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9話 それから1年後、村と物々交換したりとか

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「お父さんとお母さん…それにできれば村のみんな。トロイはみんなを助けることできないの?」
「ライト!」


あれから元気をなくして暗い表情をしていたライトが縋るように俺を見てくる。
それをお姉ちゃんであるルーチェが叱る。
気持ちは分かる。
両親や町…ここ村みたいだけど村の人達を救いたいと思うのは当たり前だろう。色々な事情で村や町にいられなくなった人々が集まってできた村だから、余計に普通の村より仲間意識が強いんじゃないかな。
でも俺はこの二人以外会ったこともない人達だ。そんな人を助けるなんて無理だろ、そんな力も俺にはないから。
返答に困る俺を見て悲しそうに俯くライト。それを見て申し訳なくなるが、見ず知らずのそれなりの人数だろう人間を、謎の空飛ぶ本が探すって無理ゲーすぎる。
協力者がいれば人に聞いたりして探すこともできるけど、この二人もまたこの村の人間だ。二次被害に合う可能性が高い。
俺だけで近くの町に探しに行っても奴隷について訪ねることもできないし…
それにもし俺が殺されたりしたらこの二人はここで放置されることになる。そしたら確実に死ぬだろう。
やっぱ森のみんなに二人を任せるまでは何もできない。…いや、みんなに任せて探しに行くってのも無責任すぎるな。
申し訳ないけど連れてかれた村の人々は放置するしかないよ。
そのことを簡単に書いて見せると「分かってる」とルーチェは頷いた。
何とも言えない沈黙の中、俺にはずっと家に入れないサファイアの文句が頭に響く。
「あたいを無視して何してんだー! 」「入れろー!」じゃねんだよ、もうお前暫く黙ってろ!

俺は本を開く。執務室みたいなこの部屋に大量にある本。その中の一つだ。
この辺りのことを知れないかと思って。二人に確認をとると自分の家じゃないからと許可をもらえたのでさっそく。
この辺りの地形や植物を纏めた本のようだ。本を読むとスラスラと知識が頭に入ってくる。
今の俺の知能がすこぶるいいのか、本になってるからかサクサク読める。
でもこれでこの辺りにある食べられるサボテンや土に埋まってる食べれる植物とか分かったから栄養問題も解決できそう。
あの二人の痩せ具合から少し間を空けて2、3週間経ってから森に行くことにしたんだ。
あそこの名称は【死の大地】なんてとんでもない名前だから、少しでも身体を健康な状態にしてからの方がいいかなって。
ないと思うけど名前からして実は危険な病気とかあったら大変だし。…なんで死なんて大層な名前なんだろうな、そんな危険ない…巨人がいるからか?
俺でも奥行ったことないから。あそこ山々連なるだけじゃなく奥は何か、危険そうなんだよな。
まぁとにかく、こんな本が読める機会普通ないし。俺は今のうちにと町中を飛び回り本を読みあさり知識を増やしていった。









「うわああ!! 狂殺蜂キーラン・バが出たぞ!!」
「「逃げろぉー!!」」


森の一角でキャンプ中の一団が狂殺蜂《キーラン・バ》に出会い錯乱したように逃げ出す。
狂殺蜂は偵察蜂が巣の周囲を巡回しており、動くものを見付けると次々仲間を呼び集団で襲いかかってくる危険な魔物だ。
予想外な遭遇なのは分かるけど、ここまでパニックになるとは…


「やれやれ仕方ないわね。氷結晶シンセツ
バキバキバキ


移動中に偶然彼らを見かけたルーチェは呆れたように首を横に振り、手に持つ魔導書を開いて魔法名を唱えた。
最初の1体と増援として来た2体も含めて纏めて氷漬けにする。
火や風だとフェロモンを飛ばされるから、こうして包んで固めてしまえば仲間を呼ばれずに済むだろう。


