彼岸花

司悠

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1968年師走、その2

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 僕らはモノクロームなバリケードの中にいた。澱みきった生産性のない空虚な議論が飛び交うなか、そこにナベがいた、美沙がいた。神尾は煙草を燻らした。僕も煙草を吸った。饒舌な紫煙が周りのモノクロ感を際立たせた。国家権力、暴力装置、我々の暴力、正当化、自衛隊、違憲、安保、破棄ーー 、言葉の端々が聞こえて来た。
「俺の居場所じゃなか」神尾が呟いた。
 僕らは、居心地の良くない、はっきりとした異和感を覚えた。美沙はナベの隣で僕らの異和感の対義にある自然というもの、一体感というもの、それらの心地良さに心身を置いているかのようだった。僕らの居場所から遠ざかっていく美沙。いつのまにか、ロングの髪をショートカットにした美沙。
「シンパって? 」美沙が尋ねた。
「『シンパサイザー』の略、共鳴者だ」神尾が答える。
「その通り、今出川通りに丸太町通り、文字通り」
「中洲中央通りもある」
「なんのこっちゃ」
 僕と神尾が掛け合っている間に、美沙は探し物を見つけたかのように全共闘のシンパになっていったのだ。アジビラを読み、アジ演説を聞き、バリスト内へ弁当を運び、短期間でシンパとして一端の顔になっていった。
「私の佇まいは此処にある」、「この満たされた気持は何んなの」
何れも美沙の言葉だ。彼女は現実的な居場所をそこに見つけたのだ。
「此処には権力に対峙するリアルな愛がある。今しばらくはここにいよう」美沙は言った。
 美沙は工藤会長とのセンスな関係、また僕、神尾とのナンセンスな関係、そんな中に自分の存在を見出したように、ナベを含めた全共闘とのセンセーショナルな関係の中で現実的な充足感を得たのだろうか? 彼女は僕と神尾が繰り広げるハプニングというメイドアップなフィールドよりも、ナベたちが繰り広げるリアリティのダイナミックな磁場に魅かれ始めたのか。
 僕と神尾は怠け者の偽シンパだった。僕と神尾のなかで喪失感が拡がっていった。神尾が苛立ったようにスパスパと煙草を吹かす。
「美沙は真のシンパに成り下がった」僕は言った。
「私は真のシンパに成り上がったのよ」美沙が答えた。
「俺たちは偽のシンパに成り上がった」神尾は言った。
「あなたたちは偽りのシンパに成り下がったのよ」美沙が答えた。
そうして僕らは教室を出て、階段の踊り場で、ゲバ学生の言葉を聞いた。まるで騒々しい多国語だ。
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