泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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冒険者

撃退

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廊下を駆け抜けて階段を降りる。
薄暗い階下の状況が判りにくいので魔法で光球を作り出して下に向かって放り投げる。

「ラティーシアさん、ご無事ですか?」
「はい」

落ち着いた声で返事があった。
階段を駆け下りるとそこには覆面の外れた男達が二人、床に倒れていた。

「侵入者は倒しました。もう大丈夫です」

焦った様子もなくいつも通りの口調で言うラティーシア。

「これはあなたが?」
「はい」

二人の男は目と口を大きく開き苦悶の表情を浮かべたまま絶命していた。

「武器を持っていましたので仕方無く」
「そうね……でも無事で良かったわ。この者達は私達を狙っていたみたいです。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いいえ、お客様の安全を守るのも宿の勤めですから」

そう言いながら男二人の襟首を掴んで引き摺っていくラティーシア。

「ここに置いておいたら邪魔でしょうから外に出しておきます」
「上にも二人います。衛兵に突き出しましょう。拘束して連れてきますね」
「お願いします」

階段を上がりながら気付いた。
賊の数は五人、下にはもう一人いた筈だ。その者は逃げ出したのだろうか?
もし近くに隠れていたら危ない。立ち止まり階下を見渡して隠れていないかを観察する。

……どうやらいない様だ。

代わりに妙なものを見つける。
厨房に近い壁に大きな赤い染みがあった。染みというよりは乱暴に赤いペンキをぶち撒けた様に壁が真っ赤になっていたのだ。

ラティーシアがやった事なのだろうか?
いや、今は男達を拘束するのが先だ。

二階へと急ぐ。

「お母さん、ラティーシアさんは?」
「無事よ。一階は大丈夫」

芽依は無数の凍った枝で貫かれている男を距離を取りながら監視していてくれた。

「さて、あなた達は何者なのかしら?」
「……化け物め」

一昨日も聞いた台詞ね。
覆面を剥ぎ取ると元締めと呼ばれていたあの男だった。

「あなたは明日処刑されるのではないの?」
「分からねぇのかよ」

そう言って不敵に笑う元締め。
構わずもう一人の覆面を剥がしてみたが、こちら知らない男だった。

「どうやらあなたを衛兵に突き出してもあまり効果は無いようですね」
「そうだとも。俺は何度でもお前の所に復讐に来るぜ」

この男は駐屯兵団と裏で繋がっているのだろう。ならば物理的に来られなくしておこう。

「芽依、この者達は私が衛兵に引き渡すからあなたはもう眠りなさい」
「……うん」

考えを察したのか素直に部屋に戻って行く芽依。

私は氷の刃を生成して男の両手足を切断する。
あまりにアッサリとやったので、一瞬何が起こったのか分からなかったのだろう。自分の身体に起こった事を理解して悲鳴をあげるので覆面を拾って口に詰め込んでおいた。

切り取った手足は《栄養吸収》で全て吸い取って塵になって消える。

水を使って傷口を塞ぐ。手足の再生はしない。

これならもう私達をつけ狙う事は出来ないだろう。

二人とも同じ様に処理して、すっかり軽くなった男達を引き摺って一階に降りる。二人はいつの間にか気を失っていた。

扉が開いておりその先にはラティーシアがみえた。どうやら誰かと話をしている様だ。

「二人を連れて来ました」
「はい。今こちらの方に襲撃された事を話していた所です」

扉を出るとそこには私服の青年が一人立っていた。

「私は東の詰所に勤務している衛兵です。明日は非番で遅くまで飲んでいたもので……偶然通りかかったのですが」

金髪に青眼の青年、年齢は二十代前半か。背も高く身体も良く鍛えられている様子だ。

「この二人も襲撃者です」
「そうですか。これはまた随分と……」

手足を失った男二人を見下ろしながら言葉を失っている。

「では私が詰所まで連行します」
「お一人でですか?」
「ええ。遺体はどういう訳かかなり軽いですし、この二人も大して重くありませんからね」

そう言うと器用に四人を抱え上げてみせた。

「ではお願いします」
「ええ。では」

そう言うと青年は通りの方へ歩いて行く。

私はラティーシアと宿に戻る。

「後片付けはしておきますから、お休みください」
「本当に申し訳ありません」
「いえ、気になさらないでください。お二人とも無事で良かったです」

ラティーシアが片付けを始めたので私は自室に戻って芽依に経緯を報告して眠る事にした。
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