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5、第一章最終怪異 平安京呪詛編
5-8「真理を救え!!」①
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「ねぇ浩美ッチ」
「何でしょうか?」
「聞きたい事があるんだけどさ」
「その前に吉樹さん」
「なぁに?」
「本当にその格好で寝るのですか?」
布団から顔だけ出す吉樹の頭に、しっかりと固定されたナイトキャップ。
青い水玉模様のキャップの横にはヨッキーのワッペンが貼られている。
さながらその姿は小さな子供の様だ。
「何か変?」とあどけない表情で訊ねる吉樹。
「いつもそれで寝ているんですか?」
「当然じゃないか。そう言う浩美ッチもバスローブのまま寝るのかい?」
「そんなワケないでしょ。後で着替えます」
「でもさ。こうやって浩美ッチと同じ部屋で寝るのって学生の頃以来だよね」
「そうですね」と言い、皇は自分のベッドに腰を下ろすと、長い髪の水分をバスタオルでゆっくりと吸わせてゆく。
「で、吉樹さん。聞きたい事とは?」
「鬼束君の事だよ」
「はい」
「彼が言っていた鬼喰いの力だけど。本当だと思うかい?」
「そうですねぇ。ビジョンの事もありますし、ほぼ確証と呼べる材料は揃っていますが。そうであって欲しくは無いですね……」
「またレプリカだったりしないかな? 十三年前の事があるしさ」
その言葉を聞いた途端、皇の笑顔の奥に張り詰めた何かが走った。
「…………それは分かりませんね」
「あの事。まだ引きずっているのかい?」
二人の心の中で、シラセの言葉が蘇る。
――「守るか……ケッケッケ。友達を殺しておいてよく言うぜ皇ちゃんよ」
「引きずり過ぎて、自分が壊れないか心配です」
「浩美ッチが壊れそうになったら僕が君を守るよ。だって親友だからね」と吉樹は白い天井を見ながら言った。
「頼もしいですね」
「で、もう一つ聞きたい事があるんだ」
その吉樹の声音はさっきまでと違い、幼げな部分が消えていた。
同時にあどけない笑顔が鋭く凛々しい表情へと変わる。
「なんでしょうか?」
「浩美ッチはどうしてあの場所に鬼束君が居る事を知っていたんだい?」
「どうしてそんな事を?」
「あの時、僕に違う道を進むように言ったじゃないか。わざわざ遠回りをね。するとシラセ君に襲わていた鬼束君を見つけた。あれってマグレなのかい?」
少しの沈黙の後、皇はゆっくりと口を開いた。
「マグレですね」
「…………」
「厳密に言えば、桃眞さんを発見したのは本当に偶然です。実は別の者を追っていました」
「だよね。でもそれがシラセ君だってワケでもなさそうだよね」
「はい。シラセさんに会ったのも偶然です」
「じゃあ。浩美ッチが追っていた者って誰なんだい?」
少し思いつめたあと、皇の唇が七回動く。
吉樹の表情に動揺が走った。
唇に指を当てた皇は「トップシークレットですよ」と伝える。
「どうして彼を?」
「どうして彼なのか? それを確認したかったと言うのもあります」
「考え過ぎじゃない? 何かの間違いじゃないのかい?」
「だと良かったのですが。シラセさんを私の精神世界に閉じ込めた時。彼は簡単に私の中に侵入してきました。気づかれていないと思ってるでしょうが、ワザと侵入する隙を与えていましたので」
「罠を張ったって事だよね」
「そうですね。丁度いい人材が揃っていましたから。そして、そのお陰で確信しました」
「何を?」
「彼はシラセさんに会おうとしていた。何かを伝えようとしたのか、聞こうとしていたのかも知れません」
「それってつまり?」
「つまり、彼は八咫烏の内通者の可能性が極めて高いと言うことです」
真理の意識が戻るとそこはビルの屋上だった。
朦朧とする意識の中、体を起こし視線を巡らせるとシラセが室外機の上に座っていた。
「あ……れ? 白瀬……さん?」
シラセは真理に気付くと、地面に着地して歩み寄る。
「やぁ真理ちゃん。もう起きちゃったの?」
「ここは? 私、家に居たのに……てか、桃眞と電話してた……」
当時の記憶が徐々に蘇ると、最後に見た光景は満面の笑みで自分を見るシラセの顔だった。
