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5、第一章最終怪異 平安京呪詛編
5-1「くしゃみをする猫」②
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「あの結界って?」と村雨が訊ねると、吉樹が丸い眼鏡のフレームを押し上げた。
「遥か昔に役小角が張り巡らせた超巨大な守護結界の事だよ。今で言う京都を中心に関西がすっぽりと入るくらいのね。勿論その効果は日本全域にまで影響している」
「確か学生の頃に授業で聞いたようなヤツだな」
「あらゆる鬼を寄せ付けない為の結果なんだけど、平安時代に結界が破れそうになり当時の陰陽師である加茂家の一族によって四神の力を持って修復したんだ」
「それが今になって弱ってるって事なのか」
皇が変わらぬ笑顔のまま「再び修復が必要そうですね」と言った。
如月が金色の長髪をかき上げながら口を開く。
「結界が弱まっただけで、神の力が衰え鬼の力は増したんだ。それがなくなったらどうなるのか想像はつくよね……」
「結界が消えちまったらどうなるんだ?」
村雨の問いに吉樹が答える。
「役小角の結界はただの守護結界だけじゃないと言われている」
「つまり?」
「僕も色んな文献を読んだだけでハッキリとした事は分からないんだけど。何かを封印しているみたいなんだ」
「ニャくしょんッ!!」
猫神の鼻から鼻水が垂れる。
可能性として余程考えたく無い事なのだろうか? 陣内が渋そうな表情をしながら重い口を動かした。
「……冥界と人間界の間に亀裂がある。結界はそれを塞ぐ役目があるのじゃ。のう? 猫神よ」
「そうだ。…………ニャくしょんッ!! 結界がなくなれば冥界から数多の鬼が出てくるだろう。外界やいずれは我々が住むこの世界にも魑魅魍魎が跋扈するだろうな……ニャくしょんッ!!」
その言葉を聞いて、何故か吉樹の目が輝く。
「てことはさ。僕達がまだ見た事もない鬼にも逢えるって事だよね。どんな姿形をしてるのかな? どんな力を持っているんだろうか? できる事なら解剖してみたいなぁ、肉体組織の構造とか、あ、そもそも肉体すらないのかも知れない」
「黙れ変態。テンション上がって眼鏡が曇っているぞ」
呆れた様子で罵る村雨の横で、如月が深くため息をつく。
「で、怪伐隊はこれからどうするの? 最高司令官のアンテナは弱っている。先日の応声虫の様な事がまた起これば、更に犠牲が出ないとも限らない。でしょ?」
「参課と四課は活動休止やてッ!! なんでやねん!!」
春平の怒りと困惑の声が食堂に響いた。
「そんな事私に言われても。聞いた事を伝えただけよ」と向かいの席に座る櫻子がパンケーキを口に運ぶ。
「ワシらやっとこさ怪伐隊に入って、んでようやく本格的に活動もできるようになったんやで。そら……漣季の兄貴の事とか、ガリ勉眼鏡の脚の事もあるけどもやな」
次第に語気が弱まる春平の中で、蒼季と慎之介の姿が浮かんだ。
生半可な力では予想外の事態には対応できず、結果犠牲だけが増える。
自分が奮起したところで、全てを守り通せるだけの自信などない。
そして、気がかりなのは昨日に陰陽寮を去った桃眞の事だ。
「てか、さっきから私の真正面に座らないでくれるかな」
「なんでやねん」
「アンタの顔、圧迫感が凄いのよ。圧がさ」
「それだけ熱い男って事やろが。それにワシの気持ちは常に一途に櫻子ちゃんだけやねんで」
そう言うと、春平が顔を赤らめながら櫻子の左手を握った。
「ふ、ふふふ、不謹慎かも知らんけど。こうやってワシら二人きりになれたんや。これも運命ってやつちゃうやろか」
春平の横に座るナリナリが自分の顔に指を差して「僕、いますよぉ」とそっと告げる。
その時、櫻子は右手に持っていたフォークを春平の手の甲に突き刺した。
春平の悲鳴が響く。
「誰が触って良いって言った!!」
「ちょ、ちょっとくらいええやんか。イケズやのぉ櫻子ちゃんは。まぁ、そーいうところも好きなんやで」
「ほんとマジで勘弁してよね」
「なんでやねん。てか櫻子ちゃんいつにも増してプンプンしてるのぉ。なんやあのアホが寮を去ったんがそんなにムカつくんかい?」
「別にッ」
