アヒル

司悠

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アンドロギュノス

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 ボクは大学へ通いながら脚本を書いている。それに役のつかない役者もやる。いつも名前のない、AとかBとかCで処理されているアルファベットの役者。自慢じゃないけれどほとんど稼ぎなし。
だからコンビニでバイトをしている。いま書いている芝居はタイトル『阿比留(アヒル)』だ。電車の中、ボクは書きかけの台本ひろげる。プロローグを思いめぐらせる。

 幕が上がる、真っ暗闇だ。それは星のない混沌、宇宙の混沌の夜だ。否、夜でもない。宇宙に昼夜の概念はない。何にも見えない恐怖のなかから老婆の厳かな声が聞こえてくる。向こう側からの言葉だ。老婆は死語をあやつる。
≺古代の人間なるは頭が二つに手足が四本づつ、ハクチョウとアヒルが背中合わせにくっついていた。ハクチョウとハクチョウがくっついたででのをアンドロアンドロと、アヒルとアヒルがくっついたででのをギュノスギュノスと、ハクチョウとアヒルが一ガタイとなったででのをアンドロギュノスとそれぞれ言った。古代はアンドロアンドロ、ギュノスギュノス、アンドロギュノスと三種類の人間がいたのだっー の!≻ 
 二十四秒後、舞台中央にスポットライトが当たると、アンドロギュノスの姿が浮かび上がった。頭が二つ、手足が四本、上半身は背中合わせ、片顔は不敵な面構え、高い鼻のハクチョウ男の顔、もう片顔は真紅の口紅を塗りたくったアヒル口の女の顔である。下半身はひとつ、それはハクチョウの優雅な胴体、その下にある脚は、バタバタ、バタバタ、と粗野に動いている。まるで水中を泳ぐハクチョウのように滑稽だ。
「俺はあらゆるモノを凌駕する光輝な存在だ」ハクチョウ男が言う。
「アタイは、神よりも、なお神やし」アヒル女が言う。
アンドロギュノスの台詞のあと、再び暗闇が始まる。やがて暗闇のなか、嬰児の泣声が混沌の底から聞こえてくる。
八秒後に舞台中央のスクリーンに映し出された打ち上げ花火。舞台右手に再び老婆が現れ、花火を拝むように、
≺有難う、有難う、死に土産や≻と呟く。
 花火のあとは儀式のように雷鳴が轟き亙る。舞台中央のアンドロギュノスにスポットライトが点滅。二つに引き裂かれていくアンドロギュノス。やがて光の空間のなか、ハクチョウ姿の男の子とアヒル姿の女の子が現れる。アンドロギュノスの正体だ。
「コォー、コォー、ボクはアンドロギュノスから生まれた」ハクチョウ姿の男の子が言う。
「グワッ、グワッ、アタイはアンドロギュノスから生まれたし」アヒル女が言う。

 人生はツギハギ細工だ。あの場面、この場面、その場面、つなぎ合わせて回れば人生になる。まぁ~るく、まぁ~るくつなぎ合わせて、まるで回り舞台のように。
≺平面×立面=人生、パッチワークに回転を与えると人生になる>アンドロの言葉だ。
≺適度に回れ、適度に回れ。回り過ぎると目がまわっちゃうし>ギュノスの言葉だ。
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