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2,怪異其の壱「呪われたマッチングアプリ」
2-8「まさしの居場所を追え」
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照明が正常に点灯する中、漣季は部屋中を見渡し「また派手に暴れたな」と、ため息交じりに桃眞に言った。
「俺が暴れたワケじゃねぇよ。怨霊だよ」
「だが、お前らが束になってもこれだけの被害が発生したんだろ。情けない。それでも怪伐隊かよ」
そう言って、床に座っていた山田を見下ろすと、「まぁ。先輩がコイツなら仕方ないわな」と薄ら笑いをした。
「何が言いたい?」と桃眞が訊ねる。
「三年生にもなって未だに四課で燻っているんだ。どうせ任務をこなす事よりも、無事に卒業して就職する事しか考えていないんだろ。平和ボケしたその面が全てを物語っている」
そう言われ、山田はぐうの音も出なかった。
上位部隊の後輩にコケにされ、プライドがへし折られる。
「ごめんよ、みんなぁ。俺が情けない為に、バカにされてさ。コケにされてさぁ。ごめんなぁ」と山田が涙を浮かべる。
漣季の言っている事も一理あるが、急に現れて言われる筋合いは無い。
山田を擁護するのも腑に落ちないが、漣季の態度が気に入らず、桃眞達が反論しようとした……。
その時――。
羽織っていた狩衣を床に置いた彩音が立ち上がった。
「君、ちょっと言葉が酷くない?」と漣季に詰め寄る。
「え?」と予想外の出来事に漣季がたじろぐ。
「確かに山田君は…………どこに居たか分からないし、鬼束君達やみんなと比べてどうか? は、分からないけど。私の話に真剣に耳を傾けてくれて、親身に考えてくれたわよ。急にやってきた君に、彼と、そして彼らの何が分かるって言うのよ」
凄い剣幕で漣季にそう言うと、周りにいた参課のメンバーが割って入る。
「すみません。コイツ口の利き方が分からないモンで。おい、黒栖ッ、謝れ」
「す、すみませんでした」
シュンとなる漣季を見て、心なしか桃眞達はスカッとした気がした。
彩音の行動に感動した山田が涙と鼻水を垂れ流す。
「彩音さぁーん。俺、頑張るから。卒業したら結婚しよぉーお」
「ごめん。それは遠慮しておくわ」
「ですよねぇ~」
参課のメンバーが「じゃあ、ここは俺達が引き継ぐ。お前達は本部に帰還しろ。ただし、山田は状況説明の為にここに残れ」と指示を出す。
手柄を取られた気分で肩を落とす桃眞達が、「はぁーい」と言い、廊下に向かう中、櫻子が参課の下へ向かう。
「彩音さん一人だと心配だし、最後まで付き合わせて頂いても良いですか?」
その言葉に、参課のメンバーが顔を見合わせて頷く。
「良いだろう。山田と雉宮はここに残り、他の四課メンバーは直ぐに帰還だ」
彩音は、桃眞達の背中に向かって声を掛けた。
「鬼束君、猿田君、吉備君。ありがとう。私の事を信じてくれて、助けてくれて、本当にありがとう」と深くお辞儀をした。
振り返った桃眞達は拳を突き出し、親指を立ててグッドサインを返した。
彩音の住んでいるマンションを出ると、夕闇が空を支配し始めていた。
時計を確認すると、『18:42』だ。
「疲れたな」と慎之介が言った。
「まぁな。俺も幽霊と戦うなんて始めてだったしよ。なんか、今になって怖くなってきたよ」
「せやけど、最後に彩音さんに怒られた時の黒栖の顔よ。オモロかったでなぁ」
「たしかに」と桃眞と慎之介が声を揃えた。
慎之介が桃眞に訊ねる。
「お前、よく怨霊相手に怖がらずに立ち向かえたな。外界育ちの一般人じゃ発狂モノだけどな」
「さっきも言ったけど、そりゃ怖いけどさ。皇さんに新平安京に案内されて陰陽寮に入ってから、嫌と言うほど変なの見て来たし。だから耐性が出来ているのかもな」
そんな会話をしながら最寄りのポータルに向かっていると、慎之介のスマートウォッチに櫻子から通信が入る。
「はい。猿田だ」