「おお! 流石天才魔術師ルーチェ様だ!」
「流石ですルーチェ様カッコいい!!」


空から翼樹鹿クラハム・カフに乗り現れ、狂殺蜂を倒してくれたルーチェを発見した狩人達は逃げるのを止めて絶賛する。
さっきまでビビってたのに、まぁこれだけの魔法見せられたら安心するよね。
対象を凍らせる魔法は中級レベルでそれだけでも使える者は少ないのに、これだけ広範囲に使える者など殆どいない。
この世界の人間ってやっぱ弱いんだよね、エルフや魔族とか強いのもいるけど上級魔術師でも中級辺りで、上級魔法使うとなると国でも数人とかそれくらいのレベル。
本で得た知識ね!
だから今のルーチェは凄腕の魔術師だと思われている。まぁ、実際俺の魔法なんだけど。
あぁ、魔法使いより優れた魔法の使い手を魔術師って言うらしいよ。これも本情報だけど。
今の俺はルーチェに持ってもらって魔導書のふりしてるから。
それに美人だから目立たないようにフードつきのローブで顔隠してますからね! どっからどう見ても魔法使いにしか見えない。


「周辺にはもう何もいないみたい! だから安心してね!」
「っ、いや~何度見てもライト様の飛竜には驚かされるな」


空からワイバーンに乗り現れたライトに狩人達はびくつく。
彼らは近くの村の狩人だからもう何度か見たことがあるのに中々慣れないね~。
うん、何かライトって竜使いになってるんだよね。竜っていってもワイバーンだけど。
ここだと飛竜って言われるからちゃんと竜扱いだけど。俺からするとワイバーンってちょっと弱そうなイメージがあったんだよね。ほらゲームとかだと竜より格下で出てくるじゃん。
でも実際見たら10m以上あるからね、普通にドラゴンだよ。
まぁとにかくなんかオッドアイと仲良くなっちゃってさ。こうやって仲良く飛んでるんだよね。









1年前。
二人を連れてゴーレムの俺が生まれた地、死の大地にサファイアの背中に乗って行った。
サファイアは人を乗せたことなんてないから騎乗者への配慮なんて全くなく飛ぶから、着くまでずっと結界を張っていた。
…結界なかったら全員背中から落とされてただろうな。遠い目。

山の麓に近付いたときアスとアシタが空飛びながら出迎えてくれて驚いた。俺のとこ迎えに行く為に飛行練習してたんだって! やっぱ可愛いわ。
オッドアイも空飛ぶ練習してるみたいだけどこのときはまだ飛べてないから、飛べるようになったらいいなと思ってたんだ。無事飛べたからよかったけど。
でもアスとアシタと「トロイがいないのに、この本からトロイの声が聞こえる!?」ってサファイアと同じようなやりとりを暫く繰り返して大変だった。
森のみんなと再会したときも姿が変わってるのに驚かれ、中々近付いてくれなかったから悲しかったし。
しかし、なぜかオッドアイは普通に甘えてきてくれたんだよな。そのお陰で森のみんなとも早めに元に戻ることができたし。
それにオッドアイは思ったより友好的で。


「わっ、この子飛竜なのに人懐っこい!」
「ほんとに、他の飛竜とは違うのね」


ライトとルーチェに甘えるオッドアイを見て驚いた。いやだってフレンドリーにも程があるでしょオッドアイ。
二人は嬉しそうにオッドアイを撫でる。オッドアイ牛くらい大きさあるからな。離れてる間にちょっとだけど大きくなってるし翼広げればもっとある。
自分達より大きいから最初ちょっと怯えてた二人だけど、オッドアイは優しい子だから頭下げてそっと擦り付けてくるから二人も危険がないってすぐに分かったみたいだ。
それから俺はアス、アシタだけじゃなく「あ、久しぶり~」みたいに寄ってきた他のワイバーン達にも絡まれて大変だったんだけど。
何とか自由になり二人を探したら森のみんなと仲良さそうに囲まれながらお喋りしてて脱力。
いやなんか、なんか寂しくない?? あんな俺に懐いてくれてたのにそう思ってたらみんなが俺を呼んでくれてみんなで団欒。
もうなんか、二人共すげー馴染んでるな。
廃村にいたときは先行きが見えず暗い表情だったのに、今は輝かんばかりの笑顔が見れて連れてきてよかったなと思った。
やっぱ動物の癒し効果は絶大だ。
それから廃村から持ってきた植物を森のみんなに良い場所を聞き、翼樹鹿クラハム・カフが案内してくれた場所に埋めて二人が食べられそうな植物はないか聞いたらそれも案内して教えてくれた。
ほんとに森のみんなには感謝しかない。良い子達過ぎる!
こうして衣食住のうち衣食については二人を心配することはなくなった。服や調味料、調理器具とか必要そうなもの持ってきてるからね。
しかし、問題は住み処をどうするかだ。
人間の二人をみんなみたいに穴蔵に住ませるわけにはいかないし。
あ~こんなことならゴーレムのうちに家を建てとけばよかった。
木材運ぶのも組み立てもゴーレムなら簡単だっただろうに。ただ、3m超えのゴーレムの大きさに合わせてドアや家具がでっかくなっちゃうけど。
今の本の俺でも念力使えばいけるけど…う~ん
頑張って風魔法で木材を切り念力で運んで釘はないから木で作って…ゴーレムのときなら鉄出せたのに…いや鉄ならゴーレムのとき作っておいたのがいっぱいあるけど、加工できないから無意味か…
そうやってまぁみんなで協力して何とかログハウス作りをやってみました。


