泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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繁栄

家族

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カクカミの背で揺られて帰路に就く。
小熊も着いて来る。帰る場所がないのだろう、母熊を殺してしまった責任もある。住処くらいは用意してあげられるだろう。

カクカミはゆっくりと歩き続ける。
皆一言も話さなかった。

『見えてきました。もうすぐ泉です。』

見上げると木々の間から一際大きな木が見えてきた。世界樹だ。
あの子が死んでも木は無事なのだろうか?

いや、もしかしたら……

「カクカミ、確認したい事があるから急いでもらってもいいかしら?」
『畏まりました。』

ゆったりとした歩調で進んでいたカクカミにお願いして急いでもらう事に。
カクカミは跳ねるように森の中を突き進んでいき、あっという間に泉の畔まで帰ってきた。

「お母さん!」

世界樹の下に颯太がいた。

「颯太!!」

カクカミが屈むのすら待ちきれずに背中から飛び降りて颯太の元へ走る。
颯太も私に向かって来てくれた。
しっかりと抱き合う。確かに颯太だ。

「ごめんねお母さん。僕、死んじゃった……お母さんを守れなくて、ごめんなさい。」

この子が死の間際に謝っていたのはそんな事を思ってくれていたのだと知って胸が苦しくなった。

「いいのよ……私の方こそごめんなさい。あんな危険な所に連れて行って、痛い思いをさせて……でも本当に良かった……」

もう二度とこんな思いはしたくない。

『ソータ様、ご無事で何よりです。』

カクカミが顔を近づけて来る。私と颯太は抱き合ったまま彼の鼻先に触れる。

「カクカミ、アルカスも、お母さんを守ってくれてありがとう。」
『とんでもない、ソータ様をお守りできなかったのです。礼など不要です。』
『俺のせいでご迷惑をお掛けしてしまいました。本当に申し訳ありません。』
「いいのよ。颯太もこうして無事だったのだし。でもあなたのお母さんは……」

結果、彼の母は救う事が出来なかったのだ。自分達ばかり喜んではいけない。

『いいんです。母は豹変した時点で既に死んでいたのです。そう思うようにします。』

小熊は項垂れたまま首を小さく振っている。

「あなた、もし良かったらここで一緒に暮らさない?」
『宜しいのですか?』
「大歓迎だよ!」
『お二人のご厚意だ。共に暮らそう。』

颯太もカクカミも賛成してくれる。

『ありがとうございます……!俺もカクカミ様みたいにお二人にお仕えしていきます!』

そう言って地に伏せる小熊。

「そうと決まれば名前を付けてあげなくちゃ。お母さん?」
「そうね……」

ケリュネイアにカクカミと名付けた以上、それらしい名前を考えてあげなくては……。

熊……熊本県のマスコットや世界的に有名な黄色い熊の名前が頭を過るがそれは駄目だろう。
他にはミーシャとか。あのオリンピックは残念だった。

いけない、脱線してしまった。

小熊なら……そうね、メトトゥシ……呼びにくいわね。

「あなたは今日からメトよ。」
『俺はメト……ありがとうございます!』

立ち上がり雄叫びを上げるメト。

身体が一回り大きくなり、全身を覆っている真っ黒な毛が白くなり輝きだす。

大変、シロクマになってしまったわ……。

『全身に、力が漲る!』

メトは嬉しそうに泉の周りを駆け回る。

『メトよ、ここは神聖な地だ。もっと静かにせよ。』
『申し訳ありません。ついはしゃいでしまいました。』

まだ小熊だもの、元気があっていいと思う。

こうしてメトが新しく家族に加わった。

母熊に張り付いていた赤い石について、これが何かを調べなければならない。

初めて手にした時は精神的に弱っていたせいか何も感じることはなかったが、今触ってみると力を吸い取られている様な感覚に襲われる。

嫌な予感がするので地面に置いて様子を伺う事にした。

蹲み込んで様々な角度から石を眺めていると『パキッ』と音がして粉々に砕けてしまった。
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