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3章 皇宮 編
裏通りの救世主
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皇宮を出ることを決めた私。
それには閣下が言っていた新しい護衛を、何としてでも阻止しなければいけない。
護衛と言う名の監視下に置かれたら、逃げられなくなる。
私はジェイデン卿に手紙を書いて、ネスに届けてもらった。
『近々、公爵家から新しい護衛の申請がディアナ宮の執事宛てに届くはずです。それが必ず却下されるように、内々に手回ししておいていただけませんか。私は新しい護衛など望んでおりませんので』
これで数日の時間は稼げる。
その間に、手持ちの宝石を換金したり、当面過ごす場所を確保するために、下見をしに行かなければ。
ジェイデン卿から快諾の返事を貰って戻ってきたネスに、私は街に出る支度を頼んだ。
◆ ◆ ◆
グランデオ商会に着くと、ローブを羽織った私は、ネスには馬車で待つようにと言った。
「えっ? 今日は公女様、お一人で行かれるんですか?」
「ええ。実は今日、私がタルシオさんに頼みたいものは、誰にも秘密で用意したいものなの。ある人に、サプライズで贈りたいものなのよ」
「えー、だったら、私がいても問題ないと思いますが……」
「誰に贈るかも、知られたくないのよ。何となく、私が恥ずかしいの。ネスは勘がいいから、きっとわかってしまうと思うから……」
「うーん……もしかして、皇太子殿下に、ですか?」
「あー、……うん、どうかな……」
我ながら苦しい言い訳に思う。
ネスは絶対に納得していなかったけれど、渋々ながら承知してくれた。
「まあ、ここに公女様に何かしようという奴はいないでしょうから……。お一人では心配ではありますが、言う通りお待ちしています」
「ありがとう。今日は少し長くかかるかもしれないわ。いろいろ相談して、じっくり選びたいから」
「……それならなおのこと、私がいたほうがいいと思うんですけれどね。きっと役に立つアドバイス、できる自信があるんですけど!」
「いや、そうかもしれないけれど、今回は私が一人で選んだ、っていう事実が大事かな、って思っているのよ。ごめんね……。待つのが退屈になったら、近くでお茶でもしてきていいのよ」
「はい……」
不満そうなネスを馬車に残して、私はグランデオ商会の門をくぐった。
「公女様、いらっしゃいませ。どうされました? 本日はあいにく、タルシオ会頭は商談のため不在にしておりますが……。応接室でお待ちになりますか? 急を要するご用件でしたら、会頭に至急戻るよう、使いを出しますが……」
エントランスで出迎えてくれた執事が、申し訳なさそうに言った。
「いえ、タルシオさんに会いに来たわけじゃないの。悪いんだけど、何も言わず、このまま私を裏口に案内してもらえませんか?」
そう言うと老練の執事は、「こちらへ」と手慣れた様子で私を裏口へと案内してくれた。
グランデオ商会ほど規模大きく、手広く商売する商会となれば、さまざまな事情を持つ相手と取引することも日常茶飯事だ。この執事にとって、こういうことはさほどの珍事ではないのだろう。
「助かるわ。それで……表の通りに停めた馬車で、私のメイドが待っているの。もしかしたら、私の様子を聞きにやって来るかもしれないけど、そうしたら適当に言っておいていただけませんか?」
「はい、公女様。ご心配なく」
◆ ◆ ◆
人目に付きにくい裏通りの店で、手持ちの宝石類を換金できた私は、店を出た途端、背中に視線を感じた。
前にも来たことのある店だからと、大して心配もせずにいたが、その時と比べて今は格段に人通りが少ない。道端に所在なく座り込んでいる人の数も、以前より多い気がしていた。
いくらローブで身元を隠しているとはいっても、女一人であることは明白だ。
しかもそれが宝石店から出てきたというのなら、購入した宝石か、あるいは宝石を換金した金貨か、最低でも銅貨を持っていると思われても仕方がない。
後をつけられている――。
男が二人、というところか。
背中に全神経を集中させる思いで、その気配を捉え続ける。
早く表通りに出よう。二人なら、表通りの人込みに紛れ込めば、何とか巻ける――。
あの角を曲がれば、表通りまであと少し。
もうすぐを角を曲がれる――というところで、私は誰かに腕を強く引っ張られた。
「――っ!」
手で口をふさがれて言葉にならない。
耳元で声がした。
「黙れ!」
覚えのある声に、えっ? と思って顔を見た。
(セレス!)
