泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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繁栄

激戦

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巨大な蛇はアガースラという名前の種族だった。心の中では大蛇さんと呼ばせてもらう。

渓谷はとにかく入り組んでいた。
緑も多く、遠くからでは地形を把握する事はまず出来ないだろう。

そして入り組んでいるからこその欠点もあった。
《反転》使った猛毒の効果が弱くなるのだ。一箇所に集まっている数が少ない上に、下手をすると味方を巻き込んでしまう。一撃で決着をつける事は出来なくなった。

大蛇さんの案内で渓谷の深部まで移動する。そこを拠点に渓谷内に侵入してくるゴブリン達を撃破していく作戦だ。
ここを縄張りとしている大蛇さんが全て考えてくれた。

『この地の守りも万能ではありません。どうかお気を付けて。』

そう言って大蛇さんはスルスルと小川に沿って移動して行った。

『地形に詳しい者が味方についてくれて幸運でした。』
「そうね。これなら結構な大軍相手にもどうにかなりそうね。」

大蛇さんの向かった方向から沢山の悲鳴が聞こえる。あんなものに遭遇したら悲鳴も上げたくなるだろう。私はゴブリン達を同情した。

「俺達もいくぞ!」

ヨキの号令でコボルト達が西の方へと移動を開始する。

『我らも配置に着きます。』

カノオ達は北部は移動だ。役目は索敵で、念の為泉の方まで行ってもらう。

『俺も向かいます。』

メトは東側だ。彼は体が大きいから一人で動いた方が戦い易いらしい。

私と颯太とカクカミは中央で待機だ。いずれかの方向が押される様なら援護に向かう。

戦闘が始まって2時間、戦いは膠着していた。

今の所数人のコボルト達が怪我の治療に来ただけでどの方向も何とか凌いでいる。

『ハル様!大変です!泉にゴブリンどもが押し寄せております!』

やってきたのはカノオではないケリュネイア、一番若い子だ。
全身傷だらけで痛々しい。

『こちらは陽動でしたか……』

地面を踏み鳴らしながらカクカミが言う。

「それでカノオ達は?」
『現在長達が何とか食い止めております。しかし徐々に包囲されていて……』

油断した。

彼らは知恵が働く。私達をここに釘付けにしてその内に泉の水を利用しようとしているのか。

「カクカミ、私は実体を捨てて泉に戻ります。ここのゴブリンを倒したら泉まで後退して。」
「僕もお母さんと行くよ。」
『畏まりました。どうかお気を付けて。』

この地の戦いをカクカミ達に委ねて私と颯太は身体を捨てて泉に戻る。

泉では死闘が繰り広げられていた。

泉を守る様にケリュネイア達が陣取り、迫りくるゴブリン達を弾き返していた。

ゴブリンは津波の様に押し寄せてきておりケリュネイア達は皆一様に深傷を負っていた。

「みんな!良く耐えてくれました。」
『ハル様!ソータ様!』

颯太は植物操作を使って一部のゴブリンを大木で打ち払う。

私は全員に水を与えて傷を癒す事に専念した。

一頭ずつ手に溜めた水を掛けていく。

最後の一頭に水を掛けた瞬間、正面からオーガが飛び出してきた。

『ハル様、危ない!』

若いケリュネイアはオーガの振り下ろしてきた巨大な棍棒を頭で受ける。鈍い音がしてその場に倒れた。

「しっかり!」

私は水を生成して倒れ伏したケリュネイアの頭に掛ける。

オーガが私を狙って棍棒を振りかぶる。

「お母さん!!」
『ハル様!』

颯太は植物操作で近くのツタを操りオーガの棍棒を絡めとろうとする。が、ツタを引きちぎり更に振りかぶった。

カノオが私の方へと走ってくる。しかし間に合わない。

私はオーガの足元へと移動して巨木の幹の様な足に触れる。

「悪く思わないでね。」

《栄養吸収》を使う。

あっという間にオーガがミイラの様に痩せ細っていく。
そして声も発する事なく倒れた。

それを見て恐れ慄くゴブリン達。

「もうおやめなさい。あなた達が傷付くだけです。」

これは最後の警告だ。
これで退いてくれるなら良し、駄目なら全力で排除する。

『精霊様、どうかお許しください。』

一人のゴブリンがそう言って武器を投げ捨てた。
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