――『慎之介ッ!!』
櫻子の鬼気迫る声がスピーカーから鳴り、ただ事ではない雰囲気に、桃眞達に緊張が走る。
「どうした?」
櫻子が何かを必死に訴えているが、ノイズが激しく聞き取れない。
――『…………が…………てる…………』
「すまん。ノイズが酷くて聞こえないッ」
慎之介がそう言うと、櫻子がもう一度言葉を発する。
ノイズが弱まったタイミングでその内容が聞き取れた。
――『まさしが、まだ除霊できていないの。参課が対処してるけど、カナリヤバイわ』
「何だって!?」
「参課が相手なんやろ。余裕ちゃうんかい?」と春平が訊ねる。
――『それに…………』と言い残し、櫻子との通信が切れる。
「それにって何だよ」と訊ねる桃眞に、春平が「そんなん分かるかいな」と答える。
その時、慎之介がある仮設を唱えた。
「やっぱり。俺達が戦っていたのは本体じゃない。本当のまさしがどこかに居るんだ。それを探し出して除霊しないと……」
「ほなら、参課が戦っとるんは、なんぼ除霊してもキリがない幻影っちゅー事かいな」
二人の顔を見ながら桃眞が「だけど、今から本体を探すとなると……。そもそも探せるのか?」と訊ねる。
「考えろッ……考えるんだ!!」と慎之介はコメカミを指で押さえながら、目を瞑った。
脳内であらゆる情報を整理し、まさしの痕跡を探る。
「おい、寝てるんちゃうやろな!!」と言った春平に、桃眞が人差し指を口にあてて「シーっ!!」と注意した。
慎之介が目を開いた。
「アプリの運営会社だ……」
「アプリを配信してる会社かいな」
「あぁ。そこにならマッチングアプリのサーバーがある。まさしがサーバーを介してターゲットを選び動いているとしたら、ソコに何かしらがあるはずだ」
「行ってみるか?」と桃眞が二人に声を掛ける。
「行くしかないやろがいッ!! 待っとれよ、ワシの櫻子ちゃん、今すぐに本体をイテコマしたるからなぁ!!」
幸いにも運営会社が他府県では無く、都内にある事が分かった。
そして、今いる場所から一駅の距離だ。
桃眞達が走って駅まで向かっていると、またもスマートウォッチに着信がはいる。
画面をタッチすると、猫神 玉三郎が映った。
顔が近すぎて、猫の鼻しか映っていない。
「お前ら、どこへ向かっている。座標がポータルから離れていくぞ」
そこで、桃眞達が今起きている事を猫神に伝えた。
既に、三課からも本部に連絡が入っているらしく、除霊に苦戦しているとの事だ。
その場で情報部隊がキーボードを叩く音が聞こえ、誰かが猫神に報告をする。
そしてその内容を桃眞達に伝えた。
「良いか。俺も猿田の推測の通り、怨霊はマッチングアプリの本体に憑りついていると考える。そして、情報部隊が調べたが、その本体はアプリ運営会社には無い」
「なんだって?」と桃眞が驚く。
「アプリの開発会社だ。アプリの開発データがあるのは開発会社、そこからサーバーを経由し運営会社と繋がっている」
「つまり、まさしの本体は、その開発会社にあると言う事ですね」
慎之介の問いかけに猫神が頷く。
「じゃあ、場所はどこなんや?」
――『千葉だ』
「千葉か……間に合うか……」と慎之介が脳内でルートを検索する。
猫神は手を舐めると、またもカメラに鼻を近づける。
「これから近くのポータルにお前達を誘導する。そこからなら一瞬で目的地付近まで跳べるはずだ」
「マジか!? ありがてぇ」と桃眞が言うと、猫神が口を開く。
「参課の隊員にも向かわせるが、お前達の方が時間的にも到着が早い。無茶はするな。危険と判断したらすぐに退避しろ分かったか?」
「了解!!」と声をあげた桃眞達。
「猿田。お前が指揮を取れ。鬼束と吉備は冷静な判断が乏しい」
「わかりました。最初からそのつもりです」
そう答える慎之介に対して、桃眞と春平は口を尖らせた。
「なんか、ムカつく」
案内された通り、近くの公園へとやって来た桃眞達は、比較的新しい公衆トイレへと向かった。
男子トイレに入ると、桃眞が大便器ブースに指をさす。
「奥から二つ目だな」
