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Chapter 1:まさか援交目的で誘った女子高生と、援助契約するとは思ってもいませんでした。
第38話 「ふり彼」と「ふり彼女」 ACT 3
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もう時期夏休みなんだなぁ。
降り注ぐ陽の光は日に日に強さを増し、暑さを感じさせる。
ふと、4月の夜の寒さを思い出した。
あの頃は制服のブレザーだけではまだ寒く、もし、あのまま夜を外で過ごしていたら。
雪が降っていないだけまだましか……。
私を拾ってくれた人達。感謝の気持ちもあるけれど、私の心はどこか痛い。
自分で招いた、望んだことになるんだろうけど、後悔――――していないと言ったらどうだろうか。
でも、この出会いは私の運命を変えた。
そして、雄太さんと出会う事が出来た。
『ただ帰りたくなかった』
その思いだけで、あの家に帰らなかったことが今に繋がっている。
『ねぇ、美愛。あなたは今幸せ?』
その問いを自分に訊いてみた。
胸がぎゅっと締め付けられる。
何だろうね、この苦しみは。何だろうね、この胸の痛みは。
空を見上げ、夏に向かう光を目に入れ。なぜか湧き上がる涙をこぼさない様に必死にたえた。
……いつの日か、別れはきっとやってくる。そんな予感が心の隅から湧き水の様に心を覆う。
そうだよね。――――いつの日か。
スッと、冷たい何かが躰をすきぬけた。
何だろう今の感覚。忘れていた何かが呼び戻されようとしている。
とても大切な何かを。
いったい私は……。――――誰?
「おい山岡今日はもう帰るぞ」
「せ、先輩もう少しです。待ってくださいよぉ!」
「あのなぁ今日は定時バンで上がろうって言ったじゃねぇか」
「すんません、あと5分、いや10分待ってください」
まったくこういう日に限って、山岡の奴はトラブルを起こしやがる。
「どれ、どこまで行ったんだ」
山岡のディスクに向かいディスプレイを覗き込んだ。
な、なんだこれは!! ほとんど出来てねぇじゃねぇか。今まで何やってたんだ此奴は。
「……や・ま・お・か! お前出来てねぇじゃねぇか」
「す、すんません!」
「はぁ―」とため息を漏らし「半分俺がやるからデータ、こっちによこせ」
「あ、ありがとうございます!」
何とか早く終わらせねぇといけねぇ。今晩香が俺んとこに来る。先に俺は家にいた方がいい。うん、そうした方がいいだろう。
にしても、何でこういう日に限って此奴はいつもこうなんだ。
それでもなんだかんだ二人でやって、6時半にはなんとか目途が付いた。
「先輩ありがとうございます。やっぱり久我先輩は頼りになるっす」
「何言ってんだ。もう時期お前らも、俺の手から離れねぇといけねぇんだぞ! こんな状態でほんと大丈夫か?」
「大丈夫かって、……大丈夫な訳無いじゃないですか。俺は先輩がいるから何とかやっていけてんすから」
「は、それを言うなら長野がいるからじゃねぇのか?」
「えっ! 長野? あ、愛佳は別に頼りなんかしてねっすよ」
「嘘つけ、今日長野がいないから進み悪かったんだろ。いい加減素直になれよ山岡」
「…………」
山岡は何も答えなかった。
「す、すまんちょっと突っ込み過ぎた。お前らの事は当人同士がよく分かってると思っていたんだけどな」
「当人同士? 俺彼奴の事分かんなくなってきたんすよ。何となくお互い、いい関係って言うか、あくまでも仕事の上でですよ。俺も愛佳の事は嫌いじゃねぇんだけど、好きかって言われたら、なんかそんな対象じゃねぇような気がするんですよ。でも、変なんですよ。愛佳はいつも俺の傍に居て、いつも俺の事チクチク刺してきて、それがなんだかものすげぇ安心するって言うか。……前に俺、愛佳に訊いたんです」
「何をだ」