途端に恐怖と疑問が綯い交ぜになり、真理を支配し始める。
「白瀬さん。なんですか?」
「何がぁ?」
「私をここに連れてきたのは……」
「あぁ? うん、そうそう。俺達ね」
「俺達……!?」
そう言った瞬間、丸太の様に太い腕が真理の首に巻き付いた。
驚き、その腕を引き剥がそうと手を掛けるが鋼みたいに堅い。
そして背後から興奮する男の太い声が聞こえた。
「おーとなしくしろや。おぉーこの子、良い匂いするわ。俺のコレクションにしてぇなぁ」
「辞めてッ!! 離してッ……」
「なぁシラセ。この子タイプなんだけどよ。殺した後、俺の玩具にしていいか? 遊び甲斐がありそうだ」
「好きにしなよ、マイト」
「よっしゃ」
タンクトップ姿のマイトは嬉しそうに真理の頭に鼻を押し付け、思い切り息を吸い込んだ。
鼻腔をくすぐる甘い香りに顔の筋肉を弛緩させながら、えも言えぬ快感に浸る。
「あー……やべ。今すぐに遊んでやりたい」
「駄目だマイト。トオマ君だっけ? アイツをおびき寄せる為の囮だからさぁ」
「さっさとそのトオマってヤツを殺してよぉ。遊ばせてくれよ」
「白瀬さんッ……どうして、なんで桃眞を? お願い助けて……」と目に涙を浮かべ懇願する真理に、シラセは笑みを見せる。
「ごめんなぁ、真理ちゃん。俺もさ優しいバイト先の先輩で居たかったよ、これから先もね。でもさ、君のぉ……彼氏? 友達? まぁ、どっちでも良いけど、アイツがね俺に喧嘩売って来たんだよぉお。つったら買わねぇと男が廃るってもんだろ?」
「ん?」とマイトが何かに気付き遠くの空に目を凝らす。
シラセはそれが桃眞だと直ぐに気付いた。
遠くに見えた桃眞がビルの屋上を跳躍しながらこちらに向かって来る。
怒りに顔を歪ませながら、遂にシラセの目の前に着地した。
「シラセぇぇええッ!!」とがなり声を上げる桃眞。
「桃眞ぁぁああッ!!」と真理が涙を流しながら叫ぶ。
ヘラヘラと笑うシラセが「随分早かったねぇ。驚きだよぉ」と大仰に振舞った途端、一気に距離を縮めた桃眞の拳が頬にめり込んだ。
乾いた破裂音と共にシラセの姿が消え、次の瞬間には遠く離れたオフィスビルの外壁に穴が開いていた。
「何でしょうか?」
「聞きたい事があるんだけどさ」
「その前に吉樹さん」
「なぁに?」
「本当にその格好で寝るのですか?」
布団から顔だけ出す吉樹の頭に、しっかりと固定されたナイトキャップ。
青い水玉模様のキャップの横にはヨッキーのワッペンが貼られている。
さながらその姿は小さな子供の様だ。
「何か変?」とあどけない表情で訊ねる吉樹。
「いつもそれで寝ているんですか?」
「当然じゃないか。そう言う浩美ッチもバスローブのまま寝るのかい?」
「そんなワケないでしょ。後で着替えます」
「でもさ。こうやって浩美ッチと同じ部屋で寝るのって学生の頃以来だよね」
「そうですね」と言い、皇は自分のベッドに腰を下ろすと、長い髪の水分をバスタオルでゆっくりと吸わせてゆく。
「で、吉樹さん。聞きたい事とは?」
「鬼束君の事だよ」
「はい」
「彼が言っていた鬼喰いの力だけど。本当だと思うかい?」
「そうですねぇ。ビジョンの事もありますし、ほぼ確証と呼べる材料は揃っていますが。そうであって欲しくは無いですね……」
「またレプリカだったりしないかな? 十三年前の事があるしさ」
その言葉を聞いた途端、皇の笑顔の奥に張り詰めた何かが走った。
「…………それは分かりませんね」
「あの事。まだ引きずっているのかい?」
二人の心の中で、シラセの言葉が蘇る。
――「守るか……ケッケッケ。友達を殺しておいてよく言うぜ皇ちゃんよ」
「引きずり過ぎて、自分が壊れないか心配です」
「浩美ッチが壊れそうになったら僕が君を守るよ。だって親友だからね」と吉樹は白い天井を見ながら言った。
「頼もしいですね」
「で、もう一つ聞きたい事があるんだ」
その吉樹の声音はさっきまでと違い、幼げな部分が消えていた。
同時にあどけない笑顔が鋭く凛々しい表情へと変わる。
「なんでしょうか?」
「浩美ッチはどうしてあの場所に鬼束君が居る事を知っていたんだい?」
「どうしてそんな事を?」