慎之介が、ブースの前に立ち、扉に手を当てた。
そして術を口ずさむと、扉の隙間から白い光が零れる。
そして光が収まると、慎之介はドアを開けた。
「俺が暴れたワケじゃねぇよ。怨霊だよ」
「だが、お前らが束になってもこれだけの被害が発生したんだろ。情けない。それでも怪伐隊かよ」
そう言って、床に座っていた山田を見下ろすと、「まぁ。先輩がコイツなら仕方ないわな」と薄ら笑いをした。
「何が言いたい?」と桃眞が訊ねる。
「三年生にもなって未だに四課で燻っているんだ。どうせ任務をこなす事よりも、無事に卒業して就職する事しか考えていないんだろ。平和ボケしたその面が全てを物語っている」
そう言われ、山田はぐうの音も出なかった。
上位部隊の後輩にコケにされ、プライドがへし折られる。
「ごめんよ、みんなぁ。俺が情けない為に、バカにされてさ。コケにされてさぁ。ごめんなぁ」と山田が涙を浮かべる。
漣季の言っている事も一理あるが、急に現れて言われる筋合いは無い。
山田を擁護するのも腑に落ちないが、漣季の態度が気に入らず、桃眞達が反論しようとした……。
その時――。
羽織っていた狩衣を床に置いた彩音が立ち上がった。
「君、ちょっと言葉が酷くない?」と漣季に詰め寄る。
「え?」と予想外の出来事に漣季がたじろぐ。
「確かに山田君は…………どこに居たか分からないし、鬼束君達やみんなと比べてどうか? は、分からないけど。私の話に真剣に耳を傾けてくれて、親身に考えてくれたわよ。急にやってきた君に、彼と、そして彼らの何が分かるって言うのよ」
凄い剣幕で漣季にそう言うと、周りにいた参課のメンバーが割って入る。
「すみません。コイツ口の利き方が分からないモンで。おい、黒栖ッ、謝れ」
「す、すみませんでした」
シュンとなる漣季を見て、心なしか桃眞達はスカッとした気がした。
彩音の行動に感動した山田が涙と鼻水を垂れ流す。
「彩音さぁーん。俺、頑張るから。卒業したら結婚しよぉーお」
「ごめん。それは遠慮しておくわ」
「ですよねぇ~」
参課のメンバーが「じゃあ、ここは俺達が引き継ぐ。お前達は本部に帰還しろ。ただし、山田は状況説明の為にここに残れ」と指示を出す。
手柄を取られた気分で肩を落とす桃眞達が、「はぁーい」と言い、廊下に向かう中、櫻子が参課の下へ向かう。
「彩音さん一人だと心配だし、最後まで付き合わせて頂いても良いですか?」
その言葉に、参課のメンバーが顔を見合わせて頷く。
「良いだろう。山田と雉宮はここに残り、他の四課メンバーは直ぐに帰還だ」
彩音は、桃眞達の背中に向かって声を掛けた。
「鬼束君、猿田君、吉備君。ありがとう。私の事を信じてくれて、助けてくれて、本当にありがとう」と深くお辞儀をした。
振り返った桃眞達は拳を突き出し、親指を立ててグッドサインを返した。
彩音の住んでいるマンションを出ると、夕闇が空を支配し始めていた。
時計を確認すると、『18:42』だ。
「疲れたな」と慎之介が言った。
「まぁな。俺も幽霊と戦うなんて始めてだったしよ。なんか、今になって怖くなってきたよ」
「せやけど、最後に彩音さんに怒られた時の黒栖の顔よ。オモロかったでなぁ」
「たしかに」と桃眞と慎之介が声を揃えた。
慎之介が桃眞に訊ねる。
「お前、よく怨霊相手に怖がらずに立ち向かえたな。外界育ちの一般人じゃ発狂モノだけどな」
「さっきも言ったけど、そりゃ怖いけどさ。皇さんに新平安京に案内されて陰陽寮に入ってから、嫌と言うほど変なの見て来たし。だから耐性が出来ているのかもな」
そんな会話をしながら最寄りのポータルに向かっていると、慎之介のスマートウォッチに櫻子から通信が入る。
「はい。猿田だ」
――『慎之介ッ!!』
櫻子の鬼気迫る声がスピーカーから鳴り、ただ事ではない雰囲気に、桃眞達に緊張が走る。
「どうした?」
櫻子が何かを必死に訴えているが、ノイズが激しく聞き取れない。
――『…………が…………てる…………』
「すまん。ノイズが酷くて聞こえないッ」