それには閣下が言っていた新しい護衛を、何としてでも阻止しなければいけない。
護衛と言う名の監視下に置かれたら、逃げられなくなる。
私はジェイデン卿に手紙を書いて、ネスに届けてもらった。
『近々、公爵家から新しい護衛の申請がディアナ宮の執事宛てに届くはずです。それが必ず却下されるように、内々に手回ししておいていただけませんか。私は新しい護衛など望んでおりませんので』
これで数日の時間は稼げる。
その間に、手持ちの宝石を換金したり、当面過ごす場所を確保するために、下見をしに行かなければ。
ジェイデン卿から快諾の返事を貰って戻ってきたネスに、私は街に出る支度を頼んだ。
◆ ◆ ◆
グランデオ商会に着くと、ローブを羽織った私は、ネスには馬車で待つようにと言った。
「えっ? 今日は公女様、お一人で行かれるんですか?」
「ええ。実は今日、私がタルシオさんに頼みたいものは、誰にも秘密で用意したいものなの。ある人に、サプライズで贈りたいものなのよ」
「えー、だったら、私がいても問題ないと思いますが……」
「誰に贈るかも、知られたくないのよ。何となく、私が恥ずかしいの。ネスは勘がいいから、きっとわかってしまうと思うから……」
「うーん……もしかして、皇太子殿下に、ですか?」
「あー、……うん、どうかな……」
我ながら苦しい言い訳に思う。
ネスは絶対に納得していなかったけれど、渋々ながら承知してくれた。
「まあ、ここに公女様に何かしようという奴はいないでしょうから……。お一人では心配ではありますが、言う通りお待ちしています」
「ありがとう。今日は少し長くかかるかもしれないわ。いろいろ相談して、じっくり選びたいから」
「……それならなおのこと、私がいたほうがいいと思うんですけれどね。きっと役に立つアドバイス、できる自信があるんですけど!」
「いや、そうかもしれないけれど、今回は私が一人で選んだ、っていう事実が大事かな、って思っているのよ。ごめんね……。待つのが退屈になったら、近くでお茶でもしてきていいのよ」
「はい……」
不満そうなネスを馬車に残して、私はグランデオ商会の門をくぐった。
「公女様、いらっしゃいませ。どうされました? 本日はあいにく、タルシオ会頭は商談のため不在にしておりますが……。応接室でお待ちになりますか? 急を要するご用件でしたら、会頭に至急戻るよう、使いを出しますが……」
エントランスで出迎えてくれた執事が、申し訳なさそうに言った。
「いえ、タルシオさんに会いに来たわけじゃないの。悪いんだけど、何も言わず、このまま私を裏口に案内してもらえませんか?」
そう言うと老練の執事は、「こちらへ」と手慣れた様子で私を裏口へと案内してくれた。
グランデオ商会ほど規模大きく、手広く商売する商会となれば、さまざまな事情を持つ相手と取引することも日常茶飯事だ。この執事にとって、こういうことはさほどの珍事ではないのだろう。
「助かるわ。それで……表の通りに停めた馬車で、私のメイドが待っているの。もしかしたら、私の様子を聞きにやって来るかもしれないけど、そうしたら適当に言っておいていただけませんか?」
「はい、公女様。ご心配なく」
◆ ◆ ◆
人目に付きにくい裏通りの店で、手持ちの宝石類を換金できた私は、店を出た途端、背中に視線を感じた。
前にも来たことのある店だからと、大して心配もせずにいたが、その時と比べて今は格段に人通りが少ない。道端に所在なく座り込んでいる人の数も、以前より多い気がしていた。
いくらローブで身元を隠しているとはいっても、女一人であることは明白だ。
しかもそれが宝石店から出てきたというのなら、購入した宝石か、あるいは宝石を換金した金貨か、最低でも銅貨を持っていると思われても仕方がない。
後をつけられている――。
男が二人、というところか。
背中に全神経を集中させる思いで、その気配を捉え続ける。
早く表通りに出よう。二人なら、表通りの人込みに紛れ込めば、何とか巻ける――。
あの角を曲がれば、表通りまであと少し。
もうすぐを角を曲がれる――というところで、私は誰かに腕を強く引っ張られた。
「――っ!」
手で口をふさがれて言葉にならない。
耳元で声がした。
「黙れ!」
覚えのある声に、えっ? と思って顔を見た。
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