異世界転移女子大生、もふもふ通訳になって世界を救う~魔王を倒して、銀狼騎士団長に嫁ぎます!~

卯崎瑛珠

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エルフの里

第11話 目的を決めよう

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【今それを考えていても、仕方がない。これからの相談をしないか?】
 
 呆然と佇むダンに、ガウルが申し訳なさそうに言う。
 杏葉は頷き、ダンの背を撫でながら優しく告げた。
 
「ダンさん……今は分からないことだらけです。前に進む相談をしたいとガウルさんが」
「ありがとう。そうだな……」
「旅の途中で手掛かりがあるといいっすね」
「はは、ここまで来られただけでも、俺は嬉しいよ」

 すると、リリが目を細めてから、しっぽをゆらゆらと揺らした。

「リリ?」
【ここは、元奴隷だったアタイが偶然見つけた場所にゃ】
【っ! リリ!】
 ガウルが咄嗟に止めるが、リリは笑う。
【いいにゃ。アズハ達には話すんにゃ~】
「そ、んな」
【田舎では、弱い獣人の子供を、奴隷として売る慣習があるんにゃ】
「リリは、弱くない!」

 杏葉が叫ぶと、リリは笑って首を横に振った。

【小さくて弱かったにゃ。運ばれる途中、檻の隙間から抜け出して、偶然たどり着いたのがここにゃよ】
「まさ……か!」

 杏葉の通訳で、ダンが驚愕している。

【そうにゃ。いつ死んでもおかしくないくらいだったけど、ここのお水を飲んだら元気になったんにゃ】

 にひ、とリリは何でもないことのように笑ってみせる。

【それから町を彷徨ってたら、団長に拾ってもらったんにゃ。すばしっこいから、役に立つだろうって。団長は、アタイの恩人にゃよ】

 リリは、風にその髭を遊ばせながら、杏葉の頭を撫でる。

【なんでアズハが泣くんにゃー。ほんと泣き虫にゃね!】
「ずび……ごめん……リリ辛かったよね……」
【仕方ないって、思ってたにゃよー。今楽しいからいいにゃ! だから、もしダンの子がここにたどり着けてたら、希望あるかもにゃって。言いたかっただけにゃ】
「!!」
 リリのセリフを杏葉が訳すや否や、がば、とダンがリリに思わず抱き着いた。
【にゃっはー! だから、さっさと進むのにゃ!】
「おう!」
 
 だが今度は、ジャスパーが浮かない顔だ。
「そんな大事な場所に連れてきてくれて、よかったんすか?」
 不安そうに聞くと、ガウルがニヤリと笑う。
 
【ここは、道も風も複雑で、追っ手を撒くのに最適なんだ。どうせ土地勘などないだろう?】
「確かに。ここどこかなんて、さっぱりわかんねえ!」
「はは、俺たちだけじゃ、来られないな」
【さ、本題だ。これからのことを決めよう】



 ◇ ◇ ◇



 獣人の国リュコスの国王レーウは、分厚く大きな体躯を上等な絹の衣服で包み、象牙色の大理石のテーブルに、憂いた表情で肘を突いている。
 金獅子王と呼ばれるぐらい、立派な黄金のたてがみを持っている彼だが、今それが、怒りで逆立っていた。

「セル・ノア。なぜ余の許しもなく、ガウルを退団させた!」
「……不適任のため、宰相権限で罷免を」
「どこが不適任だというのだ!」
「よりにもよって、人間をっ! 庇いだてしたのですぞ! しかも一緒に逃げているというではないですか!」
「なんの申し開きもさせず、あれほどの武功を持った男を、一方的に放逐したと言うのか! 全く、なんということだ……騎士団が瓦解したら、全ての責任はセル・ノア、貴様に取らせるぞ」
「ですが、人間を庇護するなどと! 重罪です!」
「セル! 貴様というやつは……ならば、道端で出会った獅子が、貴様の目ん玉を食いちぎったとして、余を恨むのか?」
「何を仰いますか、金獅子王! そのようなことあろうはずが。あったとしても自然の摂理ゆえ」
「貴様の恨みとはそのたぐいのものだ。人間全てを、人間というだけで憎んでいる」