慎之介がそう言うと、櫻子がもう一度言葉を発する。
ノイズが弱まったタイミングでその内容が聞き取れた。
――『まさしが、まだ除霊できていないの。参課が対処してるけど、カナリヤバイわ』
「何だって!?」
「参課が相手なんやろ。余裕ちゃうんかい?」と春平が訊ねる。
――『それに…………』と言い残し、櫻子との通信が切れる。
「それにって何だよ」と訊ねる桃眞に、春平が「そんなん分かるかいな」と答える。
その時、慎之介がある仮設を唱えた。
「やっぱり。俺達が戦っていたのは本体じゃない。本当のまさしがどこかに居るんだ。それを探し出して除霊しないと……」
「ほなら、参課が戦っとるんは、なんぼ除霊してもキリがない幻影っちゅー事かいな」
二人の顔を見ながら桃眞が「だけど、今から本体を探すとなると……。そもそも探せるのか?」と訊ねる。
「考えろッ……考えるんだ!!」と慎之介はコメカミを指で押さえながら、目を瞑った。
脳内であらゆる情報を整理し、まさしの痕跡を探る。
「おい、寝てるんちゃうやろな!!」と言った春平に、桃眞が人差し指を口にあてて「シーっ!!」と注意した。
慎之介が目を開いた。
「アプリの運営会社だ……」
「アプリを配信してる会社かいな」
「あぁ。そこにならマッチングアプリのサーバーがある。まさしがサーバーを介してターゲットを選び動いているとしたら、ソコに何かしらがあるはずだ」
「行ってみるか?」と桃眞が二人に声を掛ける。
「行くしかないやろがいッ!! 待っとれよ、ワシの櫻子ちゃん、今すぐに本体をイテコマしたるからなぁ!!」
幸いにも運営会社が他府県では無く、都内にある事が分かった。
そして、今いる場所から一駅の距離だ。
桃眞達が走って駅まで向かっていると、またもスマートウォッチに着信がはいる。
画面をタッチすると、猫神 玉三郎が映った。
顔が近すぎて、猫の鼻しか映っていない。
「お前ら、どこへ向かっている。座標がポータルから離れていくぞ」
そこで、桃眞達が今起きている事を猫神に伝えた。
既に、三課からも本部に連絡が入っているらしく、除霊に苦戦しているとの事だ。
その場で情報部隊がキーボードを叩く音が聞こえ、誰かが猫神に報告をする。
そしてその内容を桃眞達に伝えた。
「良いか。俺も猿田の推測の通り、怨霊はマッチングアプリの本体に憑りついていると考える。そして、情報部隊が調べたが、その本体はアプリ運営会社には無い」
「なんだって?」と桃眞が驚く。
「アプリの開発会社だ。アプリの開発データがあるのは開発会社、そこからサーバーを経由し運営会社と繋がっている」
「つまり、まさしの本体は、その開発会社にあると言う事ですね」
慎之介の問いかけに猫神が頷く。
「じゃあ、場所はどこなんや?」
――『千葉だ』
「千葉か……間に合うか……」と慎之介が脳内でルートを検索する。
猫神は手を舐めると、またもカメラに鼻を近づける。
「これから近くのポータルにお前達を誘導する。そこからなら一瞬で目的地付近まで跳べるはずだ」
「マジか!? ありがてぇ」と桃眞が言うと、猫神が口を開く。
「参課の隊員にも向かわせるが、お前達の方が時間的にも到着が早い。無茶はするな。危険と判断したらすぐに退避しろ分かったか?」
「了解!!」と声をあげた桃眞達。
「猿田。お前が指揮を取れ。鬼束と吉備は冷静な判断が乏しい」
「わかりました。最初からそのつもりです」
そう答える慎之介に対して、桃眞と春平は口を尖らせた。
「なんか、ムカつく」
案内された通り、近くの公園へとやって来た桃眞達は、比較的新しい公衆トイレへと向かった。
男子トイレに入ると、桃眞が大便器ブースに指をさす。
「奥から二つ目だな」
慎之介が、ブースの前に立ち、扉に手を当てた。
そして術を口ずさむと、扉の隙間から白い光が零れる。
そして光が収まると、慎之介はドアを開けた。
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