは」
あれやこれやと言い合う二人。いつになく楽しそうなレオンハルトと、これまた楽しそうなオリービア。やがて二人とも疲れてしまったのか、その場に沈黙が流れる。
気まずいというわけではない。レオンハルトもオリービアも清々しい顔をしている。
「なんだか懐かしいな」
「なんだか懐かしい気がする」
「「ん?」」
「「……」」
二人は顔を合わせ、そしてーー
「「あはははは」」
笑いだす。何が面白かったのか、それは当人たちにしか分からないことかもしれない。やっと笑いがおさまると、オリービアが話を切り出す。
「……オルア」
「ん?」
「親しい人はこう呼んでるの」
「そうか……オルア」
「なぁに?」
「俺もレオで構わんぞ」
「うん! レオ君!」
「……なんだ?」
「呼んだだけぇ、ふふ」
「なんだそれ」
夕陽が照らす訓練場内。まるで絵画のような風景には、美しい女性の他に、黒髪の男性の姿が加わったのだった。
1年A組では絶大な尊敬を集めるレオンハルトも、未だ校内では腫れ物扱いされている。それだけ、レオンハルトの悪評は根強いと言うことだ。
にもかかわらずその1ヶ月間、特に何もなかった。
というのも、レオンハルトの悪い噂とともに、もう一つ噂が流れていたからだ。
ーーレオンハルトはシュナイダーのお気に入りだ
という噂だ。
多くのものは信じていない。
問題児のレオンハルトと護国の三騎士の麗剣・シュナイダーじゃ住む世界が違う。そのシュナイダーがレオンハルトを気にいるなんてありえない。そうみんな思っている。
だが、とはいえそれを確かめようとする者もいない。いや、いないわけではないが、レオンハルトはうまくかわしている。
よって、校内を歩くと侮蔑の視線を浴びせられるが、話しかけられることは少ない。陰口は絶えいないが。
そんなある日の放課後、レオンハルトは訓練場にやって来ていた。というより、ここ数日毎日来ている。最近、あまり自主練が進んでいないことが原因だ。
皇都に来たはいいものの、レオンハルトには家がなかったのだ。
そのせいで、しばらくは旅館暮らしをしている。貴族としてどうなのかと言われると返す言葉もないが、元々レオンハルトは貴族らしくないから今更である。
そんなこんなでシリアには家探しをしてもらいつつ、レオンハルトは学園に通っていた。
しかし、ここで問題が発生する。宿では自主練だできないということだ。まさか宿の空きスペースで大刀を振り回すわけにもいかず、レオンハルトは鍛錬できずにいたのだ。
だから、毎日授業前と放課後には訓練場にやって来て、訓練をしている。
ちなみに、訓練場はいくつも存在し、武闘大会前でもなければ他の生徒と遭遇することは滅多にない、はずだった。
しかしその日、先客がいた。
銀の髪をした少女である。彼女は、その美しい銀髪をひとまとめにし、脇目もふらずに剣を振り続けていた。
エメラルド色に輝く瞳は先を見据えており、顔立ちは信じられないほど整えられていた。剣を振っていなければ彫刻と疑うほどである。
訓練場を照らす夕陽がその銀色の髪に反射し、その反射した光もまた訓練場を照らす。刹那、レオンハルトは、まるで絵画の世界に迷い込んだようだった。
(綺麗……相当鍛錬を積んだのだろう……故に)
「勿体ないな」
障害物も何もない開けた空間。レオンハルトの呟きは瞬く間に広がる。
瞬間、少女の手が止まる。
剣を振るのをやめ、レオンハルトの方へと勢いよく視線を向ける。彼女の頬を流れる汗が飛び散り、これまた絵になるような光景である。
少女がレオンハルトの方へと近く。見惚れていたレオンハルトは、そこで我に返る。そして、珍しく慌てふためいていた。
「あ、いや、その……すまない。覗いてたつもりはないんだが、その、なんだ」
「さっきの、どういう意味?」
「え?」
「さっき、勿体ないって。あれ、どういう意味?」
「ああ」
少女の目に敵意はないが、わずかな怒気が宿っていた。
「そのままの意味だ。綺麗な剣だ。鍛錬を積んだ美しい剣だ。だが、実戦向きではない」
「む! じゃーどういうのが実戦向けなわけ?」
ムキーっと言った感じで少女はレオンハルトを睨む。第一印象は綺麗という印象だったが、意外と可愛い方なのかもしれない。
「そうだな……剣に意識が行きすぎてるように思える。綺麗な剣ではあるが、それでは想定外のことに対処できない。少し、体術の方も鍛えておいた方がいいだろう」
「あー、なるほど。ちょっと的確かも」
先ほどの怒った表情から一転、今度は納得した感じの少女。
表情がコロコロ変わって見てて飽きない、とレオンハルトは思う。
「じゃーその体術ってのを見せてよ」
「はい?」
「そっちが言い出したことでしょ。だったら最後まで責任持ってよね」
「責任って」
「それじゃーいくよう」
「え? 何を?」
「問答無用!」
「だから何を!?」
そう言って少女が剣を構え、レオンハルトに向かって突き出す。ちゃんとレオンハルトを怪我させないように配慮した一撃だというのがわかる。
(いきなりかよ……でもまあ、体術を見せろだったか? 指摘したんだ、最後まで面倒を見よう)
考えがまとまったレオンハルトは、すぐさま思考を戦闘モードに切り替える。
まっすぐ突き出された剣をギリギリでかわし、懐で入り込む。そのまま右拳で、顔面を目掛けて一撃を放つ。まさか本当に当てるわけにもいかず、レオンハルトはすんでのところで攻撃を止め、拳を引く。
