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胎動・乱世の序章
第19話 崩壊の足音
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城壁の上。シオンの戦いを見届けたレオンハルトたち。
「ふぅ。さすがは王妃殿下ですね」
「当然だ。勇者如きに敗れるはずがない」
堂々とそう言い放つレオンハルトだが、ケイスケの最後の一撃でレオンハルトはいつでも魔法を発動できるように身構えていたことをバルフェウス公爵は見逃さなかった。
(冷酷無情なお方かと思ったが、存外愛妻家の一面もあるのか)
皇帝の意外な一面を見れたことに、微かな喜びを感じるバルフェウス公爵。
「さて、迎えに行くか」
そう言って城壁を降ろうとするレオンハルトだが、その前に一人、伝令の者がやってきた。レオンハルト麾下の『朧月夜』の一人であり、緊急連絡の要員でもある。
「き、緊急連絡です! 北の地にて、シュナイダー軍敗北! 国境が突破されました!」
その口から放たれたのは、衝撃の連絡であった。
◆
シオンに敗れたケイスケとリョウタ。二人はすぐさま本陣に戻り、ハルカの治療を受けるが。
「がああ」
「いってええ!」
「ハルカ! 何してるの? 早くケイスケたちを治してよ!」
「治しましたよ! 何度も何度も! でも……」
ハルカのギフトは細胞の結合。負傷した部分にギフトを発動すると、傷を癒すように皮膚の細胞が結合する。だから、例え腕が切れていようと、ハルカのギフトで元通りに戻せる。
そのはずだった。
「くぞ! なんなんだよ! 一体! なんでくっついたところからまた切り裂かれるんだよ!」
そう。シオンのギフトの結果だ。彼女のギフトは空間の強制切断。
しかし、ギフトを磨き続けか彼女はある日気づいてしまう。切断する空間の座標は、絶対的なものである必要はない。指定する座標系は移動座標系でもよいのだ。
つまり、シオンがギフトの発動場所に指定したのは、何もないる空間ではなく、ケイスケとリョウタの腕がある空間語である。
治った所で再び切断されるのはそのせいだ。その空間に腕がある限り、切断は繰り返される。
ただし、ギフトというのは等価交換であることが多い。ただでさえシオンが持つギフトは強力だ。それ以上の力を引き出すには、元のギフトに更なる条件を付け加える必要がある。
その条件は間合い。シオンに触れるほど近い距離でなければならない。実戦ではとても使えないが、シオンに触れた者はもれなく生涯癒えぬ傷を負うこととなるだろう。まさに乙女の純潔を守る剣。
「シオンさんのギフトの効果……これじゃあ、私のギフトは効きません」
「……つまり、どう言うことだ」
「……その腕は、もう元には戻りません」
「クソがあ!」
「ふざけんな、あのアマ!」
ケイスケはまた癇癪を起こすが、今度のはその比じゃない。おまけに左腕を失ったリョウタも付随するように暴れ回る。この場に留まると危険が生じると思ったリューシスたちは、レイカとハルカを誘導してテントの外に出る。
すると、テントに残されたのは激しく憤っているケイスケとリョウタ。ハルカのギフトによって傷は修復したものの、失った腕はもう戻らない。
特にリョウタは、ギフトそのものが手のひらを頼ったものだ。片手がなくなったらその効果も半減する。そもそも自分の腕が落とされたことをすぐ受け入れられるほど、彼らは死線をくぐり抜けてきていない。
かつてセベリスがアークによってその腕を奪われた時は、切り落とされた腕を武器にするぐらいのことはやってのけたが、流石にそれを彼らに求めるのは酷だろう。
とはいえ、ことがこうなった以上もうどうしようもない。暴れる二人は悪戯に体力を消費し、最終的には落ち着かざるを得なかった。
「ケイスケ、少し出歩かないか」
「……そうだな」
リョウタの誘いに乗るケイスケ。今はウジウジしてもしょうがないということを、彼らは痛いほどよく知っている。
二人は軍からできるだけ離れるために、進軍ルートから大きく外れた山の中まで来ていた。大自然に囲まれる二人。その中を静かに進みながら、リョウタは徐に口を開く。
「なあケイスケ。この世界に来て、3年経つよな」
