転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄

文字の大きさ
732 / 826
特別編3:異世界

凄惨

しおりを挟む
ザクスさんは自分の生い立ちを話し始める。

当時ザクスさんは13歳。駆け出しの冒険者だった。
両親も冒険者で、12歳の時に2人とも任務中に魔物に襲われて亡くなった。

生きていく為にはザクスさんも冒険者をやるしかなかったけど、10歳から剣術や野外での生活の仕方を教わっていたので、そこまでの苦労はなかったそう。

当時はまだクルエナール連邦に吸収される前の国で、国民の8割が獣人族だったけど人間も獣人も分け隔てなく接する良い国柄だった。

ザクスさんはベテランパーティの下働きとして仕事をこなし、日々の生活費と経験を得ていたと話す。

「魔物の討伐任務であの村に来たんだ」

近くに凶暴な魔物が現れたという事で、1パーティ7人で討伐する為にやって来たのが例の村。山間の小さな村で、その辺りでは唯一人間が多く暮らしていた。山を挟んで向こう側はクルエナール連邦という所だった。

宿屋はあったけど4人も泊まれない小さな所で、空き家を提供してもらいそこで寝泊まりをしていたそう。

その時に何かと世話をしてくれたのが獣人族の夫妻。彼らは近くの村で孤児になった子供を引き取って面倒を見ていて、討伐任務来てくれた冒険者達を歓迎してくれ、毎回の食事の世話までしてくれた。

山奥に住み着いた魔物は頭が2つある巨大な蛇で、討伐を終えるのに2週間も掛かる。最後の2日間は全員で大蛇を追い続け、山頂付近でついに倒す事が出来た。しかしその代償は大きく、3人が死亡2人が重傷を負ってしまう。

「2人を連れて村に戻っても満足な治療は受けられないと思い、一か八かクルエナール側に向かう事になった。だが…」

軽傷だった仲間は獣人族で、力もあった。重傷の2人の装備を外して抱えてくれた。ザクスさんは装備を束ねて引き摺りながらそれについて行った。

クルエナールの国境には不必要な程の兵が居た。ザクスさん達は事情を説明してクルエナール連邦に入国させてもらおうとお願いしたのだけど断られた。

それどころか『不法入国者だ』と言い出して攻撃されたのだと。

「国境線は越えていなかったのですか?」

マークさんが聞くとザクスさんは首を横に振りながら答える。

「山のてっぺんに線が引いてあるわけがないでしょう。俺達はただ仲間を助けて欲しかっただけなんだ。それを奴らは…」

怪我の少なかったもう1人は説得を続けた。
でも彼らはそれを聞き入れなかった。

『獣臭い化け物め』

吐き捨てる様にそう言われ仲間が斬り捨てられる瞬間をザクスさんは見てしまった。

重傷の2人はザクスさんに逃げる様に言う。『こいつらは普通じゃない』と。

酷い怪我を負って動きの鈍い2人は、抵抗するも兵士達の手に掛かる。彼らは人間だったのに…。

ザクスさんも数人の兵士に攻撃され、崖に追い詰められて落とされた。

「だが俺は奇跡的に助かった。両足と右腕の骨が折れていたが、帰りの遅い俺達を探しに来てくれた孤児院の親父さんに見つけられてな」

孤児院に運び込まれて、治療の為に大きな街の医者の所まで連れて行ってくれたそう。

「怪我が治るまで…いや、治っても俺は孤児院に残っていた。奥さんが子供を産んでな、人手が足りなかったんだ」

ザクスさんは孤児院の子供達の世話から森に入って狩りをして食料の確保もしていたそう。

「俺が孤児院に保護されて1年が過ぎた頃、奴らがやって来た」

山で狩りをしていたザクスさんはクルエナールの兵士達が国境を越えて山を降りて来ているのを見つける。
慌てて村に戻りその事を夫妻に伝えると、夫妻は村長達にその事を知らせ警戒態勢がとられた。

「夫妻は俺を含めた子供達は分散して森や山、隠し部屋に隠れさせた。もしもの時は俺も戦うと言ったのだが、奥さんに赤ん坊を手渡され『この子を守って』と頼まれた」

ザクスさんは赤ん坊を抱いた状態で井戸の狭い横穴に隠された。

薄暗い井戸の中で耳を澄ましていると話し声が聞こえ、それがやがて悲鳴に変わり、殺された村人幾人かが井戸に投げ込まれた。

声を上げそうになるのを必死に抑え、赤ん坊が泣き出さない様にあやし続けた。

悲鳴は男女問わず、子供の声も聞こえた。

「孤児院の子供達は俺達以外全員見つかって殺された」
「…でも、見てないでしょ?」
「声を聞けば分かる。全員の声くらい聞き分けられる…声の聞こえなかった子供達は山の中で死んでいた」

俯いたまま表情無くニールさんに答える。

「クルエナール兵に扮した賊の可能性は?」
「あるかもしれねえな。賊がクルエナール兵になったのかその逆か…しかし俺は話を聞いちまったんだ」

ゴードンさんに聞かれて答えたのは信じられない会話の内容だった。

『ちゃんと皆殺しにしたか?』
『気に入っても必ず殺せ』
『出来るだけ惨たらしく、獣人どもの仕業に見えるように、徹底的にやれ』
『金品は持っていけ。俺の分もあとで寄越せよ』
『この村を発端にして我が国は更なる発展を迎える』

井戸のそばで指示を出していたのは部隊長なのだろう。よく響く低い声だった。

かなりの時間が経って、ザクスさんが井戸から出ると日は暮れていて村の全ての建物が炎に包まれていた。

兵士達は灯りと戦利品を手に山に帰って行く所だった。

燃え盛る家の中には村人が幾人も無造作に放り込まれて焼かれていた。

広場にも沢山の亡骸があった。
殺すだけならここまでしなくても良いだろうに、何度も執拗に斬りつけ、突き刺した跡があった。

ザクスさんは子供達を探した。もしかしたら生き残った子供がいるかも知れない。隠れ場所を一つずつ見て回る。
見つけられたのは無惨な遺体だけだった。

「クルエナールの者じゃないと思いますかね?」

ザクスさんの問いかけに3人の騎士さん達は何も答えない。
顔を曇らせ、暗い面持ちで俯き、天を仰ぐ。3人はそれぞれ違った仕草をしていたけど、ザクスさんの話にショックを受けていた様だった。

「その時の赤ん坊はどうしたのですか?」
「程なく戦争になって、そのドサクサで俺達はクルエナール連邦に入り込んだ。夫妻に託された子を守ろうと思う気持ちと、村を襲った奴らに復讐してやるという思いを抱えたまま彷徨っていた所を人の良い農家の人に保護された。その子を育てる事は俺には出来ない。生活費は必ず届けるからと言って養育を頼んだ」

獣人族の赤ん坊なんてと拒絶する事はなく、お金は良いからと言って快く引き取ってくれた。

「戦争が終わってすぐにあの法律が作られて、俺が会いに行った時には兵士に取り上げられてしまった後だった。でも、見つける事は出来た。随分と時間が掛かっちまったがな」

そう言ってルルさんを見るザクスさん。

ルルさんがその時の子だったんだ…。
しおりを挟む
感想 1,520

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!! もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ! ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。 まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。