泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

文字の大きさ
452 / 453
竜の国

強者

しおりを挟む
「私は泉の精霊ハル。あなたはズロヴァストですね?」
『如何にも。名高き泉の精霊にお会いできて嬉しく思う』

丁寧に返してくるが敵意の様な感情は痛いほど伝わってくる。

「ギルディンを癒したのは私です」
『素晴らしい!あの傷を癒せるとは……やはり其方は期待通り、いやそれ以上だ‼︎』

そう言って天に向かって咆哮を上げる。

空気が、大地が激しく震える。トコヤミとエレネージュは地面押さえ付けられる様に伏せ、芽依は胸を押さえて蹲り、グラムは耳を塞ぐ様にしながら気を失ってしまう。ラーニは泡を吹いて気絶していた。クオンですら頭を抑えて膝を着いている。

彼は喜んでいるだけなのだろう。ただの一吠えでこれほどに威力がある者は初めて見る。

「それで、あなたは私と仲良くするつもりは無さそうだけど、どうするつもりかしら?」

私はトコヤミから降りて前に出ると、何ともない私を見下ろして口を歪めて笑う。

『戦を所望する』
「戦……」

その手合いか。

『我は最強を望んだ。故に今に至る。しかしそれを証明する術が無かったのだ。其方の様な強者がいなかった』

望んで得られた力?まさか……

『あなたは転生者?』
『ほう?懐かしい言語を……其方もか』

やっぱり。彼は私と同じだ。日本語で話したら同言語で返してきた。

『神に望んだのだからあなたが最強である事は間違い無いのでしょう。それを多くの生命を巻き込んでまで確認する事は無いわ』
『いいや。神は言っていた。自力にて強者に至った泉の精霊の力は未知数だと。我は全てにおいて最強である事を証明したいのだ』

つまり、個々人の力は勿論のこと、勢力としても最強である事を示したいのね。彼はその為には生命を奪う事を躊躇わない様だ。

『それを証明……あなたが満足する頃には多くの生命がこの世から無くなっているでしょう』
『だから何だというのだ?』

不敵に笑うズロヴァスト。強者は何をしても良いと考えているのか。自然界において強い者が弱い者を淘汰するのは普通な事だが彼の考えは少し違う。自身が生きていく事に関係の無い者を殺めると宣言している。これは認められない。

『私はあなたを止めなければいけない様ですね』
『望むところだ‼︎』

対話など不要と言いたげに語気を強めるズロヴァスト。口の中で魔力が膨れ上がっていく。

「皆、私の後ろに」

殆ど身動きの取れない全員を守る為に地面を隆起させて《硬質化》をかける。
城を跡形も無く消し飛ばした威力を見るにこれだけでは防ぎきれないだろう。何重にも重ねて展開する。

『見せてみよ!泉の精霊の力を‼︎』

膨れ上がった魔力が放たれ、硬質化された土壁は次々と破壊されていく。

このままではいけないわ。

壁が破壊される前に対抗しなければ……
フィルトルークであの魔力を少しでも弱めれば防ぎきれるか。

素早く詠唱を済ませて魔法を展開する。
両手を合わせて一点を貫き引き裂く様にイメージする。両断して魔力の奔流を逸らす事は出来た。しかし……

「くっ……」

二つに裂いた筈の片方が収束して私の腹部を貫いた。もう片方はそのまま最後の壁を吹き飛ばして軌道を変え後ろの皆の方へと飛んでいく。

マズい。まだみんな動けていない。
何とかしなければ。

更に壁を作ろうとしたのだが次の瞬間私を貫いていた魔力が広がり身体を引き裂く。

「お、お母さん……!」

芽依が悲鳴をあげる。
私は何も出来ずに……

──優しい風と穏やかな水の流れを感じた。

泉の中に居た。

「ここは……そんな……」

私は戻って来てしまった。つまり、死んだ。

芽依は、みんなは……?

「母さん?」
「颯太?大変、どうしよう……?すぐにみんなを助けに行かなくちゃ」

あの魔力を受けて無事であるかは分からない。いや、クオンが何とかしてくれている筈よ。早く助けに行かないと!

「みんなを集めて!すぐに行かないと!」
「母さん、落ち着いて」

泉から慌てて上がろうとするが颯太が入って来て抱き止める。

「大変なの!早くしないと!」
「まずは落ち着いて、状況を詳しく話して」
「えーと、お取り込み中悪いんだけどさ、みんなは無事だから安心して?」

聞いたことのある声が岸辺から聞こえてくる。

「アルシファーナ……?」
「うん。ボクだよ」

ここにいる筈のない幼き女神が苦笑を浮かべながらぎこちなく手を振っていた。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...