「ああ、色々あったよ。召喚されて、勇者って呼ばれて、ギフトが手に入って。少し、浮かれすぎたのかもしれないね」
「そりゃ浮かれもするさ。権力、力、名声。欲しいものは全て手に入るからさ。この世界は一夫多妻制もアリだしよ。でも……前の世界が恋しいな。みんなでバカやって、笑ってさあ。楽しかったよな」
「楽しかったよ。でも、バカをやるのは主に君だ。俺はいつも振り回される側だ」
「お前はスポーツ万能、成績優秀、おまけにイケメンときた。それに比べて、オレは成績もよくねーし、顔も良くねー。強いていえば喧嘩が強いぐらいだ。お前のそばに立つと、俺はいつも劣等感を感じてならなかったよ」
「……急にどうしたんだ? リョウタ。らしくないぞ」
「この世界にきて、強さが全てって聞いてよ、喧嘩は俺の方がつえーから、ようやくお前に勝てるって思ったんだ。でも、結局お前はあんなチートギフトを手に入れてさあ。どこに行っても、お前は主人公で、オレは脇役だ」
「……」
「おまけに、お前はハルカまで手に入れてよ。知ってるか? オレ、ハルカが好きだったんだぜ」
「それは……」
知らないはずがない。二人は親友なのだから。
「……リョウタ?」
急に黙り、足を止める親友を心配し、ケイスケは振り向く。しかし、そこにはすでにリョウタの姿はなかった。
「うっぐ!」
「お前のギフトは強えよ。でも、発動しなきゃ意味ねーだろ」
どこからか取り出した短剣で、リョウタはケイスケの腹部を貫いた。確実に致命傷だ。
バタ。
倒れるケイスケに向かって、リョウタは吐き捨てるようにいう。
「テメエとの仲良しごっこは終わりだ。お前の全て、奪わせてもらうぜ」
ケイスケは薄れゆく意識の中で、その言葉を聞く。それは、心臓に突き刺さった刃よりも痛い言葉だった。
(俺は、どこで間違えた……シオンに拘った時? 己に酔った時? 勇者召喚に応じた時? それとも、もっと前……つまらない人生だったな。最後の最後に親友だと思っていた男に刺されるなんて……俺にお似合いな最後、かもしれないな)
「ケイスケ!?」
「レイカ!? なぜここに?」
「なんで? なんでケイスケが刺されているの? なんで?」
「くそお!」
すでに死を受け入れたケイスケだが、ふとそんなやりとりを耳にする。
(レイカ?)
すでに目もろくに見えないケイスケだが、レイカの声を聞き分けることができた。
ーーケイスケ、ケイスケ、ケイスケーー
その叫びでケイスケは思い出す。古い古い思い出を。
ーーケイスケ、ケイスケ、ケイスケってば!ーー
小鳥のように後ろについてくるのは、いつもレイカだった。振り返ると彼女がいないことに違和感すら覚えるほどに。
ーーレイカ、将来ケイスケのお嫁さんになる!ーー
(ああ、そうだ。俺は間違っていたのだ。この世界に来た俺は、間違いだらけだ。最も幸せにすべき女性を蔑ろにして、ハルカに手を出して、あまつさえシオンにも手を出そうとした……一番大切なものは常にそばにいたというのに、俺は手の届かない星に憧れてしまった)
隣の芝生は青く見える。そんな言葉で片付けられないだろうが、死の間際にケイスケは悟る。
「れ、いか」
「ケイスケ!? しっかりしてケイスケ!」
「う、しろ」
「え?」
レイカの後ろに迫っていたの、リョウタの拳だった。覇拳勇者と呼ばれるほどのリョウタの拳。運動エネルギー操作のギフトをも乗せた一撃。確実に殺すつもりだ。
「っきゃ!」
ドン。
鈍い音とともに、レイカはリョウタの拳によって、恐ろしいスピードで吹き飛ばされる。いくら魔導勇者といえど、体はただの女の子。リョウタの拳を受けて無事なはずがない。今まさに、瀕死の重傷に追い込まれていた。
(ああ、レイカ)
「ったく、余計な世話を掛けやがって。でもまあ、おかげで助かったかもな。ケイスケだけいなくなったら怪しまれるが、レイカも一緒にいなくなったら駆け落ちってことにできる。よし、そうしよう」
ガサ。
「ああ? ……気のせいか?」
気のせいではいない。遠くの草むらで、リョウタの行いを見ていたとある人物が逃げ出した時の物音だった。しかし、友人二人を手にかけたリョウタは興奮しきっており、そのことに気づかない。
「よし、帰るか。ハルカが待ってる」
