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ギフト

除去

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オーバーブーストスティールで因子を盗む。そう言ったもののよく考えたら因子って身体の中にある筈だよね。

そんなことができるのかな?

[オーバーブーストが掛けられた時点で、既にこの世界では有り得ない事象にまで昇華しています。スティールは必ず成功します。]

ヘルプさんを信じるよ。

オーバーブーストスティール!
時間が止まった様に周りの動きが遅くなり、テュケ君の身体に赤い点が映る。手を伸ばしその点を掴んで引き抜いた。

「うぅっ!!うぐぅぁぁぁぁっっ!!?」

私の手の中には赤い豆粒の様なものがあった。
テュケ君の服も破れていないし出血もない。
スティールは成功したけどテュケ君は苦しみ始めた。

ユキさんがテュケ君を魔法陣の中に押し込んだ。治癒の魔法陣は作動していてテュケ君を癒している筈だけど苦しんでいるのは変わらない。
外傷が無いため状態が分かりにくい。

鑑定するとテュケ君の状態が部位欠損と表示された。
部位欠損って言われても何処も欠損なんてしていないのに。

[悪性変異を起こしたアフターギフトを除去した事により体内の構成物が一部欠損、機能停止をしているためその表示であると推察します。]

それを治癒の魔法陣で治してしまおうって事なんだね。でもこんなに苦しんでいるのはなんでなの?

[因子核を除去しましたが体内には欠片が残っており、治癒の魔法陣による効果で欠損部位の再生と同時にそれが活性化。再び侵食を始めている為です。これ以上はどうすることもできません。テュケの生命力が勝れば回復します。]

「うっ……ぐ……あぁぁぁっ……」
「テュケ君…。」
「ねーちゃん……痛い…よ……助けて……。」

魔法陣から出ようとするテュケ君。
私は思わずテュケ君の所に駆け寄った。

「危険ですミナさん!」

ユキさんごめん。放っておけないんだよ。
テュケ君を抱きしめて魔法陣の中に留まらせる。

「頑張ってテュケ君!負けちゃダメだよ!」
「…ねーちゃん、オ…レ……。」

意識を失いかけてる…。何とかしてあげたい。助けたい。

ラッキシュートオーバーブーストをテュケ君に付与。

効果なんて分からない。何でもいいからテュケ君の力になって…!

テュケ君から力が抜ける。身体が大きくなっているので支えきれない。その場に一緒に倒れ込んでしまった。

「テュケ君!しっかりして…!」

鑑定で様子を見ると生命力が著しく低下しているものの治癒の魔法陣のお陰でどんどん回復している。

[成功の様です。]

良かった…。

「ミナさん、大丈夫ですか?」

ユキさんが助け起こしてくれた。しばらくテュケ君は魔法陣の中に寝かせておく。

『助かったんだね!ミナ凄い!』
「うん、多分もう大丈夫だと思うけど…。」

テュケ君の姿が変わってしまった。
ツノの様に突起した皮膚は剥がれ落ちて普通の容姿に戻っているものの、身長は随分と伸びて肌は浅黒く、髪も元々は茶色だったのに銀色になっている。

意識が戻ったらきっと困惑するだろう。
どう説明したらいいかな…。

『とりあえず目が醒めるまで部屋に寝かせておこうよ。あたしが見てるから、起きたら知らせるね。』

フィオレさんがテュケ君を連れて転移する。彼の部屋に移動したみたいだ。

「この部屋の子に会いに行こう。」
「そうですね。突然の事だったので驚いているでしょうし。」

フィオレさんに聞いたら他の部屋に移したと言っていたのでその部屋に行ってみる。

「あ!おねーさん。テュケはどうなったんですか?」

私達を見つけてテュケ君と同じくらいの少年が心配そうに聞いてくる。意外と元気そうで良かった。
彼が無事な事を伝えると良かったと笑顔になるけど直ぐに顔を曇らせてしまった。

「僕もあんな風になっちゃうんですよ…ね。あんな風になる前に治すことってできませんか?」

今のうちにオーバーブーストスティールを掛けたらどうだろう?

[因子核が体内で枝葉を伸ばしていなければテュケの様に苦しむ事は無いと推測します。]

ヘルプさんありがとう。

「出来なくは無いけど、どうなるかは分からないよ。もしかしたら凄く痛いかも知れないし苦しいかもしれない。」
「それでも…!あんな風になる位なら、やってください。」
「…分かったよ。準備するから待ってて。」
「はい。」

人体実験みたいでやりたくないけど、本人が望んでいるし、悪性変異したらやるしかないのだから今やってみよう。

念の為オーバーブーストの治癒の魔法陣も用意してオーバーブーストスティールを仕掛ける。
テュケ君の時と同じ様に周りがスローモーションになって赤い点が見えたので、手を伸ばし引き抜いた。

「…どう?どこか痛い所はない?」
「ううん。平気です。どこも痛くありません。」

手の中には赤い粒。少年を鑑定してもステータスは正常だった。

「成功したよ。」
「良かった!ありがとうございます!」

変異前なら比較的安全に取り去る事ができるのかも知れない。それならば今収容されている子達の因子核も早く取ってあげた方がいい。

一度みんなを集めて説明する。直ぐに因子核を取り除く処置を始めたいと。

『分かった!あたし達は収容を続けてればいいかな?』
「はい。もしもの時の為にユキさんとウルちゃんを連れて行きます。ノスフェランさんとルサルカさんはフィオレさんと同じで収容のサポートをお願いします。」

『分かったわ。』『承知しました。』

ここからは時間との勝負になる。
243人全員を助けられるかは分からないけど、できるだけ早く処置をしていく。始めは念の為治癒の魔法陣も用意していたけど、10人連続で異常にはならなかったので時間短縮の為魔法陣は描かない様にした。

ーーーー

……これで100人目。
部屋から出て大きく息を吐く。今の所順調に除去ができている。
収容の方も順調で、今180人目が収容された。

フィオレさんから連絡が入る。
(外で悪性変異を起こした子供が出たそうだよ。冒険者ギルドが対処したって。怪我人は出てないってさ。)
(分かったよ。ありがとう。)

変異を起こした子供はテュケ君を除いて10人。もっと早くに治療が始められれば…。

いや、そうじゃない。

今いる子達を助ける事に集中だ。

「ミナさん、少し休んだ方がいいんじゃないですか?」
「うん、大丈夫。まだまだいけるよ!」
「疲れたら言ってくださいね。」
「ありがと。」

さあ、あと133人だ。
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