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蹂躙

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日も落ちて、食事もひと段落して片付けをしていると、兵士の人がやってきた。

「ご苦労様。」
「お疲れ様です!食事、まだでしたか?」
「いや、俺はさっき食べたから。それよりも伝えないといけないことがあってな……エリオ、ここで飯作ってた奴いただろ?アイツ、さっきの戦いで大怪我をしちまってな。もう長くないんだ。」
「どこにいますか?治療に行きます。」
「いや、もう手は尽くしたんだよ。」
「教えて下さい。アンナさん、片付けをお願いしてもいいですか…?」
「はい。行ってあげてください。」

兵士の人は「分かった。」とだけ言って先を歩く。私もそれについて行く。

怪我人のいるテントは複数ある。叫び声や泣き声が聞こえてくるテントもあった。
その中でも一番奥にあるテントに私達は入った。
血や色々なにおいが混ざり合って息がつまる。近くにいた兵士の人が布を渡してくれた。それを口に巻いて奥に進む。

一番奥にエリオさんは寝かされていた。
右腕と右足が無くなっている…包帯でグルグル巻きにされて止血されていた。
頭にも大きな傷があるらしく、包帯が巻かれていて血が滲んでいた。

「お嬢さんか…すまないね…勢いよく出て行ったのにこのザマだよ。食事の準備ありがとう。俺が作るよりみんな喜んだろう?」
「喋らないで下さい。」

瀕死なのに私達の事を気遣ってくれている。

「俺…死ぬみたいだ。悪いけど明日の食事も作ってやってくれないか…?ここの奴らときたら料理は全然ダメなんだよ…。」
「エリオさんが作ってください。」
「お嬢さん…人使いが荒いな…。俺はもう…。」

治癒の魔法陣を使おう。

助けられる方法を知っていて見殺しになんて出来ない。

「今から治癒の魔法陣を作ります。エリオさんが回復したら他の人も使ってください。」
「魔法陣?君何を言って…?」

急いで魔法陣を描く。ラッキーシュートも掛ける。治癒の魔法陣、発動!

柔らかな光が溢れて、エリオさんを癒していく。怪我を負っていた頭が癒えて、失った手足を再生していく。

「なんだ…?何が起こった?」

エリオさんは自分の身体が元に戻っている事に驚いている。

「君が治してくれたのか…?」
「言ったじゃないですか。これからも自分でご飯作ってくださいって。」
「信じられない…!奇跡だ!」
「この魔法陣はまだ暫く効果を発揮します。怪我人を乗せてください。直ぐに良くなりますから。」

エリオさんに退いてもらって瀕死の兵士を魔法陣に乗せる。
見る見るうちに治っていく。

「す、すごい…!」

このテントにいた瀕死の兵士の人達は完全に治っていた。

「ありがとう!これで生きて帰れる!」
「ありがとう!」「ありがとう!」

魔法陣の効果が消えたのを確認してテントから出ると、他のテントの人達も集まって来ていた。

「お、俺…腕が折れちまってるんだけど…治せないかな?」
「俺も、魔物に足をやられてうまく歩けないんだ…。」
「片目が見えないんだよ。何とかならないか…?」

治癒の魔法陣をもう一度使う?いや…

「広範囲回復魔法を使います。これで治せると思いますので動かないでください。」

詰め寄る皆さんを制止して、ラッキーシュートをかけたスターヒールを発動する。

暖かな光が降り注ぎ、辺りにいた人の怪我が治っていく。

「治った!腕が治ってる!」
「俺もだ!普通に歩けるぞ!」
「目が…見える!!見えるぞ!!」

みんな治って良かったね。

「聖女様だ!」
「いや!俺達の守護天使様だ!」

え!?ちょ、ちょっと!

何だか分からないうちに胴上げ?されて肩車されて頭を撫でくりまわされて…目を回していたらユキさんが駆け付けてくれた。

「大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがと。」
「なんだ?さっきのデカブツをぶっ飛ばしてくれた嬢ちゃんじゃねぇか!」

ユキさんも頑張ってたんだね。

治療の経緯を説明すると、「ミナさんならやってしまうと思ってました。」と言って微笑んでくれた。

他のみんなも魔物相手に大活躍だったらしい。

ただ、魔物の侵攻はこれで終わりではない。このまま戦いが続けば多くの犠牲が出てしまうのは間違いない。

エリーゼさんを呼び出して、ユキさんと3人で話をする事にした。

「エリーゼさん、相談があります。」
「何でしょう?」
「ここの魔物を一掃して、追い払う方法があるのですが、やってもいいでしょうか?」
「それはどの様な方法でしょうか?」
「ウルちゃんの力を使います。」
「つまり、試験が失格になるかどうかを確認したいのですか?」
「はい。」
「失格になると言ったら止めますか?」
「いえ…でも、みんなが失格になっちゃうから先にみんなに相談してからやります。」
「いいですよ。今回は依頼の内容とは別ものですから。それにミナさんの決意に感動しました。今すぐ合格をあげちゃいたい位です。」

失格にならないと聞いて安心した。

「ウルちゃん、お願いできるかな?」
「勿論です。この辺りの魔物を一掃して、近寄らせなければ良いのですね?」
「うん。お願い。」
「お任せください。」

と、その前に…。
ラッキーシュートを掛けて砂漠の方面まで鑑定をかける。
よし、誰もいない。

ウルちゃんは私達から距離を取ると元の姿に戻っていく。
巨大な竜の姿に驚く兵士の皆さん。

「私の従魔ですから大丈夫です。ウルちゃん、やっていいよ!」
「はい。」

ウルちゃんは口を大きく開けてブレスを放つ。放射状に広がらずに一直線に飛んでいってそれを横に薙ぎ払う。真昼の様な眩い光、次いで起こる爆発。暫く後、爆風が押し寄せてくる。
ウルちゃんがひと吼えすると衝撃波は掻き消えた。

「これでもう魔物が来ることは無いでしょう。」
「うん、ありがとうウルちゃん!」

また猫の姿になって戻ってきたので抱き上げて撫でる。ウルちゃんは気持ち良さそうに目を細めている。

「ウルちゃんって…ドラゴンだったんですか?」
「はい。黙っていてごめんなさい。レギウスさんやルーティアさん達は知っています。」
「そうですか…何か今日は驚くことばかりで。」

なんかごめんなさい。でもこれで魔物の侵攻は無くなったし、一件落着だよね?
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