右拳を引くと同時に、そのまま体の回転を利用して左腕で二度目の攻撃を仕掛ける。剣を突き出した少女の腕の下から左腕を回り込ませ、少女の右頬を撃つべく拳を放つ。そして、これも寸止めで止める。
さらに左腕も引き、再び右手を突き出す。突進した勢いもありかなり懐深くまで入り込んだレオンハルトは、正面ではなく、下顎へと手を伸ばす。喉元へ向かって貫手を放つがここでも寸止め。
わずか一瞬の間だが、少女が1撃を放つ間に、レオンハルトは3回も攻撃して見せた。
少女も目では追えていたが、体が反応できなかった。そして、僅か後に、少女の体も反応する。
「あ、あわわわぁぁ」
喉元に貫手を突きつけられた少女は、寸止めだとわかっていながらも、反射的に後ずさろうとする。そこで足がもつれて、後ろへ向かって倒れてしまう。
「「あっ」」
今まさに倒れようとした瞬間に、レオンハルトは左手を伸ばし、少女の右手を掴む。それと同時に倒れないように、右手を腰の後ろへと回す。ほんの一瞬の出来事だが、レオンハルトの身体能力がそれを可能とする。
目と目が合う。見つめ合う二人の間に沈黙が流れる。
先に動いたのは少女の方。
「わあぁぁ! すっごい速かった! どうやったの? ねー、どうやったの?」
レオンハルトを押しのけ、一瞬二人の間に距離ができるが、それを少女がすかさず詰み、レオンハルトを質問攻めにする。気まずさをものともしない様子だったが、その頬はわずかに赤くなっていた。
「あ、ああ。これが体術だ。体の使い方を工夫すれば、力を入れなくても速さはでる。今のは肩甲骨を回転させることで技の繋ぎを滑らかにすると同時に、遠心力を利用して拳を加速させるんだ」
レオンハルトはといえば、こちらも頬を赤ている。そして、普段よりも早口なってしまっている。
「へー、なるほど。これ、剣にも応用できるの?」
「ああ、できる。というより、これが本来の体の使い方だ。君のは少し硬かったからな」
「そうなんだぁ。あっそういえば自己紹介まだだったね。君って普段呼ばれないからなんか違和感」
「そういえばそうだな。レオンハルト・ライネル。1年だ」
「私はオリービア・ラインクール。2年だよ。よろしく」
「ああ、よろし……く?」
オリービアの名を聞いたレオンハルトは硬直する。そのわずかな硬直が解けると、たちまち膝をつき、首と垂れる。
「皇女殿下とはつゆ知らず、失礼いたしました! お許しください」
「あっ、いいよいいよ。気にしてないから、顔を上げて……あと口調も変えなくていいから……あと、皇女殿下じゃなくて、オリービアって……」
レオンハルトの反応を見て、オリービアはわずかに悲しそうな表情を浮かべる。声も後ろにつれてだんだん小さくなっていった。
(やっちゃった。名乗らない方がよかったかなぁ。折角お友達になれそうだったのに……これじゃー無理かなぁ)
皇女が気にしくなくてもいいと言っても、他のものがそうするかは別の話。
皆オリービアが皇女だと知ると、離れるか、おべっかをかいてくるかの二択だった。皇女とただの友達になろうとする物好きは存在しない。その事実がオリービアの心を抉っていた。
(いつも通りになるだけ……みんなそうだった……昔と、何か変わったわけじゃないのに……なのに、なんでだろう……この人には、そんな態度をとって欲しくない)
そう思うと、だんだんオリービアの目に涙が溜まっていく。でも、ここで泣いてはいけない。ここで泣いたらレオンハルトに迷惑をかけてしまうから。
脳内を渦巻く感情の整理が付かないうちに、レオンハルトは立ち上がる。
「そうか。では改めて、よろしく。オリービア」
「え?」
「ん? どうした?……おい、どうした! どこか痛むのか?」
「え?」
そこでオリービアは初めて頬を伝う液体に気づく。
「あっ、これは違くって……その、嬉しくてつい……あ、そ、その、ごめんなさい」
「……はぁ……全く、おどかすなよ」
「ごめんなさい……でも、レオンハルト君って変だよね」
「なぜだ?」
「だって、皇族が言ったからと言って、すぐタメ口で話せる人ってそうそういないよ? 肝が座ってるよね」
「あー、うーん。なんだかな、オリービアに敬語を使うのはしっくりこないんだよな」
「あ! それって私が皇女らしくないってこと?」
「皇女らしくはないだろう。普通の皇女はいきなり喧嘩を売ったりしない」
「何を! 怒ったもん! レオンハルトくんなんて知らない! バーカバーカ」
「そういうところも皇女らしくないな」
「ムキー!」
「ははは」
あれやこれやと言い合う二人。いつになく楽しそうなレオンハルトと、これまた楽しそうなオリービア。やがて二人とも疲れてしまったのか、その場に沈黙が流れる。
気まずいというわけではない。レオンハルトもオリービアも清々しい顔をしている。
「なんだか懐かしいな」
「なんだか懐かしい気がする」
「「ん?」」
「「……」」
二人は顔を合わせ、そしてーー
「「あはははは」」
笑いだす。何が面白かったのか、それは当人たちにしか分からないことかもしれない。やっと笑いがおさまると、オリービアが話を切り出す。
「……オルア」
「ん?」
「親しい人はこう呼んでるの」
「そうか……オルア」
「なぁに?」
「俺もレオで構わんぞ」
「うん! レオ君!」
「……なんだ?」
「呼んだだけぇ、ふふ」
「なんだそれ」
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