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1,怪伐隊入隊編
1-5「予言の少年」
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五重の塔の様な和風建築に到着した桃眞と慎之介。
どうやらこの建物が男子寮のようだ。
回廊の左側の廊下から約五分程との事らしい……。春平とナリナリとの一件が無ければの話だ。
「取り敢えずそこの欄干にイヌヒコを結んでおけ」
桃眞は慎之介に言われ、塔の周りを囲む回廊の欄干にイヌヒコのリード紐を結ぶと、慎之介の後に続き、入口の暖簾を潜った。
一階に入ると、外から見た建物の直径より遥かに広い空間が広がっていた。
円形の建物で、屋根までは吹き抜け。
壁に沿って螺旋階段が伸びている。
そして、丁度、桃眞達がやって来た時、一階の中央から白く光る魔法陣が、吹き抜けを上昇していた。
太極図を現したそのサークルをよく見ると、狩衣を纏った生徒が乗っている。
「慎之介、あれって、何だ? エレベーター的なヤツ?」
「そうだな」
そう言うと、慎之介は真っ直ぐ螺旋階段に向かう。
桃眞が興味津々な様子で、「なぁなぁ、俺もアレ乗ってみたい」と慎之介に訊ねるが、「俺達一年生の寮は二階だ。アレは主に上級生が使っている」と答える。
「えぇー。マジかぁ。面白そうだなぁ」と悔しがると、「あと一年我慢するんだな」と慎之介は無表情で答え、上を目指す。
螺旋階段で二階に到着すると、そこから吹き抜けを囲む様に円形の廊下が続き、外壁側に四つの格子扉が等間隔に設置されていた。
そのぞれの扉の上に『漏刻学科寮』『天文学科寮』『妖文学科寮』『呪術学科寮』と記されている。
慎之介は、呪術学科寮の格子扉を開けると、「さぁ、入れ」と桃眞に中に入るよう促した。
入ると、そこにはまた廊下が続き、左右に障子張りの部屋が連なっている。
「ここが俺達、呪術学科の寮だ。部屋は四人部屋だ。お前の部屋はー」と言い、慎之介は各部屋を開けてゆく。
その時、桃眞が一室の障子戸を開け、「あ、これ俺が買った服だ」と言うと、「マジかよッ!? 俺と同じ部屋か?」と言い、慎之介が不満げな表情で駆け寄った。
中に入る桃眞。
畳の部屋から見えるマウンテンビューが美しい。
上層階からだともっと良い眺めだろう。
部屋の四隅に勉強机と一体型のベッドが置かれている。梯子を登るタイプだ。
そして、ベッドの横にはそれぞれの寮生が私物を入れる大きな和箪笥が設置されていた。
その部屋の中心に、狩衣屋で買った木箱が積まれている。
お店のお届けサービスだ。
確かにこれだけのモノを持ち運ぶのは一人では不可能だろう。
桃眞と同じ部屋だと知り、額を手で抑えた慎之介が「うわ。最悪だ」と項垂れる。
「何が最悪なんだよ。良かったじゃん。同じ部屋で」
「勘弁してくれよ。俺は静かに生活したいんだ。お前みたいな煩そうなのはマジで勘弁して欲しいぜ」
「とにかく、寮までは案内したからな。俺は授業に行く。浩美さんが来るまで大人しくそこで待ってろ」
そう言うと、慎之介は自分の勉強机から、和柄のクラッチバッグ掴み、脇に挟むと部屋を出て行った。
とある和室で正座をする皇。
その向かい側に白髪の老人が座っていた。
黒に金の刺繍が入った狩衣を纏い、烏帽子を被る。
その老人を皇は『陰陽頭』と呼んだ。
温厚と厳格が一つになったような人相をしている。
陰陽頭とは、外界の学校で言う『校長先生』との事だ。
陰陽寮の中で一番偉い存在である。
「只今、鬼束 桃眞を寮内に迎え入れました」
「ご苦労」
優しくも低い声が聞こえた。
「して皇よ。相変わらずの笑みを浮かべておるが、ワシには、どこか興奮気味に見えるぞ」
