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憧れの通学路

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ある日の電車内でいつもの指定席が座られていた。だから指定席の前で立って隣の車両をぼーっと見ていた。ちょうど視界に入る辺りに、白いTシャツに薄めの色のジーンズと履き崩した某メーカーの黄色いスニーカーを履いて黒いリュックを背負ってワイヤレスイヤホンをつけてドアに寄り掛かり右足に重心をかけて左足を交差してスマートフォンを右手でいじっている赤の入った茶色い前髪重め短髪の同い年ぐらいか20代前半かぐらいの顔の整った男性が立っていた。幸いにも降りる駅が一緒だった。学校へ行かなきゃいけないのに気持ち悪いとはわかっていたが、ほんの少しだけ尾行してみることにした。見慣れた景色を歩いてく。ずっと歩いてく。これは確実に同じ方向に歩いてる。通っている高校の付属大学の学生なのだろうか。正門を通って友人らしき2人と笑顔で挨拶を交し仲睦まじく建物へ入って行った。反対方向へ歩いて行くと見慣れた仲間が駆け寄ってきていつも通りの一日が始まる。しかし、今日は少し違ったんだ。なぜだか心がときめいて自然とにやける。次の日も、また次の日も、指定席には座らずにただただ前の車両を見つめているだけ。見つめていたらいつか気づいてくれるかな。その奇跡を夢に見て、窓越しに前髪をいじってみる。制服を何気なく直してみる。ほんのり色づくリップを塗ってみる。少し背伸びした気分で同じ通学路を歩くんだ。どうして今まで気づかなかったのだろう。せめて、名前だけでも知りたい。でも話しかけるなんて以ての外で、電車の振動よりも心の方が揺れ動く。
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