異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第2章 辺境伯領平定戦

第84.9話 母の首取り

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「ほっほっほ。先を越されましたな?」

 南の木戸口へ向かう途上、丹波様は「愉快愉快」とお笑いになりました。

 逃げた敵は元来た道を戻ったに違いない――――左様に考えたわたくしは、五十ばかりを率いて街道を南に向かう事に致しました。

 ですが我らよりも先に同じ考えに至り、実行に移した者達がいました。

 誰あろう無人だった村々の衆です。

 隠れ潜んでいた彼らの元にも成敗勝手次第の触れは届いていたようです。

 南の木戸口へ向かう道中のあちらこちらで、敵の落人が武器を手にした村の衆に襲われる姿を目にしました。

 村の若衆ばかりでなく、女子おなごや年寄の姿もあります。

 身ぐるみを剥がれて打ち捨てられた死体は街道沿いに点々と連なり、何処を向いても死体が目に入ります。

 死体の見えない場所を探す方が難しいほどです。

 後ろ手に縄を打たれて連れて行かれる落人は半狂乱で泣き叫んでいました。

 あの者達は一体どうなるのでしょうね?

 まあ、それはともかく――――。

「困ったわ。これじゃあ取り分はもうないかもしれませんね」

「ほっほっほ! 村の衆の逞しき事! よろしいではござりませぬか!」

「それもそうですけど――――」

「――――お方様」

 近習衆が声を潜めて注進に参りました。

「如何したのですか?」

「あちらの森の中に十人ばかりが固まっておる様子にござります」

「まあ……ようやく見付けたわ! 腕が鳴りますね!」

「お、お戯れを……」

「そ、その儀ばかりは何卒……」

 近習衆は止めようと致します。

 ですが女房衆はわたくしと心は同じ。

 鉄砲の玉込めを始める者もいます。

 ――――多少のいざこざはありましたが、わたくし達は森の中に潜む敵を静かに取り巻きました。

 話し声も聞こえる程に近付いた時、こんな話が耳に入りました。

「――――私達も我が目を疑ったぞ? カタナや槍、弓やテッポーを見事に使いこなし、敗残兵を次々と襲っているんだ。最後は死体から身ぐるみを剥がしていく。地獄の獄吏もかくやという残虐ぶりだ」

「そんな……。敵兵だけじゃなく、村人まで……?」

「君がどんな運命を辿るか分かっているのに置いてはいけない。しばらく寝ていろ――――」

 手傷を負った兵を気遣うそのお方は明らかに身分が高そうな出で立ちをしていました。

 クリストフ殿やヨハン殿と似たような格好ですから、異界の騎士に違いありません。

 自分達の過酷な状況を理解しながら兵を思い遣るなんて……。

 俄然がぜん、その方に興味が湧きました。

「まあ……。敵にも立派なお方がいるものね?」

「――――っ!」

 わたくしは金砕棒かんさいぼうを肩に担ぎ、敵の前に進み出たのです。

 敵兵は「ひいっ!」と悲鳴を上げて尻餅をついてしまいました。

 ですが、異界の騎士は恐怖に顔を歪ませながらも、兵らと同じ無様は晒しません。

 近習衆が油断なく敵兵を取り囲む間にも、わたくしから目を逸らそうとはしません。

 話しかけようとした所で、向こうが先に口を開きました。

「……戦乙女……か?」

「『いくさおとめ』? 何の事でしょう? けなしている……って事でもなさそうね。褒め言葉なのかしら? 丹波様は御存知ですか?」

「さてさて。爺めにはとんと見当も付かぬ言葉にて」

 近習衆や後ろに控える女房衆に目を遣りますが、誰も彼も「何の事か?」と首を傾げるばかり。

 そう言えば、翻訳魔法の指輪を付けているのはわたくしと丹波様だけでした。

 他の者は異界の騎士が何を申したのかすら聞き取れてはいないはず。

 仕方がありません。

 自分で尋ねてみましょうか。

「もし? 『いくさおとめ』と申されましたが何の事でしょうか? お教えくださいませぬか?」

「は? あ……それは……」

「いけませんか?」

「い、いえ……そうではなく……」

 異界の騎士は明らかに戸惑っていました。

 よくよく考えてみればそれもそうかもしれません。

 己を取り囲む敵が「お教え下さい」なんて申したら、きっとわたくしでも驚きますもの。

 ですが、何か考えでもあったのか、異界の騎士は語り始めました。

「……天上にある神々の宮殿、そこから遣わされるのが戦乙女なのです」

「神々の宮殿? 神仏の御使いなのかしら?」

「し、しんぶつ?」

「何でもありません。こちらの話です。それで続きは?」

「は、はい。戦乙女は戦場にて名誉の死を遂げた戦士の魂を神々の宮殿に誘《いざな》い、神々の軍隊の列に加えます。どの戦乙女も現実離れをした美しさを有すると伝わります……」

