泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

文字の大きさ
413 / 453
竜の国

大同盟

しおりを挟む
闘技大会も無事に終わり、ガルデインのゼムロス達が味方についた。
彼らはルドガイアの情報を多くもたらしてくれ、それはライアッドにとって有益な情報だった。

ガルデインの者達はある程度信用に足ると判断され、ライアッドに正式に迎える事になったのだが、ゼムロスは『精霊様にお仕えしたい』と言い、私も人間の手が必要だと判断したので新たに建設を始める村に住んでもらう事にした。

ガルデインの戦士達が森に来て一ヶ月が過ぎる頃、私達大森林に住む異種族達は、魔族の国ウルゼイドとディアブレルに加えて人間の国ライアッド、アドラス、リーグニツ、ソアニール、ファディアと正式に同盟を結んだ。

アドラスはギルバートの指示のもと、新しい国王が国内の者から選ばれて順調に国の能力を回復しつつあり、敵対行動をとっていたリーグニツもアドラス王国を通してライアッドに謝罪と和平の申し入れがあり、勇者召喚の儀についての情報開示と現国王の退位を条件にこちらの陣列に加わる事になった。

「お母さん、私たちも国として名前をつけた方がいいんじゃない?」
「そうね。みんなの意見を聞いて決めましょう」

芽依の提案に賛成だ。私達は一国家並みの、いやそれ以上の戦力を有する集団になっていた。しかしながら政治を行う中枢機関は存在しておらず、外交窓口と森に住む者達への指示や対応を颯太一人に任せきりの状態では、とても国としては認められないだろう。

まずは一番負担をかけている颯太に相談してみる。

「良い事だと思うよ。ウルゼイドもディアブレルも森を一つの国と見てくれているし、建国宣言をしてくれれば二国共に支持してくれると言っているよ」

私と芽依とで颯太に話を聞きに行くと、颯太は針仕事をしていた。
手は止めずにミシンで縫っているかの様に正確に針を通している颯太。今私が来ている白のローブと芽依の来ている赤のワンピースも颯太が作ったものだ。街で買うものよりも丈夫で見た目も良く芽依は特に気に入っているようだ。

話を戻そう。
この子は既に先を見据えていて、二国に話をしていたのかもしれない。

「そうなのね。対面的にも国を名乗る頃合いなのかも知れないわ。他のみんなはどう思うかしら」
「僕が調べた限り、凡そ半数の種族は国という概念が分からないみたいだよ。でも母さんがやると言うならみんな喜んで賛成するよ」

本当に優秀な子ね。

「名前はどうするの?」
「全ての種族が対等である事を示せる名前がいいわ」

出来れば全員から話を聞いて良い名前を付けたいと思うが、それをやっていたら決まるまでに何年かかるかわからない。
せめて長達と話をして決めたいと思う。

都合の良い事に今日は長達が報告をしに来る日だ。この場には族長以外にも颯太に芽依、セロ達冒険者仲間と人の姿になったカクカミ達、転生者全員と、人間代表としてゼムロスが出席する。
定例の報告会の席で全員から意見を求める事にした。

だが皆、私が付ける名前ならば何でも良いと言うばかりでかえって困ってしまった。

「滅んだ俺達の国にも精霊様の噂はあってな」

そう言って話し出したのはゼムロス。

「遥か南には聖なる水が湧く泉があり、そこは清らかな水の乙女が住んでいる。周りの森には魔物が住んでいるが、どれも人と同じかそれ以上の知性を有し乙女を守護している」
「確かに聞いた事がある。聖泉の乙女、神の遣いの聖女……色々な名前で噂を耳にしましたよ」

ゼムロスの話に付け加えるトウヤ。
乙女などと言われると何だかこそばゆい。

「俺が聞いたのは一日でファディア軍を全滅させた幻獣使いの悪魔、冷酷無比の幻魔だったぞ」

マサがそう言うと族長達が彼を睨む。

「彼は聞いた事を言っただけよ。気にしていないわ」

私がそう言うと皆マサから視線を外して小さく息を吐いた。

「それでどうするの?」
「そうね……」

どうするかを聞いたつもりだったのだけど、困ったわね。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...