櫻子は大きくカットしたパンケーキを頬張ると力いっぱいに咀嚼した。
「責任取るって何よ。ただ逃げただけじゃん。馬鹿みたい」
「遥か昔に役小角が張り巡らせた超巨大な守護結界の事だよ。今で言う京都を中心に関西がすっぽりと入るくらいのね。勿論その効果は日本全域にまで影響している」
「確か学生の頃に授業で聞いたようなヤツだな」
「あらゆる鬼を寄せ付けない為の結果なんだけど、平安時代に結界が破れそうになり当時の陰陽師である加茂家の一族によって四神の力を持って修復したんだ」
「それが今になって弱ってるって事なのか」
皇が変わらぬ笑顔のまま「再び修復が必要そうですね」と言った。
如月が金色の長髪をかき上げながら口を開く。
「結界が弱まっただけで、神の力が衰え鬼の力は増したんだ。それがなくなったらどうなるのか想像はつくよね……」
「結界が消えちまったらどうなるんだ?」
村雨の問いに吉樹が答える。
「役小角の結界はただの守護結界だけじゃないと言われている」
「つまり?」
「僕も色んな文献を読んだだけでハッキリとした事は分からないんだけど。何かを封印しているみたいなんだ」
「ニャくしょんッ!!」
猫神の鼻から鼻水が垂れる。
可能性として余程考えたく無い事なのだろうか? 陣内が渋そうな表情をしながら重い口を動かした。
「……冥界と人間界の間に亀裂がある。結界はそれを塞ぐ役目があるのじゃ。のう? 猫神よ」
「そうだ。…………ニャくしょんッ!! 結界がなくなれば冥界から数多の鬼が出てくるだろう。外界やいずれは我々が住むこの世界にも魑魅魍魎が跋扈するだろうな……ニャくしょんッ!!」
その言葉を聞いて、何故か吉樹の目が輝く。
「てことはさ。僕達がまだ見た事もない鬼にも逢えるって事だよね。どんな姿形をしてるのかな? どんな力を持っているんだろうか? できる事なら解剖してみたいなぁ、肉体組織の構造とか、あ、そもそも肉体すらないのかも知れない」
「黙れ変態。テンション上がって眼鏡が曇っているぞ」
呆れた様子で罵る村雨の横で、如月が深くため息をつく。
「で、怪伐隊はこれからどうするの? 最高司令官のアンテナは弱っている。先日の応声虫の様な事がまた起これば、更に犠牲が出ないとも限らない。でしょ?」
「参課と四課は活動休止やてッ!! なんでやねん!!」
春平の怒りと困惑の声が食堂に響いた。
「そんな事私に言われても。聞いた事を伝えただけよ」と向かいの席に座る櫻子がパンケーキを口に運ぶ。
「ワシらやっとこさ怪伐隊に入って、んでようやく本格的に活動もできるようになったんやで。そら……漣季の兄貴の事とか、ガリ勉眼鏡の脚の事もあるけどもやな」
次第に語気が弱まる春平の中で、蒼季と慎之介の姿が浮かんだ。
生半可な力では予想外の事態には対応できず、結果犠牲だけが増える。
自分が奮起したところで、全てを守り通せるだけの自信などない。
そして、気がかりなのは昨日に陰陽寮を去った桃眞の事だ。
「てか、さっきから私の真正面に座らないでくれるかな」
「なんでやねん」
「アンタの顔、圧迫感が凄いのよ。圧がさ」
「それだけ熱い男って事やろが。それにワシの気持ちは常に一途に櫻子ちゃんだけやねんで」
そう言うと、春平が顔を赤らめながら櫻子の左手を握った。
「ふ、ふふふ、不謹慎かも知らんけど。こうやってワシら二人きりになれたんや。これも運命ってやつちゃうやろか」
春平の横に座るナリナリが自分の顔に指を差して「僕、いますよぉ」とそっと告げる。
その時、櫻子は右手に持っていたフォークを春平の手の甲に突き刺した。
春平の悲鳴が響く。
「誰が触って良いって言った!!」
「ちょ、ちょっとくらいええやんか。イケズやのぉ櫻子ちゃんは。まぁ、そーいうところも好きなんやで」
「ほんとマジで勘弁してよね」
「なんでやねん。てか櫻子ちゃんいつにも増してプンプンしてるのぉ。なんやあのアホが寮を去ったんがそんなにムカつくんかい?」
「別にッ」
櫻子は大きくカットしたパンケーキを頬張ると力いっぱいに咀嚼した。
「責任取るって何よ。ただ逃げただけじゃん。馬鹿みたい」
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