勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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一章

第40話 奴隷の進路

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 転移したと同時、暗い部屋に転移魔法の残光が輝く中、俺はココノの奴隷紋を解除した。
 ココノの体から力が抜ける。
 布で顔が見えないココノに俺は言う。

「助けにきた」

「ゴロウ……っ?」

 横で賊どもが「ギャー!」だの「ワー!」だの驚いているが、それを無視して俺はココノの顔に掛けられた布を取る。

 涙と鼻水と唾液で顔がでぐちゃぐちゃに濡れたココノと目が合った。

「ゴロウぅ……ゴロウ、ゴロウぅあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!ゴロウぅうぁあ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 大泣きするココノの頬はレベッカに強く殴られたせいで赤く腫れていた。
 細い首に赤い痣もある。

 俺は泣きじゃくるココノの背中とお尻に両腕を回し抱き上げる。
 そのまま抱き締めるようにココノを抱っこした。

「ゴロウ……あうぅ……ゴロウぅああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」

「もう大丈夫だから……、よしよし、ココノ、俺がいるから大丈夫だ」

「ぅん……ずっ……ぅうう、あう……」

 ココノをあやしながら回復魔法で頬と首を治療する。

 俺はキレていた……。
 理由も言葉もない。
 ただ、ブチギレていた……ッ!

「…………殺す」

 自分でも驚くほど冷たい声が出る。
 戦時中の俺に戻ったようだ……。

「ゴロウ……えっぐ……おがあさん……うぁ……ごろさないで……ぐず」

 俺の首に回されたココノ腕がギュッと締まる。

「ココノん、死ぬ……悲しいの……」

 この子には絶対記憶能力がある。目の前でこいつ等二人をヤればその光景を一生覚えているだろう。
 危なかった。頭を弾いて顔無し死体ゴミを二つ、ココノの目の前に転がすところだった。

「やだなぁーココノっ!俺がそんな悪いことするわけないだろうっ♪」

「奴隷商会で10人、やっつけたの……手と足と顔……なくなったの」

 あれは治したからギリギリセーフでは?
 ココノと話していると全裸の男と女がナイフを持って遅い掛かってきた。

「なに、ごちゃごちゃ言ってやがる!テメーどっから入ってきたッ!オラッ!」
「死ねッ!コソ泥ッ!」

「ゴロウ、危ないの!」

 二人が全力で放ったナイフの突きは俺の体に刺さることなく止まった。

「何で、刺さらねーんだッ!?」
「ナイフが弾かれるさねッ!?」

 第五位階防御魔法――。
 そんな攻撃、通るわけないだろう。
 しかし、こいつ等ちょっと煩いな。俺は呟く。

「第三位階風魔法、ノヴァストーム」

 俺を中心に竜巻が起こる。
 家の屋根や壁が吹き飛び、巨大化する竜巻は隣の家や周囲の木々をも吹き飛ばす。

「ギャアアアアアアア!」
「うそ、たすけてぇええええ!」

 全裸の屑供も一緒に飛ばされた。今はまだ死なないように防御魔法で保護したから巨木の枝に引っかかってギャーギャー喚いている。

「ココノが元気出るように凄いの見せてあげる」

「凄いの?」

 辺りは更地になり、空には数多の星が輝く。
 俺はココノを抱いたまま重力魔法グラビティで空へ飛んだ。

 徐々に加速すると空気が薄くなっていく。俺達は音速の10倍の速さで上昇する。

 体に掛かるGを重力魔法で地上と均一にして、周囲に円形の防御結界を張り、酸素と気温を維持しなければ簡単に死ぬ世界。

 高度100キロメートルまで僅か1分で到達する。

 ここは地上が遠く、宇宙は近い。
 衛星から見える地球の景色が広がっている。

 俺にしがみつくココノの耳元で囁く。

「これが俺達が住んでいる地球だよ」

「こわいの……」

「俺が一緒にいるから大丈夫。ほら、顔を上げてみなよ」

 俺の首に顔を埋めていたココノは頭を持ち上げて周囲を見る。

「すごいの……、きれいなの……」

「俺達がいたのはあそこな」

 俺は地上を指して教える。
 ココノは地上を見詰めたあと、間近にある月を見て宇宙《そら》を見る。

「ゴロウの家はどこなの?」

「あの七島が繋がった珠数みたいなのがセブンランド大陸で、一番端の一番小さな島が俺の土地だよ」

「ココノんが生まれたところ、どこなの?」

「ココノの生まれは大魔帝国のコルドルド領だから……あの辺だな」

 それから暫くココノは黙って地上を見て、それから視界を埋め尽くす星を眺めていた。
 天然のプラネタリウムだ。

「ゴロウ……、どうしてここに来たの?」

「これは俺がいた世界の『たかい、たかーい』って子供を持ち上げる遊びで、これやると元気のない子供が元気になるんだよ」

 ちょっと普通よりも高目だけどね……。

「ココノん、ここ好きなの……全部きれいなの」

「ココノが元気ない時は、また連れて行ってあげるよ。なぁココノ……、俺と一緒に暮らそう。俺の責任でココノを絶対に幸せにする」

 そう言うとココノは少し沈黙して、それからいつものようにボーっした感じで呟く。

「ココノん……、ゴロウと一緒にいたい……」

 はぁー、良かった。あんな親にはもう返せない。

「お母さんはもういいのか?」

「…………うん。……ゴロウ、どうしてココノんに優しいの?」

 ん?俺は皆に厳しいと思うが?

「それは俺がココノの主だからだ」

 この子達を買う時、俺は2時間ほど悩んで自分好みの顔とスタイルで雰囲気の良い女の子を10人選んだ。
 アカシックレコードで超演算できる俺にとって2時間考えるというのは、普通の人の1年に相当する。

 例えばペットショップで犬や猫を飼って、思っていたのと違ったからって、山に捨てる奴なんていないのと同じで、俺は自分で選んで買ったこの子達の主としての責任を持っている。
 まして相手は人間だ。動物の比ではない程、責任を持たないといけないと思っている。
 だから、これからも厳しく躾けるが、どんな状況でも絶対に見捨てたりはしない。

「ココノん、ゴロウ信じるの……、ゴロウ、昨日ずっと一緒にいてくれたの……ココノん、ゴロウにいっぱい悪口言って……でも、ずっと一緒にいてくれたの……」

 嘘吐きとか悪い人とか散々言われた昨日の俺!あの一日は無駄じゃなかったぞ……ッ!

「当然だ。よし!じゃぁ帰ろう!俺達の家に」




 俺は転移魔法で自室に飛び、部屋で待っていたウィスタシアにココノを預けた。

「ウィスタシア、ココノ、少し出掛けてくるからちょっと待っていてくれ」

 そして俺は再びココノの家があった賊のアジトに飛ぶ。
 奴らの息の根を止める為に――。



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