「流石でございます」
「で、何かあったのか?」
「鬼束 桃眞ですが……『鬼麟の筆』に選ばれました」
「何とッ!?」
皇の報告に、目を見開き驚く陰陽頭。
「あの筆が動いたと言うのか……」
「それ程までに、あの筆は曰くつきなのでしょうか?」
「まぁ、良い兆しでもあり、悪い兆しでもある。この世のバランスが変わるとも言い伝えられておる」
陰陽頭はそう言うと、胸の前で腕を組んだ。
「やはり、あの占いは正しかったと言う事になりましょうか」
「そう考える方が妥当かも知れんな」
深く鼻から息を吐いた陰陽頭は、一週間前の出来事の記憶を頭に思い浮かべた。
皇も、懐から取り出した、生地に包まれたガラスの破片を見ながら思いを馳せる。
それは、天文学の授業中の事だった。
星の動きを測定する機材を使用し、占星術を行った生徒数人が"ある占い結果"を導き出し、一時、陰陽寮が騒然となった。
――『間もなく、この世の終わりが始まる』そして『この世の護り人が現れるだろう』
護り人の登場よりも、『この世の終わり』と言う占い結果が瞬く間に広がり、生徒達が怯え始めたのだ。
陰陽頭や各先生達により、『"たまたま間違った結果"である』と事を鎮めたのだが、後ほど、教師達が占星術を行うとやはり同じ結果が示された。
そして、皇はあの夜、桃眞と出会った。
普通では無いその法力の大きさと、何よりも黒い鬼の復活……。
桃眞の自室にて、木っ端微塵となっていたガラスの小物入れを見ながら、皇は心の中で妙な胸騒ぎを覚えた。
桃眞が本当に予言されていた存在かを確かめる為、また、彼がその大きな法力によって危険な目に遭わぬよう、力を磨かせる為に陰陽寮への転入許可を、陰陽頭に頼み込んだのだ。
だが、内心、皇はまだ半信半疑だった。
そう、紙爺の店で筆を買うまでは……。
それらが確信へと変わったのは言うまでもなく、鬼麟の筆を手にとった桃眞を見た瞬間だった。
――鬼束 桃眞こそ、この世の護り人なのだと。
どうやらこの建物が男子寮のようだ。
回廊の左側の廊下から約五分程との事らしい……。春平とナリナリとの一件が無ければの話だ。
「取り敢えずそこの欄干にイヌヒコを結んでおけ」
桃眞は慎之介に言われ、塔の周りを囲む回廊の欄干にイヌヒコのリード紐を結ぶと、慎之介の後に続き、入口の暖簾を潜った。
一階に入ると、外から見た建物の直径より遥かに広い空間が広がっていた。
円形の建物で、屋根までは吹き抜け。
壁に沿って螺旋階段が伸びている。
そして、丁度、桃眞達がやって来た時、一階の中央から白く光る魔法陣が、吹き抜けを上昇していた。
太極図を現したそのサークルをよく見ると、狩衣を纏った生徒が乗っている。
「慎之介、あれって、何だ? エレベーター的なヤツ?」
「そうだな」
そう言うと、慎之介は真っ直ぐ螺旋階段に向かう。
桃眞が興味津々な様子で、「なぁなぁ、俺もアレ乗ってみたい」と慎之介に訊ねるが、「俺達一年生の寮は二階だ。アレは主に上級生が使っている」と答える。
「えぇー。マジかぁ。面白そうだなぁ」と悔しがると、「あと一年我慢するんだな」と慎之介は無表情で答え、上を目指す。
螺旋階段で二階に到着すると、そこから吹き抜けを囲む様に円形の廊下が続き、外壁側に四つの格子扉が等間隔に設置されていた。
そのぞれの扉の上に『漏刻学科寮』『天文学科寮』『妖文学科寮』『呪術学科寮』と記されている。
慎之介は、呪術学科寮の格子扉を開けると、「さぁ、入れ」と桃眞に中に入るよう促した。
入ると、そこにはまた廊下が続き、左右に障子張りの部屋が連なっている。
「ここが俺達、呪術学科の寮だ。部屋は四人部屋だ。お前の部屋はー」と言い、慎之介は各部屋を開けてゆく。