「まあ! 美しいだなんて! いやだわ! うふふふふふふふふふ! これでも十七になる子がおりますのよ?」

「じゅ、十七!? 本当なのですか!? どう見ても十代にしか……」

「あらあらいやだわ! 十代だなんてそんな……おほほほほほほほ!」

「お方様、お方様」

 丹波様が溜息交じりにわたくしを呼びました。

「少しくらい良いではないですか! 近頃の殿ったら床の中での睦言も等閑なおざりなんですもの!」

「御心痛お察し申す。なれども只今はこの者共の成敗が先決にござります。斬り捨てまするか? 捕えまするか?」

 異界の騎士達に話を聞かれたくないでしょう。

 丹波様はいつの間にか翻訳魔法の指輪を外していました。

 ですが、わたくしは相談するまでも無く答えを決めていました。

 下々の者を思い遣る良き心根、そして村の衆が張り巡らせた囲みをすり抜け兵を導いた才覚の持ち主なのです。

 ここで死なせるには惜しい――――大損と申すもの。

 新九郎の下に置きたいと思いませんか?

 丹波様に「任せて下さい」と申し上げ、一歩前に踏み出しました。

「順番がおかしくなりました、改めてお名乗り申し上げます。わたくしは斎藤さいとう左近さこんの大夫たいふが妻、みどりと申します」

「サイトー? も、もしやサイトー・シンクロー殿……の?」

「新九郎は我が子にございます」

「我が子!? や、やはりそんな歳の子がいるようには……」

「まあ! またしても嬉しい御言葉ですね!」

「ほっほっほ。ゴホンッ!」

「――――そ、それはさて置きお願いがあるのですけど、お聞き届けくださいますか?」

「お願い? 捕虜同然の私達に……ですか?」

「はい」

「……聞き届ければ、部下達を家族の元へお返しくださいますか?」

 異界の兵らが「小隊長っ!」と止めに入りますが、異界の騎士は首を振ってそれを制しました。

 覚悟を決めているのでしょうね。

 ますます気に入りました。

「如何ですか? お約束いただけますか?」

「ええ。もちろんです」

「……分かりました。何なりとお申し付けください」

「ありがとうございます。それでは貴公、わたくし達に降って下さいますか?」

「は? く、降る? そんな事、わざわざ頼まずとも……」

「いいえ。降れば最後。以前と同じように騎士を続ける事は難しいかもしれませんよ?」 

「そ、その仰り様では、私の命もお救い下さるように……」

「そのつもりです」

 異界の兵らが喜色を露わにします。

 異界の騎士の硬い表情も僅かに和らぎました。

 ですが、話にはまだ続きがあります。

「それから降っていただいた後、色々とお手伝いいただきたい事があるのです。我らにとっては取り立てて珍しい事でもないのですけれど、異界の方々にとっては大変恐ろしい事だと伺いますので……」

「恐ろしい……事……」

 異界の騎士は、長く迷う事はありませんでした。

「恐ろしい事ならば、この地に足を踏み入れてから一生分を味わい尽くしております。この期に及んで恐れる事などありはしません!」

「左様ですか。受け入れて下さいますか」

「はいっ!」

「立派なお覚悟です。そういえばお名前を伺っていませんでしたね?」

「エトガル・ブルームハルトと申します」

「ブルームハルト?」

 わたくしと丹波様は顔を見合わせました。

 ブルームハルトと言えば、クリストフ殿やヨハン殿と同じ家名。

 そして名前に「フォン」と申す貴族の称号が付かないとすれば、ブルームハルト本家とは血筋の離れた分家の者ではないでしょうか?

 ならばヨハン殿と同じ立場ですね。

 縁とは異な物。

 エトガル殿もまた、ヨハン殿と同じ道を辿るのですね――――。

「ところで奥方様。私は何をお手伝いすればよろしいのでしょうか?」

「首実検です」

「クビ……ジッケン? そ、それはもしや――――」

「伊勢殿や日根野殿が準備をして待っていますからね。そろそろ戻るとしましょうか」

「ちょ、ちょっとお待ちをっ!」

 近習衆がエトガル殿の両脇を抱えて立たせました。

 どうやら首実検を御存知のようですが、もう遅いのです。

 逃がしませんよ?

 おほほほほほほほ!
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