そう言って、二人をその場に放置し帰路につくリョウタ。
(レイカ……レイカ……君だけは……)
とうに死んでもおかしくない重症を負っているケイスケだが、今までにない根性を見せてる。少しずつだが、レイカの元へ近づいていた。
(僕のギフトが、ハルカのような治癒系だったら)
レイカの元にたどり着いたケイスケだが、彼女を救う手立てはない。戦闘に強いギフトだが、戦闘が発生しなければどうしようもない。ここに来て、ケイスケは自身の無力さを呪う。
しかし、そこで彼のギフトに異変が生じる。シオンと戦った時のように、全身から光がほと走る。
主人公補正は、別に戦闘の時しか発動しないわけではない。愛する人を守るときに、いつも以上の力を発揮するのも主人公補正の一つだ。
死を前にして、ケイスケのギフトは最後の力を絞り出す。人一人を死の淵から救い出すだけの力を。
(生きてくれ)
その意思とともに、ケイスケの身を覆う光はレイカに移る。みるみる怪我が治っていくレイカ。もう大丈夫だ。そう判断したケイスケは静かに目を閉じる。
(俺にしちゃ、上出来な最後だったな……生まれ変わったら、またレイカに、会えるかな……)
こうして、覚醒勇者ケイスケはこの世を去った。その最後は、覚醒の二文字に恥じぬものだった。
眠る魔導勇者、死する覚醒勇者、裏切る覇拳勇者。勇者を巡って起こったこれらの不祥事は、奇しくも彼らと関わりの深い満月の夜の出来事であった。
ーーーーー
後書き
中途半端と思われるかもしれませんが、五章ここで終了となります。
ここまでお付き合いして頂き、ありがとうございました。
そして、大変申し上げにくいのですが、6章はまだ完成していません!申し訳ありません!
なかなか筆が進まない上に、作者特有の病気「新作書きたい病」に患っておりまして、もうしばし待っていただけると幸いです……
北の国境で何が起こったのか、これから勇者たちはどうなるのか、フレデリック(アーシャ)の狙いは何か、それら諸々含めて六章、七章で明らかになります!
六章、七章、最終章のタイトルはすでに決まっています。
六章 産声・大陸の絶叫
七章 誕生・■■降臨
プロットも書き終えているので、頑張って書きます……(多分)
続きが気になった方は是非お気に入り登録して待っていてください!
以上、作者でした。
「ふぅ。さすがは王妃殿下ですね」
「当然だ。勇者如きに敗れるはずがない」
堂々とそう言い放つレオンハルトだが、ケイスケの最後の一撃でレオンハルトはいつでも魔法を発動できるように身構えていたことをバルフェウス公爵は見逃さなかった。
(冷酷無情なお方かと思ったが、存外愛妻家の一面もあるのか)
皇帝の意外な一面を見れたことに、微かな喜びを感じるバルフェウス公爵。
「さて、迎えに行くか」
そう言って城壁を降ろうとするレオンハルトだが、その前に一人、伝令の者がやってきた。レオンハルト麾下の『朧月夜』の一人であり、緊急連絡の要員でもある。
「き、緊急連絡です! 北の地にて、シュナイダー軍敗北! 国境が突破されました!」
その口から放たれたのは、衝撃の連絡であった。
◆
シオンに敗れたケイスケとリョウタ。二人はすぐさま本陣に戻り、ハルカの治療を受けるが。
「がああ」
「いってええ!」
「ハルカ! 何してるの? 早くケイスケたちを治してよ!」
「治しましたよ! 何度も何度も! でも……」
ハルカのギフトは細胞の結合。負傷した部分にギフトを発動すると、傷を癒すように皮膚の細胞が結合する。だから、例え腕が切れていようと、ハルカのギフトで元通りに戻せる。
そのはずだった。
「くぞ! なんなんだよ! 一体! なんでくっついたところからまた切り裂かれるんだよ!」
そう。シオンのギフトの結果だ。彼女のギフトは空間の強制切断。
しかし、ギフトを磨き続けか彼女はある日気づいてしまう。切断する空間の座標は、絶対的なものである必要はない。指定する座標系は移動座標系でもよいのだ。
つまり、シオンがギフトの発動場所に指定したのは、何もないる空間ではなく、ケイスケとリョウタの腕がある空間語である。
治った所で再び切断されるのはそのせいだ。その空間に腕がある限り、切断は繰り返される。