「あの時、僕に違う道を進むように言ったじゃないか。わざわざ遠回りをね。するとシラセ君に襲わていた鬼束君を見つけた。あれってマグレなのかい?」
少しの沈黙の後、皇はゆっくりと口を開いた。
「マグレですね」
「…………」
「厳密に言えば、桃眞さんを発見したのは本当に偶然です。実は別の者を追っていました」
「だよね。でもそれがシラセ君だってワケでもなさそうだよね」
「はい。シラセさんに会ったのも偶然です」
「じゃあ。浩美ッチが追っていた者って誰なんだい?」
少し思いつめたあと、皇の唇が七回動く。
吉樹の表情に動揺が走った。
唇に指を当てた皇は「トップシークレットですよ」と伝える。
「どうして彼を?」
「どうして彼なのか? それを確認したかったと言うのもあります」
「考え過ぎじゃない? 何かの間違いじゃないのかい?」
「だと良かったのですが。シラセさんを私の精神世界に閉じ込めた時。彼は簡単に私の中に侵入してきました。気づかれていないと思ってるでしょうが、ワザと侵入する隙を与えていましたので」
「罠を張ったって事だよね」
「そうですね。丁度いい人材が揃っていましたから。そして、そのお陰で確信しました」
「何を?」
「彼はシラセさんに会おうとしていた。何かを伝えようとしたのか、聞こうとしていたのかも知れません」
「それってつまり?」
「つまり、彼は八咫烏の内通者の可能性が極めて高いと言うことです」
真理の意識が戻るとそこはビルの屋上だった。
朦朧とする意識の中、体を起こし視線を巡らせるとシラセが室外機の上に座っていた。
「あ……れ? 白瀬……さん?」
シラセは真理に気付くと、地面に着地して歩み寄る。
「やぁ真理ちゃん。もう起きちゃったの?」
「ここは? 私、家に居たのに……てか、桃眞と電話してた……」
当時の記憶が徐々に蘇ると、最後に見た光景は満面の笑みで自分を見るシラセの顔だった。
途端に恐怖と疑問が綯い交ぜになり、真理を支配し始める。
「白瀬さん。なんですか?」
「何がぁ?」
「私をここに連れてきたのは……」
「あぁ? うん、そうそう。俺達ね」
「俺達……!?」
そう言った瞬間、丸太の様に太い腕が真理の首に巻き付いた。
驚き、その腕を引き剥がそうと手を掛けるが鋼みたいに堅い。
そして背後から興奮する男の太い声が聞こえた。
「おーとなしくしろや。おぉーこの子、良い匂いするわ。俺のコレクションにしてぇなぁ」
「辞めてッ!! 離してッ……」
「なぁシラセ。この子タイプなんだけどよ。殺した後、俺の玩具にしていいか? 遊び甲斐がありそうだ」
「好きにしなよ、マイト」
「よっしゃ」
タンクトップ姿のマイトは嬉しそうに真理の頭に鼻を押し付け、思い切り息を吸い込んだ。
鼻腔をくすぐる甘い香りに顔の筋肉を弛緩させながら、えも言えぬ快感に浸る。
「あー……やべ。今すぐに遊んでやりたい」
「駄目だマイト。トオマ君だっけ? アイツをおびき寄せる為の囮だからさぁ」
「さっさとそのトオマってヤツを殺してよぉ。遊ばせてくれよ」
「白瀬さんッ……どうして、なんで桃眞を? お願い助けて……」と目に涙を浮かべ懇願する真理に、シラセは笑みを見せる。
「ごめんなぁ、真理ちゃん。俺もさ優しいバイト先の先輩で居たかったよ、これから先もね。でもさ、君のぉ……彼氏? 友達? まぁ、どっちでも良いけど、アイツがね俺に喧嘩売って来たんだよぉお。つったら買わねぇと男が廃るってもんだろ?」
「ん?」とマイトが何かに気付き遠くの空に目を凝らす。
シラセはそれが桃眞だと直ぐに気付いた。
遠くに見えた桃眞がビルの屋上を跳躍しながらこちらに向かって来る。
怒りに顔を歪ませながら、遂にシラセの目の前に着地した。
「シラセぇぇええッ!!」とがなり声を上げる桃眞。
「桃眞ぁぁああッ!!」と真理が涙を流しながら叫ぶ。
ヘラヘラと笑うシラセが「随分早かったねぇ。驚きだよぉ」と大仰に振舞った途端、一気に距離を縮めた桃眞の拳が頬にめり込んだ。
乾いた破裂音と共にシラセの姿が消え、次の瞬間には遠く離れたオフィスビルの外壁に穴が開いていた。
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