「すごい…こんな家見たことない」
「すごい! 木の家なんて初めて!」


ルーチェとライトが完成した家を見て感心している。二人は砂漠に住んでたから石の家しか見たことないんだろう。
サファイアの背中に乗ってるとき草原や森を見て驚いてたし。
うんうん、連れ出してよかったな。
家具は持ってきてないから新たに自分達で作ったのも楽しかったな。二人は自分達の家だから率先して、森のみんなも木材運びとか色々協力してくれて。
ワイバーン達はもちろん我関せず、興味もなければ一切手伝ってもくれない。オッドアイは別だけど。
サファイアとアスアシタは俺に絡んできてガブガブしては小さすぎて噛み心地が悪くなったとか文句が酷い。
そもそも噛み癖あったの真珠でお前はたまに噛む程度だったじゃん!
…まぁそうやって机や椅子に棚とか色々作ったけど、ただベッドが固いんだよ!
砂漠で暑かったから布団とか厚い生地ないしスプリングとかもないからクッションせいがないんだよ。
木の板の上に直接布置いてるだけだから固い固い、二人は気にしてないけど俺は気になる。
森のみんなの抜け毛を集めて羽毛布団みたいの作ろうかな。持ってきた布だけじゃ足りないけど…
毛に含まれる油抜くのに煮れば大丈夫かな? そのまま使うのはよくないってのは分かるんだけど、ちょっとどう処理すればいいか分かんない。
途中で村っぽいの見たからそこ行くのもありか? ここから結構離れてそうだけど…
ここから二人が住んでた砂漠まで半日くらいサファイアに乗ってたから、朝出発して夜中ここに着いたから。
距離にすると何kmあるかな? 村までは1時間…う~ん40分くらいかかったか。
こういうの頭の良い人なら時速何kmで飛んで、距離何kmとか分かるんだろうけど。俺には無理だ。
まぁそれくらい村まで距離があるから行き来するのは大変だけど、色々足りないものも出て来るだろうし二人は人間なんだからできるだけ人と交流させてあげたい。
その為にも村人と交流を持ちたいなと思った。

──そうしてまぁこうやって人とやり取りするようになったんだよ。
100人前後しかいない小さな村だから最初は結構警戒されたけど。
そりゃ~他の村や町から離れた辺鄙な場所にある村に、子供二人が突然現れたんだもん、どう考えても警戒するよね。
しかも翼樹鹿クラハム・カフに乗って。
サファイアに乗る案もあったけど、あいつ騎乗者に配慮できないし村人に危害を加えるかもしれないし色々不安でやめた。
それに比べて森のみんなは俺の言うこと聞いてくれるし翼樹鹿は温厚で二人が背中に乗っても怒らなかった。
俺は普通の本のふりでルーチェに抱えられ何かあったときに備え、ルーチェが村人に話しかけて交渉して必要なものを物々交換できた。
ずっと警戒してたけど取引できれば十分。
こっちは森のみんなの折れた角とかワイバーンの取れた鱗とかと狩った魔物の肉以外の素材とか交換できるものは何でも交換した。
多分ぼられてると思うよこっち子供だし。でもまぁそこはしゃーない。
サファイアに協力してもらい俺と二人? 二体で周囲を見て回り他にも近そうな村を見付けて、ルーチェ達と何ヵ所か巡ったりもした。
村によって扱うものが違かったりするし。人間の違いも確認できるしね。
態度が悪かったとことは縁を切った。
そうして俺は大きな布を貰い二人の為にモコモコ敷き布団を頑張って作りました。
二人はすごく喜んでくれた!

そうやって何度か取引するうちにそれなりに仲良くなっていったんだよ。
今みたいに魔物から助けたりすることもあるしね!

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