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プロローグ

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「かはっ...」

自分の意思とは関係なく口内から出てくる液体。それは僕の血であった。なぜ、僕がこんなことに...?何もしてないでいた。それなのに、どうしてこいつらは僕の、平穏を...邪魔してくるんだ!

鉄臭い匂いが辺りに充満した。腹から...血が...止まらない。そして死が近くなるにつれて僕の意識は掠れていき朧げになる。僕はここまでなのか?突然襲ってきたキモい緑の生物に殺されるのか?いやだ。こんな変な生き物に殺されて喰われるくらいなら...。

っ...舌を噛もうとする。しかし舌は噛み切れなかった。もう力が残っていなかったのだ。もし出来たとしても死ぬ覚悟なんて俺には無かっただろう。

もう、俺には生きる気力もない。俺が何をしたと言うのだろう?ここは地獄だ...。魑魅魍魎の生き物達が、奇声をあげながら全てを喰らい尽くすかの如く人を斬り裂き、破壊し、滅ぼしていく。そこには子供もいるのだろう。泣き声をあげているというのに容赦なく僕が見てる所で大蛇に頭から身体を丸呑みにされる。その蛇の口の中から咲くかのように噴き出したそれはコンクリートを赤く染め上げた。

そして、僕を刃物で斬ってきた人型の化け物が再び近づいてきて下卑た笑いでそれを振り上げてきた。




学校から僕が自宅へと帰ってくる。今日は友達の海斗とゲーセンで遊ぶ約束をしていた。しかも午前授業だけという事もあってたっぷり遊ぶことができるのだ。

僕は海斗をライバルとして見ている。毎回毎回競い合っているんだ。ゲームは勿論、学校の成績、スポーツ、とにかく全てに於いて。しかし、張り合うだけ無駄と皆から言われていた。

なにせ、ライバルのそいつはイケメンと持て囃されてる上に、成績優秀、スポーツ万能ときた。でも、一つだけ勝てるものがあった。

それはFPSのゲームである。

家に着くと直ぐに靴を脱いで階段を駆け上がり貯金箱から金をとって再び靴を履いて外に出た。その間、チラッとテレビを見たのだが何とも酷いニュースがやっていた。

首都で大量殺人事件が発生。直ぐに警察が犯人を現行犯で逮捕。6名死亡。2名意識不明の重体。

首都か、自分の住んでるところは首都から遠いしまあ気にすることは無いかななんて思いながら自転車を漕ぐ。でも、その事件が頭の中からなかなか離れずにいた。

「ついた~」

海斗は既に来ていたようで僕を見つけるとよっと声をかける。彼の容姿は目立つのでとても分かりやすい。ゲーセンに入るとFPSを始める。このゲームにはオンラインモード、ローカルモードが存在する。もちろんローカルで友達と対戦する。CPU付きで。

結果は僕の勝ちだった。

「駄目だ。ゲームお前どんだけやり込んでんだよ。はぁ...」

「いや、勉強と部活とゲームの両立...?の方法の方が僕は知りたいね」

「家帰ったら直ぐに勉強すませりゃ良いだけだろう。あとはゲームだよ」

「...。そんな簡単に言うなよ。出来るんなら皆やってるし」

「いや、単純な話だな、これ繰り返してりゃ簡単に出来るって。それに、気分転換にゲーム入れてるからこそ勉強時間を長くする事ができるんだよ。お前勉強ちゃんとやんねえと将来終わるぜ」

ちっ、超本当マジな話をしやがって。だいたい勉強とかさ...例えば数学とかあれってどうゆう時に役立つんだよ...。もはや暗号だろ。まぁ、やんないと親に怒られるからな。そもそもお前顔からして勝ち組じゃん。はぁ...。

「ストーレ!」

突如響く低くくぐもった声で発せられた日本語などではない言語。不思議ながら、それはこの場にいる人達を震え上がらせ、混乱させるのに十分過ぎるものだった。

僕は目を凝らしながら周りを見てみるがそれらしき人物はここからでは見えない。

ぴちゃ ぴちゃ ぴちゃ ぴちゃ...

濡れた足音が聞こえる。なぜこのような音が聞こえるのか考えようとしたがこの馬鹿な頭ではとても分からなかった。しかし、嫌な予感はしていた。

それは背後から聞こえてくるようになった。後ろを見たくない。見てはいけないような気がしたからである。でも、見てしまった。結果、僕の嫌な予感は的外れなどではなかった。

そいつは人間ではなかった。身体中に鋼色の鎧を着ていて手には槍を持っていた。そして、兜から覗く鱗の肌がそれを証明していた。

瞬間、槍を振りかざして僕に向かって突いてきた。慌ててかわそうとしたが、身体が思うように動かせない。その槍は僕の心臓を狙っていたらしかったが座っていた椅子が倒れて間一髪で外れた。

しかし、攻撃が止むことはなく再び突いてきた。刺されるのを覚悟した所、その痛みはこなかった。でも、赤い液体が床に...?

「うっ...」

「は?あ、あぁぁ?」

僕は気づいたら大声で叫んでいた。とにかくただひたすらに叫んでいた。俺の意識が途切れた。だって、槍によって貫かれた親友かいとがそこにいたのだからー



このあとどうなったのか聞いたところ、店主が警察を呼んでいて来るよりも早く俺の叫び声を聞いた近くにいた警察官がそいつを撃ち殺したらしい。

その後、パトカーや救急車などもきてこのゲームセンターでの殺人事件は収束したかのように思えた。

ただ、これは序章に過ぎなかった。この後、大量殺人事件は絶えず全国的に、いや。世界的に激増していた。



ゲームセンター殺人事件
死者1名 重体1名



死者というのはあの後、海斗以外で殺された人であった。海斗はなんとか一命を取り留める事が出来たらしい。槍は、深くまでは刺さっていなかったとの事だ。僕はこの時の違和感に気付いていなかった。

病院から家に帰る途中、何者かの視線を感じた。僕はそれを気にしながらも帰るが結局正体は見つからず。家に着く頃には、それは消えていた。この時、誰もがこの世界にあんな事が起きるなどと思ってもいなかっただろう。

深夜、インターホンの音が鳴る。

「こんな時間に誰だよ?こっちは眠ってるっていうのに勘弁してくれないかなあ」

ドアを開けるとそこにはゴツそうな体躯の男達がいた。

「こちらは政府の秘密警察だ。颯馬...君であっているな?こんな時間にすまないが来てくれないだろうか」
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