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5、第一章最終怪異 平安京呪詛編
5-9「黒い鬼ふたたび」③
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気を取り直した桃眞は、全身から緋色の光を噴き出すと堕鬼へと殴りかかった。
今更ながらどうやって鬼喰いの力を引き出せたのか? 自分でも分からないが、まだ完全でない事は分かる。
気分が高揚し興奮状態でもあるのだが、力の使い方も分からないのでただ殴る事しか出来ない。
首飾りを外した事でのバースト状態であるならば、力が消える前に堕鬼を倒すしかない。
緋色の尾を引きながら直進した桃眞の右ストレートが、堕鬼を屋上から突き飛ばした。
「うぉりゃッ!!」
ステンレスの柵を突き破り彼方へと消える。
それを追いかける桃眞に続き、レベッカとシラセがビルの屋上から屋上へと飛び移った。
シラセ達にとっては堕鬼に興味は無い。
組織の理念としては退治するべきだが、それどころでは無いのだ。
八咫烏が千年以上もの間探し求めていた鬼喰いの力を持つ者を見つけたからである。
何としてでも桃眞を捕獲し連れて帰りたい。
雑居ビルのネオン看板にしがみついた堕鬼。
衝撃で鉄骨が曲がり看板から火花が散った。
迫り来る桃眞の背後でレベッカの体にまたしても変化が起きる。
解けてゆくセーターのように形が無くなると、一気に拡がり桃眞を捕獲する為のネットとなった。
捕獲銃から放たれたネットの様に桃眞を覆い尽くそうとした時、堕鬼がレベッカを掴むと、真横の雑居ビルの壁を貫通し姿を消す。
暗闇の物置倉庫の中で揉み合う堕鬼と人型に戻ったレベッカ。
レベッカへ馬乗りになる堕鬼が豪腕を振り回す。
呪術が効かない為、今のレベッカには抗う術が無い。
更にマイトを吸収した堕鬼に腕力で適うわけがなかった。
「離せッ!!」と叫ぶレベッカの腹を大きな拳が抉り込んだ。
轟音と共に下層階へと落ちる。
四フロア程突き抜けたところで動きが止まった。
レベッカは瓦礫を押し退けたが胸から下が動かない。
レザースーツがボロボロになり、剥き出しの腹から金属の破片が顔を出す。
体内の粒子金属の損傷が激しく、変体の指示に反応しない。
継接ぎだらけの腕が開こうとするが、皮膚が捲れず代わりに煙があがった。
「クソッ!!」
堕鬼の咆哮が暗闇から響く。
重く芯の太い足音が近づくと、レベッカの髪を掴み持ち上げる。
そして拳の先端から太く長い鉤爪が現れると、レベッカの下顎から脳天に向かって一気に突き刺した。
「あぐぁぁあッ……」
脳天から鉤爪が突き抜け、スパークが発生。
レベッカの目がそれぞれ別の方向へ向き、鼻から黒い体液が止めど無く流れ出す。
絶命したレベッカの四肢がだらんと宙を泳いだ。
金属と肉の塊と化したレベッカを倉庫の奥へ投げ飛ばした堕鬼は、頭上に空いた穴へ顔を向けると、一気に跳躍した。
雑居ビルの屋上でシラセと桃眞の拳が激しく衝突した。
衝撃波が辺りに突き抜け、隣接しているビルの窓ガラスを粉砕する。
「トオマちゃん。ちょっと疲れてんじゃないのぉ? 急激に力が落ちてるみたいじゃん」
「ぅるせーッ!!」
シラセが言った事は間違ってはいない。
桃眞の全身を包んでいた緋色の光が薄まり、漲る力や身体能力が徐々に弱まっている事を桃眞も実感していた。
やはり、鬼喰いの力はバースト状態の気の放出を更に加速させていた様だ。
「お前に興味はねぇんだよ!! 退けよッ」と睨めつける桃眞にシラセは卑しい笑みを返す。
「俺はお前にしか興味は無いんでなぁ」
「キモイッつの」
桃眞はシラセを無視して、堕鬼とレベッカが消えた外壁へ飛び込もうとした。が、シラセの投げ飛ばした呪符が再び桃眞の体を締め付ける。
脚を取られた桃眞が顔から転んだ。
呪符を引きちぎろうと全身に力を込めるが、中々破れない。
このままでは鬼喰いの力以前にバースト状態までが終了してしまう。
「本気の呪力を込めた呪符だからそう簡単には破れないぜ」
「んだと?」
「さぁ、これで大きな土産が出来たし帰るとするか」
「トランスフォーマーの女はもう良いのか? 仲間だろ」
「仲間ぁ? なんの事?」