ただし、ギフトというのは等価交換であることが多い。ただでさえシオンが持つギフトは強力だ。それ以上の力を引き出すには、元のギフトに更なる条件を付け加える必要がある。
その条件は間合い。シオンに触れるほど近い距離でなければならない。実戦ではとても使えないが、シオンに触れた者はもれなく生涯癒えぬ傷を負うこととなるだろう。まさに乙女の純潔を守る剣。
「シオンさんのギフトの効果……これじゃあ、私のギフトは効きません」
「……つまり、どう言うことだ」
「……その腕は、もう元には戻りません」
「クソがあ!」
「ふざけんな、あのアマ!」
ケイスケはまた癇癪を起こすが、今度のはその比じゃない。おまけに左腕を失ったリョウタも付随するように暴れ回る。この場に留まると危険が生じると思ったリューシスたちは、レイカとハルカを誘導してテントの外に出る。
すると、テントに残されたのは激しく憤っているケイスケとリョウタ。ハルカのギフトによって傷は修復したものの、失った腕はもう戻らない。
特にリョウタは、ギフトそのものが手のひらを頼ったものだ。片手がなくなったらその効果も半減する。そもそも自分の腕が落とされたことをすぐ受け入れられるほど、彼らは死線をくぐり抜けてきていない。
かつてセベリスがアークによってその腕を奪われた時は、切り落とされた腕を武器にするぐらいのことはやってのけたが、流石にそれを彼らに求めるのは酷だろう。
とはいえ、ことがこうなった以上もうどうしようもない。暴れる二人は悪戯に体力を消費し、最終的には落ち着かざるを得なかった。
「ケイスケ、少し出歩かないか」
「……そうだな」
リョウタの誘いに乗るケイスケ。今はウジウジしてもしょうがないということを、彼らは痛いほどよく知っている。
二人は軍からできるだけ離れるために、進軍ルートから大きく外れた山の中まで来ていた。大自然に囲まれる二人。その中を静かに進みながら、リョウタは徐に口を開く。
「なあケイスケ。この世界に来て、3年経つよな」
「ああ、色々あったよ。召喚されて、勇者って呼ばれて、ギフトが手に入って。少し、浮かれすぎたのかもしれないね」
「そりゃ浮かれもするさ。権力、力、名声。欲しいものは全て手に入るからさ。この世界は一夫多妻制もアリだしよ。でも……前の世界が恋しいな。みんなでバカやって、笑ってさあ。楽しかったよな」
「楽しかったよ。でも、バカをやるのは主に君だ。俺はいつも振り回される側だ」
「お前はスポーツ万能、成績優秀、おまけにイケメンときた。それに比べて、オレは成績もよくねーし、顔も良くねー。強いていえば喧嘩が強いぐらいだ。お前のそばに立つと、俺はいつも劣等感を感じてならなかったよ」
「……急にどうしたんだ? リョウタ。らしくないぞ」
「この世界にきて、強さが全てって聞いてよ、喧嘩は俺の方がつえーから、ようやくお前に勝てるって思ったんだ。でも、結局お前はあんなチートギフトを手に入れてさあ。どこに行っても、お前は主人公で、オレは脇役だ」
「……」
「おまけに、お前はハルカまで手に入れてよ。知ってるか? オレ、ハルカが好きだったんだぜ」
「それは……」
知らないはずがない。二人は親友なのだから。
「……リョウタ?」
急に黙り、足を止める親友を心配し、ケイスケは振り向く。しかし、そこにはすでにリョウタの姿はなかった。
「うっぐ!」
「お前のギフトは強えよ。でも、発動しなきゃ意味ねーだろ」
どこからか取り出した短剣で、リョウタはケイスケの腹部を貫いた。確実に致命傷だ。
バタ。
倒れるケイスケに向かって、リョウタは吐き捨てるようにいう。
「テメエとの仲良しごっこは終わりだ。お前の全て、奪わせてもらうぜ」
ケイスケは薄れゆく意識の中で、その言葉を聞く。それは、心臓に突き刺さった刃よりも痛い言葉だった。
(俺は、どこで間違えた……シオンに拘った時? 己に酔った時? 勇者召喚に応じた時? それとも、もっと前……つまらない人生だったな。最後の最後に親友だと思っていた男に刺されるなんて……俺にお似合いな最後、かもしれないな)
「ケイスケ!?」
「レイカ!? なぜここに?」
「なんで? なんでケイスケが刺されているの? なんで?」
「くそお!」
すでに死を受け入れたケイスケだが、ふとそんなやりとりを耳にする。
(レイカ?)
