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2.1/fで揺らぐ心
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停学三日目の朝。鬱々な足取りで病院へと向かう。大きな白い巨塔の前に立つと自動ドアが開き、病院特有の何とも言えない、心が苦しくなるような臭いに包まれる。静かな病院にコツコツと僕の足音だけが響き渡る。やれやれ、来てしまった。“303”と振られた白いドアの前で奴に何と言おうか、稚拙で空虚な言葉を紡いでいた。
コンコン。息を吸ってゆっくり吐き出した後に、あまり力の入らない腕で弱々しいノックをする。
「美島です、鷹野君、貴方に”どうしても”謝りたくて、押しかけて来てしまいました」
嫌味ったらしく思っても無い言葉を吐き出す。すると向こう側から、
「美島君!来てくれたんだー、おいでおいで」
と、いつもと相変わらない声が飛んできた。ちっ、のうのうとしていてうざったい。大体お前なんかと仲良くなった覚えはないんだが。モヤが増幅していく息づかいを感じながら病室へと入っていく。無機質な、壁も床も真っ白な病室。その隅に置かれたベッドには額と頬に大きな青痣を持ち、包帯を所々巻きながらもそれを感じさせない、屈託のない笑顔を浮かべる鷹野が横たわっていた。
「わあ、酷い怪我…」
眉ひとつも動かさずロボットのように僕は呟く。
「まるで他人事みたいに言うんだねぇ笑もう、結構痛かったんだぞー?」
またこの目だ。これは嘘をつく目だ、偽善の目だ。やめてくれ、赦さないで。怒ってくれ。調子が狂う。
「先日は貴方を傷つけてしまい本当にすみません。貴方に当てるつもり“では”なかったのですが」
目が合わないよう喉仏を見つめながらやっかみらしい言葉を紡ぎ続ける。
「気にしないで、…それにあんな事されたら怒るのもしょうがないよね」
伏し目がちにぽつりと奴がそう言った。明らかに反省する気の無い僕の言葉に何も感じないのか平然と返事をしてくる。…っていうかこいつ、僕達のこと見てたんだ。僕を気遣う、思いもしなかった言葉にちょっとだけ、ほんの僅かだけ、心揺さぶられた気がした。
「今日はありがとね、忙しいところ来てくれてありがとう」
鷹野は再び調子を戻し朗らかに言う。
「いえ、じゃあ…また」
相手のペースに呑まれそうなので足早に帰ろうと背を向ける。
「あっ、ちょっとまって!」
慌てて呼び止められ、振り返る。
「良かったら学校で会っても仲良くして欲しいな」
少し哀しげな目で彼は呟いた。カーテンが風で揺れ優しい光が鷹野の横顔を照らす。そんな風に言われてしまっては断るのはばつが悪い。
「別にいいけど…」
僕と仲良くしたいだなんて何か魂胆があるのではないか、怪訝な目で見てしまう。そんな僕の想いとは相反して彼はパッと顔を明るくし、喜んでいたようだった。
抱いていたイメージとは違った。己の存在価値を高めたいが為にいい格好してるのかと思っていた。こんな、忌み嫌われる存在の僕と仲良くしたいだなんて…僕の脳内にはあの言葉と、暖かい光に照らされながら笑う鷹野の顔が灼き付いて離れなかった。
コンコン。息を吸ってゆっくり吐き出した後に、あまり力の入らない腕で弱々しいノックをする。
「美島です、鷹野君、貴方に”どうしても”謝りたくて、押しかけて来てしまいました」
嫌味ったらしく思っても無い言葉を吐き出す。すると向こう側から、
「美島君!来てくれたんだー、おいでおいで」
と、いつもと相変わらない声が飛んできた。ちっ、のうのうとしていてうざったい。大体お前なんかと仲良くなった覚えはないんだが。モヤが増幅していく息づかいを感じながら病室へと入っていく。無機質な、壁も床も真っ白な病室。その隅に置かれたベッドには額と頬に大きな青痣を持ち、包帯を所々巻きながらもそれを感じさせない、屈託のない笑顔を浮かべる鷹野が横たわっていた。
「わあ、酷い怪我…」
眉ひとつも動かさずロボットのように僕は呟く。
「まるで他人事みたいに言うんだねぇ笑もう、結構痛かったんだぞー?」
またこの目だ。これは嘘をつく目だ、偽善の目だ。やめてくれ、赦さないで。怒ってくれ。調子が狂う。
「先日は貴方を傷つけてしまい本当にすみません。貴方に当てるつもり“では”なかったのですが」
目が合わないよう喉仏を見つめながらやっかみらしい言葉を紡ぎ続ける。
「気にしないで、…それにあんな事されたら怒るのもしょうがないよね」
伏し目がちにぽつりと奴がそう言った。明らかに反省する気の無い僕の言葉に何も感じないのか平然と返事をしてくる。…っていうかこいつ、僕達のこと見てたんだ。僕を気遣う、思いもしなかった言葉にちょっとだけ、ほんの僅かだけ、心揺さぶられた気がした。
「今日はありがとね、忙しいところ来てくれてありがとう」
鷹野は再び調子を戻し朗らかに言う。
「いえ、じゃあ…また」
相手のペースに呑まれそうなので足早に帰ろうと背を向ける。
「あっ、ちょっとまって!」
慌てて呼び止められ、振り返る。
「良かったら学校で会っても仲良くして欲しいな」
少し哀しげな目で彼は呟いた。カーテンが風で揺れ優しい光が鷹野の横顔を照らす。そんな風に言われてしまっては断るのはばつが悪い。
「別にいいけど…」
僕と仲良くしたいだなんて何か魂胆があるのではないか、怪訝な目で見てしまう。そんな僕の想いとは相反して彼はパッと顔を明るくし、喜んでいたようだった。
抱いていたイメージとは違った。己の存在価値を高めたいが為にいい格好してるのかと思っていた。こんな、忌み嫌われる存在の僕と仲良くしたいだなんて…僕の脳内にはあの言葉と、暖かい光に照らされながら笑う鷹野の顔が灼き付いて離れなかった。
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