Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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動乱・生きる理由

第8話 波乱の始まり

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 武闘大会の2回戦を終えたレオンハルトは、選手控室で決勝の準備をしていた。すでに、レオンハルトはオリービアの勝利を疑うことなく、対戦相手はオリービアだと考えていた。

 目を瞑り、息を整える。先ほどのオリービアの動きを、脳内で繰り返し再生する。全力。それを出せずとも、より万全な状態でオリービアの覚悟を受け止めるために。

 トントン。

「失礼しま……っひ!?」

 しかし、その集中を乱すものがいた。

 部屋に入ってきたものは、レオンハルトの溢れんばかりの闘気に腰が引ける。

「……これは、いつぞやの使者殿ではないか。いかがなさいましたかな」

 部屋に入ってきたのは、かつてライネル領を視察しにきた使者であった。集中を乱されたレオンハルトは、わずかに不機嫌になる。しかし、陛下の使者とあっては無下に扱うことはできない。

「ひーふー、ひーふー.....お久しぶりです、レオンハルト殿。おかわりはないようで安心いたしました」
「皇都にきてまだ半年。そうそう変わるものでもないでしょう」
「ははは、それもそうですね……時間もありませんので、本題に入らせていただきます」
 
 先ほどのレオンハルトに気圧された使者だが、さすがは皇帝が使者にするだけのことはある。すでに呼吸を整え、レオンハルトと普通に会話を交わしていた。

 使者のただならぬ雰囲気を感じ取ったレオンハルトも、姿勢を整える。

「……極秘事項です……帝国が、攻めてきました」
「っ!? ……数は?」
「およそ、3万」
「……思ったよりも少ないな」
「機動力を優先するためだと、軍部は分析しております」
「なるほど。となると、こちらも急いで迎撃の準備をする必要があるでしょう」
「はい。つきましては、レオンハルト殿にも、出兵をしていただきたく」
「ええ、それは無論ーー」
「いいえ、今すぐにです」
「……なに?」
「すでに、帝国軍は我が国との国境線を超えております」
「っ!! ……思った以上だな」
「今すぐにライネル領に帰還し、兵を率いて東の向かへ。これが陛下から賜った勅命でございます」
「……」
「……レオンハルト殿」
「……承知しました」

 そう言って、レオンハルトは学園を、武闘大会決勝の舞台を後にした。


 ◆


 レオンハルトが真っ先に向かったのが、皇都の自宅である。

「あれ? レオンハルト様? 今日、武闘大会の試合があるのでは?」
「予定変更だ」
「……」

 レオンハルトの雰囲気から察したのか、紫色の髪と瞳をした女性、シリアが表情を改める。その覇気はただの侍女に出せるものではなかった。

 この5年間、レオンハルトとの修行をこなしたシリアは、ただの武人をも凌ぐ実力の持ち主となっていた。

「帝国の侵攻だ。数は3万らしい」
「!! ……馬の用意をして参ります」
「ああ、頼む。荷物は最低限、シリアの影収納の中にあるものだけでいい」
「かしこまりました」

 ただそれだけの会話で、シリアはレオンハルトの意図を察する。これも、5年前までにはなかった変化である。





 街道をあり得ない速さでかける2頭の馬がいた。よく見れば、上に人間も乗っている。

 一頭は赤黒い体毛をしており、その瞳は金色に輝いていた。一眼でただの馬ではないことがわかる。

 もう一頭の馬は、これまた奇特、黒い毛並みに黒いたてがみ、黒瞳に黒い蹄、何もかもが黒一色でそまっていた。

「……レオンハルト様」
「なんだ?」

 この速さで駆けながらも、二人は会話ができていた。魔力で強化された肉体だから成せる技である。

「武闘大会、よかったのですか?」
「……陛下の勅命だ。逆らうわけにはいかん」
「しかし、陛下の勅命は、わたしたちの移動速度を考慮していません。通常2週間の道のりですが、わたしたちなら3日で駆け抜けます。一日の遅れぐらいは、カバーできるはずです」
「……そうだな。だが、戦争が近いというのは間違いない。早く出ることに越したことはない」
「しかしーー」
「それにだ、戦争まえにやらねばならいことがある」


 ◆

 レオンハルトは、皇都を出て三日の後にライネル領に到着した。

 到着したばかりではあるが、レオンハルトが真っ先に行った場所は、行政府でもなく、騎士団本部でもない。レオンハルトがやってきたのは、現在ライネルの鍛治士をまとめ役である、ガイアス工房である。

「ガイアス殿はいるか?」
「おお、オレがガイアスだ、って領主様じゃねーか。あんた、今皇都にいるはずじゃ?」
「事態が急変した。帝国の侵攻だ」
「っな!! ……とすると、あれが欲しいってことか」
「ああ、足りないのは後どれぐらいだ?」
「……ざっと30だ」
「間に合うか?」
「……ギリだな……しゃーね、街の鍛治士総出でやってやるよ!」
「すまん、迷惑をかける」
「いいってことよ! 他でもねー領主様の依頼だ! みんな、張り切るだろうぜ!」
「それは頼もしいな」