「もしかして俺の事好きなのかって」
「ほほう、そんなこと言ったんだ山岡」
「言ったすっよ。気になるじゃないですか。そしたら彼奴、俺の事なんか好きでもなんでもないって即答したんですよ。そん時はそうなんだって思って何も感じなかったんすけど、でも愛佳の奴付け加えて、好きになってもらいたかったら、どうするか自分で考えな。なんて言うんすよ」
「で、お前は実際どうなんだ。その答えをどう返したいんだ」
「分かんねぇっす」
「はっ! そんな状態でお前は蓬田さんの事が好きだって、長野の前で言っちまってるんだよな」
「そっすよ。蓬田さんは俺のあこがれの人なんですよ。今まで先輩の彼女だったから、好きになっちゃいけねぇ人だって自分に言い訊かせてたんすけど、先輩たち別れたって。ならこの想いをぶつけてもいいじゃねぇのか。そう思ったんです。これは俺の正直な気持ちすっよ」
ああああ、此奴損するタイプだな。
んでもってものすげぇ疎いし、不器用な奴。
長野の気持ち、俺でさえ感じてんのに、当人の山岡は何もそれを感じ取ろうとしねぇなんて。それにな、山岡。香はものすげぇ、癖つえぇぞ! 香の本性知ったらお前立ち直れねぇかもしれないな。お前のそのマドンナ像が崩れ落ちてな。
それでも山岡は俺の顔をにらみながら
「でも、俺、蓬田さんに対する気持ちは変わんねぇすよ。俺は蓬田さんが好きなんです」
いや、お前は香に想いを向けるよりも長野の方に真剣に向き合うべきだと……。やめておこう。今の此奴には何を言っても聞く耳持たねぇだろうな。
長野……お前見切りつけた方がいいかもしれんぞ! と心の中で苦笑しながら。
「さて帰るか」
「うっす! 帰ります」
二人でオフィスを出てエレベーターで1階に降りた。ドアが開くと同時に隣のエレベーターのドアも開いた。
そのエレベーターから降りて来たのは、香だった。
「あ、雄太……。く、久我君」
思わず「あっ」と声が漏れた。
「今終わったの?」
「ああ、蓬田さんもか?」さすがに山岡の前で「香」とは呼べない。向こうもそうなんだろう。俺の後ろにいる山岡の姿をすぐに見つけ、あえて「久我君」と言ったんだろう。
「ちょうどよかったね」
香の放したその言葉に山岡はピクンと反応した。
「ちょうどよかったって、これから何かあるんすか……。蓬田さんと、先輩」
小声で俺に言う。
「別に何にもねぇよ」
「そ、そうすか」と言いながらも山岡は香に視線を上げることすら出来ないでいた。
「それじゃ俺はこれで」と言って俺たちの前に出て、社屋のエントランスを歩く山岡のその姿は。
まるでゼンマイ仕掛けのロボットのようだった。
降り注ぐ陽の光は日に日に強さを増し、暑さを感じさせる。
ふと、4月の夜の寒さを思い出した。
あの頃は制服のブレザーだけではまだ寒く、もし、あのまま夜を外で過ごしていたら。
雪が降っていないだけまだましか……。
私を拾ってくれた人達。感謝の気持ちもあるけれど、私の心はどこか痛い。
自分で招いた、望んだことになるんだろうけど、後悔――――していないと言ったらどうだろうか。
でも、この出会いは私の運命を変えた。
そして、雄太さんと出会う事が出来た。
『ただ帰りたくなかった』
その思いだけで、あの家に帰らなかったことが今に繋がっている。
『ねぇ、美愛。あなたは今幸せ?』
その問いを自分に訊いてみた。
胸がぎゅっと締め付けられる。
何だろうね、この苦しみは。何だろうね、この胸の痛みは。
空を見上げ、夏に向かう光を目に入れ。なぜか湧き上がる涙をこぼさない様に必死にたえた。
……いつの日か、別れはきっとやってくる。そんな予感が心の隅から湧き水の様に心を覆う。
そうだよね。――――いつの日か。
スッと、冷たい何かが躰をすきぬけた。
何だろう今の感覚。忘れていた何かが呼び戻されようとしている。
とても大切な何かを。
いったい私は……。――――誰?