シラセは壁に空いた穴を見つめながら「もう死んだみたいだね」と表情一つ変える事なく言った。
そして何かを思い出したかの様に手を叩いたシラセ。
「そうだ。真理ちゃんを始末しておかないとね」
「やめろッ!! 真理には手を出すな」
「そう言うワケにはいかないよ。俺達ゃ秘密結社だからさぁ。存在を知られたからには隠滅しないとねぇ」
シラセがそう言った時、爆発音と共に堕鬼が現れた。
顔中を這い回る緑の目から鋭い光線が伸び、地面を削りながらシラセへと蛇行する。
それを飛び退けたシラセは手摺の上に着地した。
「堕鬼ぃ。お前に興味は無ぇんだよ」
堕鬼はシラセの言葉を理解出来る程に知性がある鬼では無い。
一気に飛びかかると、避けるシラセの脚に黒い糸が絡みついた。
指先から発射された蜘蛛の糸の様だ。
堕鬼はシラセを引き寄せるとその逞しく赤黒い体で抱きしめる。
そして次の瞬間、堕鬼の全身がハリネズミの様に黒い棘を突き出し、シラセの全身を貫いた。
「あれ? 痛い、痛い痛い痛い。あれ?」とシラセは身動きが取れないまま、自分が置かれている状況を飲み込めずにいた。
自分が殺されるなど夢にも思っていなかったからだ。
特殊な力と引き換えに長寿を手に入れた。
もう数百年も生きながらえ、死に対する恐怖や危機感が無かった。
呪力を撥ね退ける堕鬼の棘は、シラセが今まで感じた事のない痛みと苦痛を与える。
その時、シラセはマイトやレベッカが成す術なく殺されたワケを知った。
堕鬼の力は自分達の体を強化している呪いを無視して、人体そのものへ影響を与えていのだ。
陰陽の術が効かなかった時点でそれを察するべきだったと後悔した。
だがもう遅いのだ。
堕鬼は容赦なく棘を抜き差しし、その度にシラセの全身から鮮血が飛び散った。
ザクザクと肉を貫く音が桃眞の鼓膜を不快にさせ、その光景に恐怖すら覚えた。
全身の力が抜けたシラセの脚下には血だまりが出来、目から光が消える。
その時、桃眞の全身を締め付けていた呪符が力を失い崩壊した。
この時とばかりに拳を突き出し、最後の力を振り絞って鬼喰いの力を吐き出した。
緋色の輪郭で形成した大きな拳が堕鬼を鷲掴む。
呪われたマッチングアプリの怨霊を喰った時みたいに、コアを潰せるかも知れないと思ったのだ。
「終わらせてやるッ!! お前を……退治してやるよッ!!」
今更ながらどうやって鬼喰いの力を引き出せたのか? 自分でも分からないが、まだ完全でない事は分かる。
気分が高揚し興奮状態でもあるのだが、力の使い方も分からないのでただ殴る事しか出来ない。
首飾りを外した事でのバースト状態であるならば、力が消える前に堕鬼を倒すしかない。
緋色の尾を引きながら直進した桃眞の右ストレートが、堕鬼を屋上から突き飛ばした。
「うぉりゃッ!!」
ステンレスの柵を突き破り彼方へと消える。
それを追いかける桃眞に続き、レベッカとシラセがビルの屋上から屋上へと飛び移った。
シラセ達にとっては堕鬼に興味は無い。
組織の理念としては退治するべきだが、それどころでは無いのだ。
八咫烏が千年以上もの間探し求めていた鬼喰いの力を持つ者を見つけたからである。
何としてでも桃眞を捕獲し連れて帰りたい。
雑居ビルのネオン看板にしがみついた堕鬼。
衝撃で鉄骨が曲がり看板から火花が散った。
迫り来る桃眞の背後でレベッカの体にまたしても変化が起きる。
解けてゆくセーターのように形が無くなると、一気に拡がり桃眞を捕獲する為のネットとなった。
捕獲銃から放たれたネットの様に桃眞を覆い尽くそうとした時、堕鬼がレベッカを掴むと、真横の雑居ビルの壁を貫通し姿を消す。
暗闇の物置倉庫の中で揉み合う堕鬼と人型に戻ったレベッカ。
レベッカへ馬乗りになる堕鬼が豪腕を振り回す。
呪術が効かない為、今のレベッカには抗う術が無い。
更にマイトを吸収した堕鬼に腕力で適うわけがなかった。
「離せッ!!」と叫ぶレベッカの腹を大きな拳が抉り込んだ。
轟音と共に下層階へと落ちる。
四フロア程突き抜けたところで動きが止まった。
レベッカは瓦礫を押し退けたが胸から下が動かない。
レザースーツがボロボロになり、剥き出しの腹から金属の破片が顔を出す。
体内の粒子金属の損傷が激しく、変体の指示に反応しない。
継接ぎだらけの腕が開こうとするが、皮膚が捲れず代わりに煙があがった。
「クソッ!!」