 こうして、鍛治士たちの慌ただしい1週間が始まった。


 ◆

 帝国による侵攻は、一般人には伏せられていた。しかし、騎士たちの間では周知の事実であり、鍛治士たちとは違う意味で、彼らは慌ただしかった。

 戦争に向けて、着々と準備を進めていた。

 そして、レオンハルトがライネル領に帰還して、1週間が立ち、今騎士たちはレオンハルトによって集められていた。

 その前に並べられたのは、数々の武具たち。鮮やかな銀色に、藍色の装飾が施されたような武器。魔戦騎士が使う長剣や、魔弓騎士が使う弓がそこにはあった。

「レオンハルト様、これは一体?」
「お前たちの新しい武器だ」
「武器、ですか? しかし、我々にはすでに武器があります」
「今日からこれを使え。これは、純ミスリルに藍金で装飾した武器だ」
「「「なあ!?」」」

 2年前、レオンハルトが発掘するように指示した鉱山から、ミスリル鉱が産出された。それにより、ライネル領ではミスリルが大量に存在していた。

 他領に売れたひと財産になるのに、レオンハルトはそれを売ることはなかった。皆疑問に思っていたことが、まさかここで答えが見つかるとは。

 ちなみに藍金とは黒鉄と同様、もともとはただの金である。それに大量の魔力が染み込み、魔導金属と化しているもの。これも、とある理由で、ライネル領には少なからず存在していた。

 それを利用して描かれた刻印には、魔力を増幅させる効力、そしてが付与される。そのため、レオンハルトはこれも外に出さずにしていた。

「今までの武器とは比べ物にならんほど魔力の通りが良くなるだろう。魔力を増幅させることもできる。それに……機能はもう一つあるが、今はいいだろう」
「あ、あの、レオンハルト様? 大変恐縮ですがーー」
「純ミスリルに藍金の刻印だ」
「え?」
「原価だけでも一本金貨500枚はくだらん。おまけに、この街のドワーフたちの会心の作だ。人によっては金貨1000枚を出すものもいるだろう」
「「「……」」」
「これを失うことは多大な損失をもたらす」
「「「……」」」
「紛失することは許さん。いいか。領主として固く命ずる! 一本たりとも紛失させてはならん! 必ず、再びこの場に全て揃えよ! 良いな……出発は一週間後。それまでに慣らしておけ」

 そういってレオンハルトは身を翻り、颯爽と去っていった。残された騎士たちはというと、しばらくレオンハルトの言葉の意味を理解できずにいた。

「……それって」
「要するに……」
「死ぬなってこと?」

 やがて、騎士たちはレオンハルトの真意を理解する。

「れ、レオンハルト様万歳!!」

「「「レオンハルト様万歳!! レオンハルト様万歳!!」」」

 その様子をそばで眺めていた騎士団長のマルクスは、

(全く、あのお方は……)

「レオンハルト様ばんざあい!!」

 暁は再び昇る。


 ◆

「……やっと、追いついた」
「……なぜ、ここにいる?」
「……追いかけてきた」
「いや、それを聞いているのではない」

 戦場に向かう前夜、一人の少女がレオンハルトの屋敷にやって来ていた。

 青みがかった銀髪を持った少女の名は、リンシア。急いで来たことが分かるほど、リンシアの髪は乱れていた。これはこれで美しく、絵になるのだが、生憎それを眺めるだけの余裕は、レオンハルトにはなかった。

「……私も、連れてって欲しい」
「誰から聞いた?」
「……スラム街の、情報屋」
「あいつらかぁ……」

 スラム街の情報屋といったら、虎の部下たちのことだろう。情報屋の耳の速さは尋常ではなく、戦争の話もすでに聞いているのだろう。

 そして、その情報はリンシアにわたった。狙った訳ではないだろうし、責めることもできないが、これほどの偶然はあるのだろうか。

「だめだ」
「……なんで?」
「……なんでもだ」

 実を言うと、レオンハルトもなぜ否定しているのかわからなかった。リンシアは歴戦の傭兵であり、レオンハルトと打ち合えるほどの実力者である。戦場に連れていけば、間違いなく戦力となるはず。

 それをレオンハルト自身もよくわかっているのはずなのに、なぜか否定してしまう。

「……イジワル?」
「違う。だが……」
「連れて行きましょう」
「!?」

 突如姿を現したのはシリアである。

 なんとシリアは、レオンハルトにすら気配を悟らせなかった。この時点で、シリアの隠密能力はシュナイダーより上であることがわかる。

「彼女も連れて行きましょう、レオンハルト様」
「しかしだなあ……それに、そもそもーー」
「『お前も連れて行く気はない』ですか?」
「!!……ああ、その通りだ」

 5年間の付き合いである。誰よりも近くでレオンハルトを見てきた彼女は、なんとなくレオンハルトは自分を置いていくと勘づいたのだろう。

 しかしーー

「お断りします」
「だがーー」
「お断りします」
「しかしーー」
「嫌です」
「……」
「私はこの日のために強くなりました。連れて行ってください。足手まといにはなりません……もう、ひとりにしないでください」
「……」

 強い意志を感じる瞳だ。二人の少女を目の前にして、レオンハルトは頭を抱えたくなった。そして、最後に下した決断はーー

「……いいだろう」
「やった!」
「……(ガッツ)」
「……では、明日の備えて早く休め。シリア、リンシアを部屋に案内してやってくれ」
「畏まりました」

 そういってレオンハルトは自室に戻り、のこされたのはシリアとリンシアの二人である。

「……ありがとう」
「どういたしまして」
「……でも、なんで?」
「あなたからは同じ匂いがしますから」
「……同じ? ……うん、同じ」
「ふふ。私はレオンハルト様の専属侍女をやっております、シリアと申します。以後お見知りおきを」
「……うん、リンシア、よろしく」

 こうして月の下で、のちに影妃、瀧妃と呼ばれる二人の少女は出会った。

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