その時、桃眞が一室の障子戸を開け、「あ、これ俺が買った服だ」と言うと、「マジかよッ!? 俺と同じ部屋か?」と言い、慎之介が不満げな表情で駆け寄った。
中に入る桃眞。
畳の部屋から見えるマウンテンビューが美しい。
上層階からだともっと良い眺めだろう。
部屋の四隅に勉強机と一体型のベッドが置かれている。梯子を登るタイプだ。
そして、ベッドの横にはそれぞれの寮生が私物を入れる大きな和箪笥が設置されていた。
その部屋の中心に、狩衣屋で買った木箱が積まれている。
お店のお届けサービスだ。
確かにこれだけのモノを持ち運ぶのは一人では不可能だろう。
桃眞と同じ部屋だと知り、額を手で抑えた慎之介が「うわ。最悪だ」と項垂れる。
「何が最悪なんだよ。良かったじゃん。同じ部屋で」
「勘弁してくれよ。俺は静かに生活したいんだ。お前みたいな煩そうなのはマジで勘弁して欲しいぜ」
「とにかく、寮までは案内したからな。俺は授業に行く。浩美さんが来るまで大人しくそこで待ってろ」
そう言うと、慎之介は自分の勉強机から、和柄のクラッチバッグ掴み、脇に挟むと部屋を出て行った。
とある和室で正座をする皇。
その向かい側に白髪の老人が座っていた。
黒に金の刺繍が入った狩衣を纏い、烏帽子を被る。
その老人を皇は『陰陽頭』と呼んだ。
温厚と厳格が一つになったような人相をしている。
陰陽頭とは、外界の学校で言う『校長先生』との事だ。
陰陽寮の中で一番偉い存在である。
「只今、鬼束 桃眞を寮内に迎え入れました」
「ご苦労」
優しくも低い声が聞こえた。
「して皇よ。相変わらずの笑みを浮かべておるが、ワシには、どこか興奮気味に見えるぞ」
「流石でございます」
「で、何かあったのか?」
「鬼束 桃眞ですが……『鬼麟の筆』に選ばれました」
「何とッ!?」
皇の報告に、目を見開き驚く陰陽頭。
「あの筆が動いたと言うのか……」
「それ程までに、あの筆は曰くつきなのでしょうか?」
「まぁ、良い兆しでもあり、悪い兆しでもある。この世のバランスが変わるとも言い伝えられておる」
陰陽頭はそう言うと、胸の前で腕を組んだ。
「やはり、あの占いは正しかったと言う事になりましょうか」
「そう考える方が妥当かも知れんな」
深く鼻から息を吐いた陰陽頭は、一週間前の出来事の記憶を頭に思い浮かべた。
皇も、懐から取り出した、生地に包まれたガラスの破片を見ながら思いを馳せる。
それは、天文学の授業中の事だった。
星の動きを測定する機材を使用し、占星術を行った生徒数人が"ある占い結果"を導き出し、一時、陰陽寮が騒然となった。
――『間もなく、この世の終わりが始まる』そして『この世の護り人が現れるだろう』
護り人の登場よりも、『この世の終わり』と言う占い結果が瞬く間に広がり、生徒達が怯え始めたのだ。
陰陽頭や各先生達により、『"たまたま間違った結果"である』と事を鎮めたのだが、後ほど、教師達が占星術を行うとやはり同じ結果が示された。
そして、皇はあの夜、桃眞と出会った。
普通では無いその法力の大きさと、何よりも黒い鬼の復活……。
桃眞の自室にて、木っ端微塵となっていたガラスの小物入れを見ながら、皇は心の中で妙な胸騒ぎを覚えた。
桃眞が本当に予言されていた存在かを確かめる為、また、彼がその大きな法力によって危険な目に遭わぬよう、力を磨かせる為に陰陽寮への転入許可を、陰陽頭に頼み込んだのだ。
だが、内心、皇はまだ半信半疑だった。
そう、紙爺の店で筆を買うまでは……。
それらが確信へと変わったのは言うまでもなく、鬼麟の筆を手にとった桃眞を見た瞬間だった。
――鬼束 桃眞こそ、この世の護り人なのだと。
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