すでに目もろくに見えないケイスケだが、レイカの声を聞き分けることができた。
ーーケイスケ、ケイスケ、ケイスケーー
その叫びでケイスケは思い出す。古い古い思い出を。
ーーケイスケ、ケイスケ、ケイスケってば!ーー
小鳥のように後ろについてくるのは、いつもレイカだった。振り返ると彼女がいないことに違和感すら覚えるほどに。
ーーレイカ、将来ケイスケのお嫁さんになる!ーー
(ああ、そうだ。俺は間違っていたのだ。この世界に来た俺は、間違いだらけだ。最も幸せにすべき女性を蔑ろにして、ハルカに手を出して、あまつさえシオンにも手を出そうとした……一番大切なものは常にそばにいたというのに、俺は手の届かない星に憧れてしまった)
隣の芝生は青く見える。そんな言葉で片付けられないだろうが、死の間際にケイスケは悟る。
「れ、いか」
「ケイスケ!? しっかりしてケイスケ!」
「う、しろ」
「え?」
レイカの後ろに迫っていたの、リョウタの拳だった。覇拳勇者と呼ばれるほどのリョウタの拳。運動エネルギー操作のギフトをも乗せた一撃。確実に殺すつもりだ。
「っきゃ!」
ドン。
鈍い音とともに、レイカはリョウタの拳によって、恐ろしいスピードで吹き飛ばされる。いくら魔導勇者といえど、体はただの女の子。リョウタの拳を受けて無事なはずがない。今まさに、瀕死の重傷に追い込まれていた。
(ああ、レイカ)
「ったく、余計な世話を掛けやがって。でもまあ、おかげで助かったかもな。ケイスケだけいなくなったら怪しまれるが、レイカも一緒にいなくなったら駆け落ちってことにできる。よし、そうしよう」
ガサ。
「ああ? ……気のせいか?」
気のせいではいない。遠くの草むらで、リョウタの行いを見ていたとある人物が逃げ出した時の物音だった。しかし、友人二人を手にかけたリョウタは興奮しきっており、そのことに気づかない。
「よし、帰るか。ハルカが待ってる」
そう言って、二人をその場に放置し帰路につくリョウタ。
(レイカ……レイカ……君だけは……)
とうに死んでもおかしくない重症を負っているケイスケだが、今までにない根性を見せてる。少しずつだが、レイカの元へ近づいていた。
(僕のギフトが、ハルカのような治癒系だったら)
レイカの元にたどり着いたケイスケだが、彼女を救う手立てはない。戦闘に強いギフトだが、戦闘が発生しなければどうしようもない。ここに来て、ケイスケは自身の無力さを呪う。
しかし、そこで彼のギフトに異変が生じる。シオンと戦った時のように、全身から光がほと走る。
主人公補正は、別に戦闘の時しか発動しないわけではない。愛する人を守るときに、いつも以上の力を発揮するのも主人公補正の一つだ。
死を前にして、ケイスケのギフトは最後の力を絞り出す。人一人を死の淵から救い出すだけの力を。
(生きてくれ)
その意思とともに、ケイスケの身を覆う光はレイカに移る。みるみる怪我が治っていくレイカ。もう大丈夫だ。そう判断したケイスケは静かに目を閉じる。
(俺にしちゃ、上出来な最後だったな……生まれ変わったら、またレイカに、会えるかな……)
こうして、覚醒勇者ケイスケはこの世を去った。その最後は、覚醒の二文字に恥じぬものだった。
眠る魔導勇者、死する覚醒勇者、裏切る覇拳勇者。勇者を巡って起こったこれらの不祥事は、奇しくも彼らと関わりの深い満月の夜の出来事であった。
ーーーーー
後書き
中途半端と思われるかもしれませんが、五章ここで終了となります。
ここまでお付き合いして頂き、ありがとうございました。
そして、大変申し上げにくいのですが、6章はまだ完成していません!申し訳ありません!
なかなか筆が進まない上に、作者特有の病気「新作書きたい病」に患っておりまして、もうしばし待っていただけると幸いです……
北の国境で何が起こったのか、これから勇者たちはどうなるのか、フレデリック(アーシャ)の狙いは何か、それら諸々含めて六章、七章で明らかになります!
六章、七章、最終章のタイトルはすでに決まっています。
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プロットも書き終えているので、頑張って書きます……(多分)
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感想ありがとうございます!
教国的には楽かもしれませんが、長い目で見るとあまりいい戦略とはいえませんよね。
まあ、いい戦略じゃないところが肝ですけどね……
感想ありがとうございます!
チート能力があるせいで素の力を鍛えなかったツケですね。
その点シオンは……
感想ありがとうございます!
フミカゲ……彼の立場は今日の話でほぼほぼ決まります……