「おい山岡今日はもう帰るぞ」
「せ、先輩もう少しです。待ってくださいよぉ!」
「あのなぁ今日は定時バンで上がろうって言ったじゃねぇか」
「すんません、あと5分、いや10分待ってください」
まったくこういう日に限って、山岡の奴はトラブルを起こしやがる。
「どれ、どこまで行ったんだ」
山岡のディスクに向かいディスプレイを覗き込んだ。
な、なんだこれは!! ほとんど出来てねぇじゃねぇか。今まで何やってたんだ此奴は。
「……や・ま・お・か! お前出来てねぇじゃねぇか」
「す、すんません!」
「はぁ―」とため息を漏らし「半分俺がやるからデータ、こっちによこせ」
「あ、ありがとうございます!」
何とか早く終わらせねぇといけねぇ。今晩香が俺んとこに来る。先に俺は家にいた方がいい。うん、そうした方がいいだろう。
にしても、何でこういう日に限って此奴はいつもこうなんだ。
それでもなんだかんだ二人でやって、6時半にはなんとか目途が付いた。
「先輩ありがとうございます。やっぱり久我先輩は頼りになるっす」
「何言ってんだ。もう時期お前らも、俺の手から離れねぇといけねぇんだぞ! こんな状態でほんと大丈夫か?」
「大丈夫かって、……大丈夫な訳無いじゃないですか。俺は先輩がいるから何とかやっていけてんすから」
「は、それを言うなら長野がいるからじゃねぇのか?」
「えっ! 長野? あ、愛佳は別に頼りなんかしてねっすよ」
「嘘つけ、今日長野がいないから進み悪かったんだろ。いい加減素直になれよ山岡」
「…………」
山岡は何も答えなかった。
「す、すまんちょっと突っ込み過ぎた。お前らの事は当人同士がよく分かってると思っていたんだけどな」
「当人同士? 俺彼奴の事分かんなくなってきたんすよ。何となくお互い、いい関係って言うか、あくまでも仕事の上でですよ。俺も愛佳の事は嫌いじゃねぇんだけど、好きかって言われたら、なんかそんな対象じゃねぇような気がするんですよ。でも、変なんですよ。愛佳はいつも俺の傍に居て、いつも俺の事チクチク刺してきて、それがなんだかものすげぇ安心するって言うか。……前に俺、愛佳に訊いたんです」
「何をだ」
「もしかして俺の事好きなのかって」
「ほほう、そんなこと言ったんだ山岡」
「言ったすっよ。気になるじゃないですか。そしたら彼奴、俺の事なんか好きでもなんでもないって即答したんですよ。そん時はそうなんだって思って何も感じなかったんすけど、でも愛佳の奴付け加えて、好きになってもらいたかったら、どうするか自分で考えな。なんて言うんすよ」
「で、お前は実際どうなんだ。その答えをどう返したいんだ」
「分かんねぇっす」
「はっ! そんな状態でお前は蓬田さんの事が好きだって、長野の前で言っちまってるんだよな」
「そっすよ。蓬田さんは俺のあこがれの人なんですよ。今まで先輩の彼女だったから、好きになっちゃいけねぇ人だって自分に言い訊かせてたんすけど、先輩たち別れたって。ならこの想いをぶつけてもいいじゃねぇのか。そう思ったんです。これは俺の正直な気持ちすっよ」
ああああ、此奴損するタイプだな。
んでもってものすげぇ疎いし、不器用な奴。
長野の気持ち、俺でさえ感じてんのに、当人の山岡は何もそれを感じ取ろうとしねぇなんて。それにな、山岡。香はものすげぇ、癖つえぇぞ! 香の本性知ったらお前立ち直れねぇかもしれないな。お前のそのマドンナ像が崩れ落ちてな。
それでも山岡は俺の顔をにらみながら
「でも、俺、蓬田さんに対する気持ちは変わんねぇすよ。俺は蓬田さんが好きなんです」
いや、お前は香に想いを向けるよりも長野の方に真剣に向き合うべきだと……。やめておこう。今の此奴には何を言っても聞く耳持たねぇだろうな。
長野……お前見切りつけた方がいいかもしれんぞ! と心の中で苦笑しながら。
「さて帰るか」
「うっす! 帰ります」
二人でオフィスを出てエレベーターで1階に降りた。ドアが開くと同時に隣のエレベーターのドアも開いた。
そのエレベーターから降りて来たのは、香だった。
「あ、雄太……。く、久我君」
思わず「あっ」と声が漏れた。
「今終わったの?」
「ああ、蓬田さんもか?」さすがに山岡の前で「香」とは呼べない。向こうもそうなんだろう。俺の後ろにいる山岡の姿をすぐに見つけ、あえて「久我君」と言ったんだろう。
「ちょうどよかったね」
香の放したその言葉に山岡はピクンと反応した。
「ちょうどよかったって、これから何かあるんすか……。蓬田さんと、先輩」
小声で俺に言う。
「別に何にもねぇよ」
「そ、そうすか」と言いながらも山岡は香に視線を上げることすら出来ないでいた。
「それじゃ俺はこれで」と言って俺たちの前に出て、社屋のエントランスを歩く山岡のその姿は。
まるでゼンマイ仕掛けのロボットのようだった。
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