泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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繁栄

神獣

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『勝手に森に入り泉の水を飲んだ事、お許しください。』

ケリュネイアは透き通る様な綺麗な男性の声だった。

「それはいいのよ。怪我をしていたみたいだけど、何ともない?」
『はい。精霊様の泉の水をいただき、すっかり治りました。感謝致します。』

身体に異常はないみたいだ。

「ケリュネイアさん、お話を聞かせてもらえるかしら?」
『はい、何なりと。』
「勝手に森に入ったと言ったけど、誰かに入るなと言われているのかしら?」
『いいえ我ら一族の中で、ここは神聖な地だと言われており、入ってはいけないと伝えられて来ました。』

鹿同士でそういったコミュニケーションをとっていると。
誰がそんな事を言い出したのだろう?

『この地は気配があるのです。何よりも恐ろしい、獰猛な獣の気配が。』

獰猛な獣?ここには私と颯太しか居ないのだけど。

「お母さん、シグルーンの事じゃないかな?」
「そう……そうかもしれないわね。」

シグルーンは死んでもずっと暖かったし、私達を守ってくれていたのかな?

『失礼を承知でお伺い致します。そちらは精霊様のお子様ですか?』
「この子は颯太といって、私の息子です。私はハルといいます。」
「世界樹の精霊のソータだよ。」
『世界樹様でしたか……これは御無礼を致しました。私はケリュネイアです。名前はありません。』

やっぱりケリュネイアは固有名ではないんだ。何か言いにくい名前だし、申し訳ないけど心の中では鹿さんと呼ばせてもらおう。
鹿さんの祖先がケリュネイアという名だったから一族はそう名乗っているらしい。

「それで、あなたは何故あんな怪我を?」
『私は争いに破れ、群れを追われてここに来てしまいました。』

やっぱり縄張り争いなのね。可哀想に……。

「行く所がないならここにいてもいいわよ。」
『宜しいのですか……?』
「ええ、この泉の水を飲んでそんな姿になってしまったのだから。棲む所も無いのならここで一緒に暮らしましょう。」

鹿さんの体格は初めに見た時の二倍以上になっている。もはや鹿と呼んで良いのかさえ分からない。

『ありがとうございます……!この御恩は一生忘れません!全身全霊でお二人に尽しましょう!』

私も颯太も彼を大歓迎だった。
二人でも良かったけど、穏やかに暮らせるなら誰が来ても問題ないから。

「それなら名前をあげようよ。」
「名前……そうね。ケリュネイアでは呼びにくいし。どうかしら?」
『名前を……?ハル様が付けてくださるのですか?是非ともお願い致します!』

私が付けて良いみたい。
親しみのあるいい名前を付けてあげよう。

……とは言ったものの、鹿らしい名前を中々思いつかない。

すぐに思い浮かんだのは鹿之介だけど、いくら何でも安直過ぎる。
しかし鹿っぽい名前を考えるとどうしてもね。

ワクワクとしながら見ている颯太に待ち切れずにウズウズと脚を踏み鳴らしている鹿さん。

こんなに期待されているのだから良い名前を付けてあげよう。

そうね……黄金の角に逞しい体格。鹿というより鹿の神様ね。

神様か……。

天迦久神あめのかくかみだったかしら。

「あなたは今日からカクカミよ。」
「カクカミ?」
『おお……私の名はカクカミ……!ありがとうございます!!』

大喜びで嘶くカクカミ。

すると全身が輝き出し更に角が大きくなっていった。

「どうしたのカクカミ?」

近くに行って見上げている颯太がカクカミに聞いている。

『分かりません。ハル様に名を頂いた時、凄まじい力が私の中に湧き起こりました。きっと私は本当の意味でハル様にお仕えする事を許されたのでしょう。』

許されるなんて大袈裟な。

「これであなたは今日から私達の家族よ。」
『ありがとうございます!宜しくお願い致します!』

こうして私達に新しい家族が出来た。
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