30 / 44
27.王子を陥れたのは誰か(1)
しおりを挟む翌日、リズベットは不安な気持ちを抱えたまま、レオナルドの迎えを待っていた。
昨日グレイが消えてから、いくら彼を呼んでも出てこないのだ。そんな事はこれまでに何度もあったのだが、最後に見た彼の様子が気がかりだった。近くにいないだけなら良いのだが、何か嫌なことが起こりそうな気がしてならない。
レオナルドからの手紙を受け取った時は、早く彼に気持ちを伝えたいと切望していたのに、今はとてもそんな気にはなれなかった。
そして夕方、王家の紋章を掲げた馬車が、ナイトレイ子爵家に到着した。
中から降りてきてたのは、レオナルド本人だ。彼の姿を見た途端、抱えていた不安が少しずつ和らいでいく。
(思ったよりお元気そうで良かった)
レオナルドは少し疲れている様子だが、顔色は決して悪くなく、クマもない。どうやら不眠症は再発していないようだ。王城でもしっかりと休めていそうで、リズベットは安堵する。
「お久しぶりでございます、レオ様」
リズベットが微笑みかけると、レオナルドも顔を綻ばせた。青の瞳が、愛おしげに見つめてくる。
「リズ、会いたかった。急ですまない。詳しい話は馬車の中でさせてくれ」
「わかりました」
そうして二人は馬車に乗り込み、王城へと向かった。
馬車が走り出してすぐに、レオナルドは真剣な表情でこう告げてくる。
「期待させてしまってすまないんだが、まだ全てが解決したわけじゃないんだ」
「そう……なのですか」
リズベットはあからさまに落胆してしまった。てっきりもう命を狙われることもないと期待していたばかりに、その落差が大きい。
しかし、レオナルドに任せきりだったのに落ち込んだ態度を見せては失礼だと思い、リズベットはすぐに気持ちを切り替えた。
「では、私を迎えに来られたのはなぜですか? 私が以前手紙でお送りした、魔力暴走を引き起こす薬について、でしょうか」
急に呼ばれた理由として思い当たるのは、それくらいしかなかった。するとどうやら当たりだったようで、レオナルドが軽く頷く。
「そんなところだ。これから王城に戻り、俺に薬を飲ませた人物に話を聞くことになっている。君には、その場に同席してもらいたい」
「え!?」
相手はアールリオン公爵だろうか。それともミケル殿下だろうか。はたまた全く別の人物だろうか。全く予想はつかないが、行ってみればわかるだろう。
しかし、犯人が特定できたのは大変喜ばしいことなのだが、自分がその場にいて何か役に立てるとは思えない。
「私は、何をすれば……」
「何かおかしいと思ったことがあれば、ぜひ意見して欲しい」
「わ、わかりました」
つまり、相手が罪から逃れようと嘘をついたり、誤魔化そうとしたりしたら指摘して欲しい、ということだろう。思ったより責任重大だ。
リズベットが緊張していると、レオナルドが神妙な面持ちで尋ねてきた。
「そう言えば、君の護衛はどうしてる?」
「グレイですか? それが、昨日から姿が見当たらなくて……」
「そうか」
そう答える彼の顔がわずかに陰ったのを見て、リズベットは思わず前のめりになって尋ねた。
「何かご存知なのですか!?」
突然大声を上げたリズベットに、レオナルドは驚いた様子で目を丸くした。そして、すぐに視線を逸らして目を伏せる。
「いや。申し訳ないが、何も知らないんだ」
「……そうですか。こちらこそ、急に大声を上げたりして、申し訳ありませんでした」
その後、不安と緊張を抱いたまま、馬車は王城へと到着した。その頃には、既に日が沈みかけているところだった。
リズベットはレオナルドに連れられ、王城のとある一室へと招かれる。
「待たせたな」
レオナルドがそう言って部屋に入ると、そこには既に一人の青年がソファに腰掛けていた。
「いいよ、兄さん。でもまさか、リズベット嬢までいるとは思わなかったな」
にこりと微笑みかけてきたその青年は、第二王子であり現王太子のミケルだった。
(犯人はミケル殿下……!)
この場にいるということは、そういうことだ。
リズベットは動揺しつつも、丁寧に一礼して挨拶を交わすと、レオナルドに促され彼の隣に腰掛けた。
「で、話って何? あ、もしかして結婚の報告とか?」
ミケルは微笑みをたたえながら、茶化すようにそう言った。しかし、レオナルドの次の一言で、その笑顔が凍りつく。
「俺に薬を盛ったのはお前だな?」
「……何の話?」
いきなり本題に入り、空気が重く張り詰める。リズベットの心臓は緊張のあまり激しく脈打っていた。
すると、レオナルドが一枚の紙を取り出してテーブルの上に置いた。これは、リズベットが彼に送った手紙のうちの一枚だ。そこには、薬になる材料の名前がずらりと並んでいる。
「これらの材料を調合すれば、人為的に魔力暴走を引き起こす薬を作ることが可能だ。リズベットがそれを証明した」
「へえ、すごいね。で、その薬を僕が兄さんに盛って、魔力暴走を起こさせたって? 証拠は?」
ミケルは笑顔のままだが、目が笑っていない。リズベットはミケルの言動に注意を向けつつ、二人の会話をハラハラしながら見守った。
「薬の材料は、全てアールリオン製薬でしか取り扱いがないものだ。材料の購入履歴を調べたが、全ての材料を買い揃えている人物は確認できなかった。つまり、薬を開発したのはアールリオン製薬自体だと考えられる」
アールリオン製薬が自社で取り扱う材料を使って薬を作ったなら、購入履歴に記録が残るはずもない。消去法で考えて、薬の開発者は断定していいだろう。
「そして、大戦終結の少し前、お前の部下がアールリオン製薬の者と取引した際の契約書が残っている」
レオナルドはそう言いながら、テーブルの上にその契約書を広げた。そこには各々の署名と、取引日や取引きした商品名、免責事項などが書かれている。
「アールリオン製薬を問い詰めたところ、確かにお前に魔力暴走を引き起こす薬を売ったと言っていた」
契約書と証言があるなら、言い逃れは難しそうだ。ここからミケルがどう反論してくるか。
リズベットが注目していると、ミケルはにこりと笑って口を開いた。今度はしっかり目も笑っている。
「とうとうバレちゃったか。そうだよ。僕が部下に指示して兄さんに薬を盛り、魔力暴走を起こさせたんだ。王位が欲しくてさ。兄さんには消えてもらおうと思って」
29
あなたにおすすめの小説
「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。
絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。
「お前との婚約は破棄だ」
ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!?
※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日20時に一話投稿となります。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる