泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

勇者

懇親会

彼らは芽依の容姿に驚きはしたが、急激な変化をした芽依自身の事を気遣ってくれていた。

なんて優しい人達なのだろう。

彼らが隣人である事を嬉しく思った。

「ハル様、是非屋敷に泊まっていって下さい。使用人達も呼びましたので」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいます」

この屋敷には随分世話になった。
あの時の使用人の殆どがここで働いているが、芽依に付いてマナーを教えていたジョゼットは臨時雇いだったので私達が来ると聞いてすぐに呼んでくれたそうだ。

「ロイドも街にいるそうなので呼びました」
「ロイドおじさんいるんだ！」

アルザハーンに教えられて目を輝かせて喜ぶ芽依。

「芽依、もしかして模擬戦を挑むつもり？」
「うん！今度こそ勝つんだから！」

久しぶりに会って開口一番『おじさん、模擬戦しよ！』と笑顔で言う芽依を見て困るロイドの顔が目に浮かぶ。

「ロイドも仕事で疲れているだろうからあまり無理をさせては駄目よ？」
「うん！」

これは模擬戦は絶対にやる気ね。ロイドにはあとで謝っておこう。

屋敷に入ると使用人の皆が出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、ハル様、メイ様」
「ただいま」「ただいま！」

三年間暮したこの屋敷は第二の家の様なものだった。皆がおかえりと言ってくれてとても嬉しい。

「メイ様……ですか？お美しくなられて！」
「いけませんよアンナ。大変失礼致しました」

喜びを表に出す侍女のアンナを家政婦長のメアリーが嗜める。

「皆、お二人にお会い出来て喜んでおります。どうかご容赦ください」

家令のアルフレッドが綺麗なお辞儀をしながら言う。

「勿論よ。私も芽依も嬉しいわ。皆を紹介します」

セロ達を紹介する。

「お茶でも飲みながら話しましょう。どうぞこちらへ」

ザハーンが案内してくれて応接間に移動した。

前回、不可侵協定締結の時はゆっくり話をする事もできなかったので、お茶を飲みながら冒険者の仕事について話をした。

使用人の皆も一緒に聞いてもらい、笑ったり驚いたりと賑やかに過ごす事ができた。

昼食をいただいた後、のんびりとアルザハーン達と話をしていたらジョゼットとロイドが到着した。

「お久し振り、ジョゼット」
「ハル様、お久し振りでございます。メイ様、お美しくなられましたね」
「ジョゼットは私を見て驚かないんだね」
「驚いていますよ。立派な淑女になれれましたね」

ジョゼットは優しい笑顔を向けていた。

「おいおい……本当にメイなのか？」
「うん。ロイドおじさんお久し振り！じゃ、行こっか！」
「行くって何処にだ？」
「外だよ！模擬戦やろ」
「マジか……」

ロイドは芽依に引っ張られて部屋から出て行った。

「俺達も見に行っていいかな？」
「ええ、もちろん」

みんなで庭に出て二人の戦いを観る事に。

「真剣でいいよね？」
「俺は構わないが、ちゃんと加減しろよ？」
「勿論！」

芽依とロイドは簡単に打ち合わせを行うと剣を抜いて構えをとった。

ロイドは長剣一本、芽依は小剣二刀流だ。

ここに住んでいる時はほぼ毎日同じ見た光景。違うとしたら芽依の姿かしらね。

そういえばあの姿になってから戦うのは初めじゃないかしら。無理をしなければいいのだけど。

芽依の動きは以前にも増して良くなっていた。キレの良い動きに鋭い斬撃。初めは冷静に攻撃を捌いていたロイドだが段々と余裕がなくなっていく。

「腕を上げたな」
「現役冒険者だからね！」

ロイドも流石だ。ここを出る前とは段違いに強くなっている芽依の攻撃に対応している。

このまま膠着するかと思ったが決着は呆気なく訪れた。

ロイドの動きを読み切った芽依が巧みにフェイントを入れながらロイドの剣を跳ね飛ばした。

切先を喉元に突きつけられ「参った」と両手をあげるロイド。

「今ワザと負けなかった？」

口を尖らせて言う芽依。ロイドは芽依の頭をクシャクシャと撫でると、「本当に強くなったな！」と笑顔を向けていた。