堕鬼の咆哮が暗闇から響く。
重く芯の太い足音が近づくと、レベッカの髪を掴み持ち上げる。
そして拳の先端から太く長い鉤爪が現れると、レベッカの下顎から脳天に向かって一気に突き刺した。
「あぐぁぁあッ……」
脳天から鉤爪が突き抜け、スパークが発生。
レベッカの目がそれぞれ別の方向へ向き、鼻から黒い体液が止めど無く流れ出す。
絶命したレベッカの四肢がだらんと宙を泳いだ。
金属と肉の塊と化したレベッカを倉庫の奥へ投げ飛ばした堕鬼は、頭上に空いた穴へ顔を向けると、一気に跳躍した。
雑居ビルの屋上でシラセと桃眞の拳が激しく衝突した。
衝撃波が辺りに突き抜け、隣接しているビルの窓ガラスを粉砕する。
「トオマちゃん。ちょっと疲れてんじゃないのぉ? 急激に力が落ちてるみたいじゃん」
「ぅるせーッ!!」
シラセが言った事は間違ってはいない。
桃眞の全身を包んでいた緋色の光が薄まり、漲る力や身体能力が徐々に弱まっている事を桃眞も実感していた。
やはり、鬼喰いの力はバースト状態の気の放出を更に加速させていた様だ。
「お前に興味はねぇんだよ!! 退けよッ」と睨めつける桃眞にシラセは卑しい笑みを返す。
「俺はお前にしか興味は無いんでなぁ」
「キモイッつの」
桃眞はシラセを無視して、堕鬼とレベッカが消えた外壁へ飛び込もうとした。が、シラセの投げ飛ばした呪符が再び桃眞の体を締め付ける。
脚を取られた桃眞が顔から転んだ。
呪符を引きちぎろうと全身に力を込めるが、中々破れない。
このままでは鬼喰いの力以前にバースト状態までが終了してしまう。
「本気の呪力を込めた呪符だからそう簡単には破れないぜ」
「んだと?」
「さぁ、これで大きな土産が出来たし帰るとするか」
「トランスフォーマーの女はもう良いのか? 仲間だろ」
「仲間ぁ? なんの事?」
シラセは壁に空いた穴を見つめながら「もう死んだみたいだね」と表情一つ変える事なく言った。
そして何かを思い出したかの様に手を叩いたシラセ。
「そうだ。真理ちゃんを始末しておかないとね」
「やめろッ!! 真理には手を出すな」
「そう言うワケにはいかないよ。俺達ゃ秘密結社だからさぁ。存在を知られたからには隠滅しないとねぇ」
シラセがそう言った時、爆発音と共に堕鬼が現れた。
顔中を這い回る緑の目から鋭い光線が伸び、地面を削りながらシラセへと蛇行する。
それを飛び退けたシラセは手摺の上に着地した。
「堕鬼ぃ。お前に興味は無ぇんだよ」
堕鬼はシラセの言葉を理解出来る程に知性がある鬼では無い。
一気に飛びかかると、避けるシラセの脚に黒い糸が絡みついた。
指先から発射された蜘蛛の糸の様だ。
堕鬼はシラセを引き寄せるとその逞しく赤黒い体で抱きしめる。
そして次の瞬間、堕鬼の全身がハリネズミの様に黒い棘を突き出し、シラセの全身を貫いた。
「あれ? 痛い、痛い痛い痛い。あれ?」とシラセは身動きが取れないまま、自分が置かれている状況を飲み込めずにいた。
自分が殺されるなど夢にも思っていなかったからだ。
特殊な力と引き換えに長寿を手に入れた。
もう数百年も生きながらえ、死に対する恐怖や危機感が無かった。
呪力を撥ね退ける堕鬼の棘は、シラセが今まで感じた事のない痛みと苦痛を与える。
その時、シラセはマイトやレベッカが成す術なく殺されたワケを知った。
堕鬼の力は自分達の体を強化している呪いを無視して、人体そのものへ影響を与えていのだ。
陰陽の術が効かなかった時点でそれを察するべきだったと後悔した。
だがもう遅いのだ。
堕鬼は容赦なく棘を抜き差しし、その度にシラセの全身から鮮血が飛び散った。
ザクザクと肉を貫く音が桃眞の鼓膜を不快にさせ、その光景に恐怖すら覚えた。
全身の力が抜けたシラセの脚下には血だまりが出来、目から光が消える。
その時、桃眞の全身を締め付けていた呪符が力を失い崩壊した。
この時とばかりに拳を突き出し、最後の力を振り絞って鬼喰いの力を吐き出した。
緋色の輪郭で形成した大きな拳が堕鬼を鷲掴む。
呪われたマッチングアプリの怨霊を喰った時みたいに、コアを潰せるかも知れないと思ったのだ。
「終わらせてやるッ!! お前を……退治してやるよッ!!」
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