クズ男を完堕ちさせるまで【BL小説】

片羽セイ

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10話目 捜査官と噂

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 カイトが運んできた朝食を食べ終え、今日の予定を知らされる。

 昨日無理したぶん、今日一日は自由時間だと言われた藤村は、灰崎ともう一度会ってみることにした。

 部屋番号など聞いていないので、事務所に問い合わせたらすぐに教えてくれた。

 渡り廊下を経由して東棟へ行き、突き当り左手の部屋のインターホンを押すと、先週聞いたあの中性的な声が返ってくる。

「お久しぶりです、藤村さん。ここ一週間、色々大変だったんじゃないですか?」

「大変って、なにが」

「あの、白瓜海人って職員のことですよ」

「お前、カイトのことを知ってるのか?」

「知ってるっていうより、有名人ですからね。まあまあ立ち話もなんですし、散らかってますけど入ってください」

 オートロックが外れる音がして、藤村は促されるまま室内へ入った。

 基本の間取りは同じだが、藤村が寝泊まりする部屋より少しだけ狭い。改めて、自分の特別待遇?を実感する。

「それで、白瓜海斗が有名ってどういうことだ?」

「二人で前に会った時、中断したじゃないですか。あの時話そうと思ってたことなんですけど」

「あぁ、白瓜が割り込んできた時のことか」

 いつも名前呼びだから、急に名字で呼ぶとなんか気持ち悪い。

「そうです。ここの研究所は表向きでは、性産業における最先端の技術を開発する場所です。しかし実際は裏組織が牛耳ってて、刑務作業という名目で前科者、さらには死刑の決まった殺人犯までが、裏勢力のコネで生活しているのだとか」

「その話、確証はあるのか?」

「いいえ、まだ尻尾を掴めていません。…実は僕、こういうものでして」

 差し出された名刺には『違法組織取締捜査官 灰崎進』と書かれていた。

「捜査官?…その見た目で?」

 外見で相手を判断するなど、捜査では愚行中の愚行だ。
 
 それでも灰崎はどうみても華奢で、顔も中性的で、どことなく鈍臭い雰囲気がある。

 捜査官なんて柄には、到底思えなかった。

「チッチッチッ、甘いですね藤村さん。僕みたいな、あまり警戒されなさそうな外見だからこそ、捜査に向いてるんですよ」

「白瓜には、思い切り警戒されてたように見えたが?」

「あの人はきっと、誰にでもああなんです。僕だからじゃありません」

「ならあの夜、俺に声をかけたのは『暇だったから』ってわけじゃないんだな」

「騙すようなことをしてごめんなさい。ただ、あなたが宿泊する中央棟は、この研究所内でもかなり深い場所なんです。だからこの施設のことを探るには、藤村さんと接触するのが、一番有力かと思いまして」

 灰崎を信じるかどうか、藤村は考えあぐねていた。
 
 カイトは灰崎のことを、『何度も治験に来ている怪しいやつ』と言っていた。
 
 しかしここまでの彼の話を聞くと、捜査の目的があるから何度も治験に来るというのは、矛盾していないように思える。

 (ここは話に乗るふりをして、とりあえず聞き出せることを聞いてみるか。)

「ですから、藤村さんには警戒していてほしいんです。……あっ」

 灰崎の指が、藤村の耳へそっと触れた。

「っ、なんだよ急に」

「あっ、ごめんなさいっ!あの、いい耳の形だなって…つい」

 反射的にビクリと体を反らせると、灰崎は申し訳なさそうに眉を八の字に歪めた。

「なんだ、お前耳フェチか?こんなおっさん相手に、物好きな奴だな」

「性別は関係ありませんよ。ただ耳たぶの比率と、耳のしわの造形が綺麗な人に、目が無いだけです」

「性別は関係ない、ねぇ」

 女好きだったはずが男に抱かれるようになった身としては、その言葉がどうにも他人事とは思えなかった。

「とにかく。囚人としてリストアップされている人間の中でも、白瓜は特に凶悪犯罪を犯したとして警戒されています。藤村さんは今、白瓜と一番近い場所にいる。この間、僕たちの会話を阻止してきたのも偶然とは思えません」

「ほかに何か、白瓜について分かってることはあるか?」

「奴がなぜ、この施設で働くことになったのかは分かりません。ただ…彼は、実の親を殺しています。未成年の時です」

「親殺し…?」

「これだけは確かな情報です。僕の方でも、また情報を集めておきます」

「そうか。じゃあ、よろしく頼むわ」

 カイトが言っていた『三日後』について、灰崎に話す気にはならなかった。

 もし仮に、彼が本当に捜査官だったとしたら、灰崎にカイトの情報を渡すのはどう考えてもカイトの不利になるだろうし、それはなんかイヤだった。

 自分がカイトに対して抱く感情に、藤村は明確な名前をつけられずにいた。強いて言うなら……セフレ?

 ただなんとなく、カイトに絆されつつあるのは確かだ。

「親殺し…か」

 灰崎の言っていたことを反芻し、胸に鉛を抱えたような感覚を覚えながら、藤村は自室のある中央棟へと歩き出した。
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