僕が勇者に殺された件。

フジミサヤ

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第2章

14 怖い側近

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「殿下……その者は?」
「ああ、新入生だ。ちょっと具合が悪そうだったから、連れてきたんだ」
「……左様ですか」

 青年の口調は丁寧だが、どこか棘があった。理知的な相貌の青年だ。学園の制服をきっちりと着こなし、姿勢よくたたずんでいる姿は見るからに生真面目で隙がない。
 そして優雅な仕草で一礼し、澄ました表情のまま口を開く。

「……此度の学園への魔物の襲撃ですが、魔法省から役人が派遣されて早急に調査に入るそうです。現在、現場には誰も入れないよう結界が貼られております。恐らく現場に居合わせた殿下が被害者として聴取されるかと思われます。……御面倒ですが、よろしくお願いいたします」
「ああ、ありがとう。エリオット。しかし大袈裟だなあ。怪我ひとつしてないのに」 

 ルカの耳を撫でながら、サミュエルが呑気な口調で礼を言うと、エリオットと呼ばれた青年は相変わらず無表情のまま僅かに眉を上げた。そしてすぐに元の表情に戻ると淡々と言葉を紡いだ。

「なお、本日の入学式についてですが、連絡もなく行方不明となっていた殿下の代わりに、生徒会副会長である私が、在校生からの歓迎挨拶について、急遽、仕方なく、代理を、させていただきました」

 言葉の端々に棘が忍ばせてあるような気がするが、気のせいだろうか。
 サミュエルは肩を竦めた。

「悪かったな。だが制服を汚してしまって着替えなくてはならなかったし、仕方ないだろ?それに体調崩してる子を一人にしてはおけないし、さ」
「……体調崩してる、ですか」

 エリオットは、ベッドに横たわったままのルカに冷たい視線を向けた。

「入学式の最中に、新入生を自室に引き摺り込み、ベッドの上で体調を崩させるような蛮行に及んでいたということでしょうか?殿下」
「……いろいろと誤解されてる気がするが、まあ、いいか」

 サミュエルはやっとルカの耳から手を離すと、ベッドから立ち上がった。

「殿下のお戯れについては、これ以上言及しませんが、公務に支障をきたすことは控えていただかないと困ります。学園行事に私情で遅刻するなど、本来あってはなりません」
「……わかったよ。これでもいろいろ大変だったんだがなあ。まあ、次からは気を付ける」

 エリオットに対して、サミュエルは余裕のある表情を崩さないので、この会話も日常茶飯事なのだろう。二人の気安い間柄が伺えた。

「……あの、僕、戻りますね」

 二人の会話を聞いているうちに、だんだん居たたまれなくなってきたルカは起き上がり、ベッドから下りようとするが、サミュエルに腕を掴まれてしまう。

「ごめん。君にも多分魔法省の役人が事情聴取に来るだろうから。まだ体調も万全じゃないだろうし、それまでここで休んでて」
「え?は?いやいやいやいやいやいや、大丈夫なのでお気になさらず」

 エリオットが睨みを利かせているのが見えるので怖いし、魔法省の役人には会いたくないし、関わりたくない。一刻も早く去りたいのである。ルカはサミュエルの申し出を丁重に辞退した。

「……あの、今日は本当にすみませんでした。それでは失礼いたします」

 深々とお辞儀をしながら一回転してサミュエルの腕を振りほどくと、ルカは脱兎のごとく駆け出し、王子様の部屋から逃亡を図った。

 

***



 

「あ~あ。誰かさんのせいで、逃げられてしまった。せっかく持ち帰ったのに」

 サミュエルは名残惜しそうにルカが去っていった扉を見つめると、傍らに立つ紫紺の髪を持つ青年に向かってぼやいた。

「それは大変申し訳ありませんでした」
 全く申し訳なく思っていなさそうな口振りで、エリオットは慇懃に謝罪した。

「……それより、やはり護衛を増やした方がよろしいのでは?学園全体に結界があるはずなのに、普通に魔物の襲撃があるのはおかしいです。今回のようなことは通常ありえません。……いよいよ、学園内に内通者がいるのかと」

 エリオットは眼鏡をかけ直しながら、淡々とした口調でサミュエルに進言する。

「この学園の結界を破れる人物なんて限られてるし、学園内に内通者は……いるだろうけど。あまり大袈裟にしたくないんだが」
 サミュエルは考え込むように顎に手を当てた。

「……ではせめて、護衛の者をお付けください。殿下がその気なら、私も口添えいたしますので」
「うーん……まあ、考えておく。けど、以前、信頼してた護衛に暗殺されそうになったしなあ」

 サミュエルのぼやきに、エリオットが僅かに眉を寄せた。

「まあ、私が油断したせいなんだがな。次からは精神力の強い者を選ぶから大丈夫だ」

 サミュエルはエリオットを安心させるように微笑むが、エリオットは表情を硬くしたままだった。

「あ、そうだ。ひとつお願いがあるんだが」
「なんでしょうか?」
 
 エリオットは居ずまいを正した。身の安全を第一に考えている彼は、どんな些細な願いでもサミュエルの希望は叶えようとしてくれる。だが、サミュエルが口にした願い事は想定外だったようで、エリオットの切れ長な双眸が大きく見開かれた。

「さっきの新入生のこと、調べてくれるか」
「……そんなに気に入ったのですか?」
 エリオットは呆れたようにため息を吐いた。

「……あの子、魔物に襲われかけてる私を助けようとして、躊躇なく飛び込んできてくれたんだ。……ずっと探してた可愛い子が、空から振ってきて、しかも私の腕の中に落ちてきてくれるなんて、こんな奇跡ってあるかな?もう運命としか言いようがない」
 サミュエルは瞳を輝かせながら、楽しそうに語る。


「運命、ですか」
 サミュエルの発言に、エリオットは呆れを通り越して、もはや無の境地に達していた。「頭沸いてんのか、この色ボケ王子」と突っ込んでやりたかったが、さすがに自重した。
 エリオットのそんな様子を察して、サミュエルは苦笑を溢す。

「まあ、けど複数魔術を無詠唱で同時展開できるほどの魔力量と操作技術の持ち主だ。魔術の発動も早かったし。使い方も独創性に富んでたから、かなり優秀だと思う。そう言った意味でも側に置きたいけど、……だれに師事しているのかは気になるな」
 サミュエルの言葉に、エリオットは眉間に皺を寄せた。


「優秀だからと言って、安易に側に置かないでいただきたい。寝首をかかれでもしたら……」
「……そうだな、世間知らずだから、悪い奴に捕まって、また『洗脳』されてる可能性は否定できないか」

「『洗脳』、ですか?」

 エリオットが訝しげに問い返すと、サミュエルは意味深な笑みを浮かべた。





 

「もしそうなら、手遅れになる前に救ってあげないとな。……過ちを、繰り返さないように」

 
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