 セル・ノアは、黒豹の獣人だ。左目は、幼い頃人間にえぐられて、無い。

「それを抉った奴と、迷い子は、別人だ」
「だがしかし、残虐非道な人間っ」
「その迷い子の行い、余も聞いておる」

 レーウは、深い溜息をついた。

「あの警戒心の強い特攻隊長のリリが、なついているそうではないか」
「……」
「貴様は宰相だ。私情を排せ」
「陛下は甘いですぞ!」

 落ち着きかけたたてがみが、またゴワッと逆立った。

「甘い? そうだな。ならば貴様の残る右目は余が食いちぎってやろう」

 ギリギリと噛み締めるセル・ノアの歯ぎしりが、レーウの耳に障る。

「そうされたくなければ、ガウルを見つけ出して、迷い子も一緒にここへ連れて来い。王命だ。よいな?」
「……」
「よいな!」
「……はっ」

 静かに王の執務室を出たセル・ノアは、衝動的に廊下の柱をその鋭い爪で殴りつけ、三本の大きな傷が走った。――警備の騎士がそれを目撃して、無言で修復依頼を出した。


「はあ……クロッツ」
「はっ」

 隣室から、レーウの執務室にするりと入ってきたのは、犬獣人のクロッツだ。

「あれは、恐らく王命すら無視をする。下手をすると」
「……始末するかもですねえ」
「困ったものだ。ガウルもリリも、代わりなどいないのだぞ」

 ガウルのカリスマ性と戦闘能力、そしてその高貴な立ち居振る舞いは、獣人のこども達の憧れ。いわば英雄なのだ。
 その右腕たるリリは、敏捷性と『感情を読み取る』特殊能力で、諜報活動もこなす稀有な人材。ガウルへの恩義で動いているため、単独で連れ戻すことは決してできない。

「追って、護衛します。私の鼻なら、追いつけるかもしれません」
「任せたぞ。今ガウルを失うのは、手痛い」

 レーウはまた、深い深い溜息をついた。
 
 

 ◇ ◇ ◇



 杏葉たち一行は、念のため町を避けつつエルフの里を目指すこと、そしてエルフから情報を得た後は人間の国ソピアに戻ること、をとりあえずの目的として決めた。
 ソピアに戻れたら、ガウル達は国境で待ち、ダンは冒険者ギルドから報酬を引き出して、手渡す。報酬を手渡すまでは、ジャスパーが獣人国側に残る。

【そこまでしなくても】
 
 ガウルが言うのを杏葉が仲介すると、ダンは真剣な眼差しでガウル自身を見返し、諭すように言った。
 
「いいかガウル。もしも今後、傭兵としてやっていくなら、取引方法は学ぶべきだ。料金を踏み倒すやつなんぞ、山ほどいるんだぞ」
【ぐるる……そうか、わかった】
 
 渋々頷く元騎士団長に、ダンが「人が良すぎて、心配だなあ」と眉尻を下げる。
 これからも色々教えると言うと、ガウルの耳がへにょとしおれ、杏葉は触りたくてたまらなかった。――なんとか我慢した。
 
 それから、馬上でのコミュニケーションのために、簡単なハンドサインをいくつか決めませんか、と杏葉が言うと――
「なあそれ、日常会話でも使えるの、決めねえ?」
 ジャスパーが乗っかって、しばらくワイワイ盛り上がった。

 挨拶や緊急事態の他、飲む、食べる、腹減った、腹いっぱい、寝る、交代、痛い、疲れた、いらない、大丈夫、などを決めた。

【んじゃあ、可愛い、は?】
 リリが、耳をピクピクさせて言う。
「可愛い?」
 杏葉が不思議そうな顔をすると、
【可愛いって、伝えたいんにゃ】
 リリが杏葉に頬ずりをし、杏葉はくすぐったそうにキャッキャッと笑う。
「はは。その、頬ずりで良いんじゃないか?」
 ダンが言って杏葉が訳すと。
【分かったにゃー!】
 リリは杏葉から離れて――

 
「うおっ、えっ!? 俺ぇ!?」
 ジャスパーに、ぐりぐりと頬ずりするリリ。
 
 リリは満足げだったが、ジャスパーはがっくりと落ち込んで、ダンとガウルの両方から、肩をぽんぽんされていた。



 
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